エッセイ *恋愛
貴女と二人で[長編]
[5/11]


私がバンドに仮加入して数ヶ月、いつの間にか正式に加入となっていた。

勉強で忙しい時期もあるんだけど、なんとかスタジオ練には曲をちぐはぐでも間に合わせていて。それでもメンバーは許してくれたので、気負わずやってこれたお陰で続けられている。


「そろそろ、練習曲入れ替えようと思うんだけど何がいい?」


リーダーでベースであるミチさんの提案に、私は譜面を持っていたクリープハイプの好きな曲を挙げてみた。


「クリープハイプ好きなんですけど、ボーカル高くて男性ボーカルなのに女性が歌って丁度いいくらいのキーなんですよね。だから前組んでた男性ボーカルのバンドでは出来なかったんですよ」


YouTubeのPV動画や、女性ボーカルでカバーしてある曲を共有グループチャットで私は上げてメンバーに見てもらった。


ドラムのルカさんもこの曲好き! やってみたいっ、という賛同もあり、練習曲としては優先順位は低いけど私が好きであったクリープハイプの曲をガールズバンドでできる事になった。


――――


「きみ、のーー。かーみが、白く なぁっても……」

スタジオ練の合間にボーカルのサチさんが、ふと課題曲でもあるクリープハイプの寝癖のサビを口ずさむ。


「聴いたよ、寝癖」


それだけで私は嬉しくなっていた。サチさんの声に意外と合うな、この曲。
男性ボーカルの曲だからどうなるかと思ってたけど。

ああ、もっと歌って聴かせて欲しくなる。けどなんだか図々しい気がして、遠慮してしまって言えなかった。


「聴いてくれたんですね、クリープこれからできるって思うと嬉しいです」

「課題曲やからね」


ちよっと得意げに、笑っていた。


******

You'll never work alone
あなたといく
どんな罪も
背負ってあげる
道なき道を
歩いていくの
あなたと二人で

******


「ねぇねぇ、今度うちが掛け持ちしてるバンドが主催のイベントあるねんよ〜! 良かったら来て来て〜〜!!」

ドラムのルカさんが、告知ペラを渡しながらスタジオが終わって喋っている。


「もうね、初の主催企画イベントやから気合入りまくりでさぁ、もう個人練入りまくりでヘトヘトよ…!!」

「ああ、お疲れ様だねルカさん。猫ヤンキーのライブ観てて楽しいから久々に行きたいんだけどなぁ!」


リーダーのミチさんが、告知ペラをまじまじと見つめながら笑った。


「あれ…、この日って?」

ミチさんの手に持ったペラを覗き込みながら、キーボードのよしこさんが疑問符を投げ掛ける。

「……ん?」

ミチさんは、暫く考えていたがああ思い出したという具合にハッとする。


「この日、バブル7のスタジオ練だったよね。よしこちゃん」

「んー、そうだと思う」


鞄からスケジュール帳を取り出して日程を確認するよしこさんが、ゆっくりと頷いた。

リーダーでベースでもあるミチさんは、別のバブル7というバンドではボーカルをやっていた。よしこさんもそのバブル7で、同じく掛け持ちでキーボードを担当しているのである。


「残念だねぇ、初の企画ライブ行きたかったのに」

「そうだねぇ…」

「まぁまぁ、仕方ないよ。企画イベントなら、また次もやるからさっ。都合のいい時に来てくれたらいいからね!」


明るくルカさんはフォローしてくれる。
よしこさんと一緒に、ミチさんの持つペラをサチさんも覗き込んでいた。


「4月4日はオカマの日かぁ!」


ペラをよく見ると、イベントのうたい文句が《男は度胸、女は愛敬、オカマは最強!!》となっている。ルカさんの説明によると、3月3日はおひな様で5月5日が端午の節句なので、間の4月4日はオカマの日だとかなんとか。


「面白っ、この日だったら私行けるよ!! ルカさんのライブまた観に行きたいっ」

「本当に? ありがとーーー!! 」


ボーカルのサチさんの申し出に、感極まった声を出す嬉しそうなルカさん。そういえば、サチさんはボーイッシュな格好が多いし化粧っ気もないよなぁ。
だいぶ前にミチさんから、マイノリティー(レズビアン)の人だよとは教えて貰ったけど。


「ねぇねぇ。ひかるちゃんも、もし良かったらライブ来てねっ」


ニコニコと今度は私を誘ってくれるルカさんに、まじまじと考えを巡らせる。確か4月は、新年度が始まったばかりでまだ通信大学の教科書も届いていない状態だから余裕あるよなぁ、とかシフトどうだったっけ? つい最近出たよなぁとか。


「予定確認してみますね、休みだったらいいんですけど…」


ごそごそと私もスケジュール帳を取り出して、改めて確認してみる。すると4月4日はたまたま休みだった。


「あ、私この日休みですね! 私も行きます! 初猫ヤンキー観るの楽しみです!!」

「ヤッター! 嬉しいっ、ありがとうね!!」


本当にルカさんは、人懐こくて可愛らしい人だなぁと、微笑ましく思えた瞬間であった。


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