エッセイ *恋愛
貴女と二人で[長編]
[8/11]



神さま どこへ
行ってしまったの ねぇ

返事はなくて
いつだってそうだよ

Are you still here?


*******



ようやく、トリの猫ヤンキーの出番がもう来る。
垂れ幕がゆっくりとあがりメンバーがスタンバっていた。

皆、服は違うが、それぞれに目を惹く赤い衣装をまとっている。
特にボーカルは、ロリィタのようなフリフリの大きく膨らんだスカートのワンピースに赤の小さいハットで、一際目を引いている。
そんな大胆な服を着こなせるくらいにメリハリのあるボディーラインだった。猫の目ように跳ね上がったアイラインとくりっとした眼が印象的で、注目した視線を捉え見返している。

私たちは最前列の左側からルカさんたちを見守る。猫ヤンキーは男性3人に対し、女性はルカさんとまぃさんの2人。
軽快な音楽と共にメンバーが踊り出す、そしてボーカルのまぃさんが観客を煽った。

ルカさんの眩しい笑顔と、お客さんたちの眩しい笑顔と。隣のサチさんも一緒になって手を振り上げて、夢中になって楽しんでいる。
こちらの視線に気がついてかどうか、私の方を見てまたサチさんは飛び切りの笑顔を向けた。
ほら、猫ヤンキーやっぱ凄くいいでしょとでも言いたげに。


猫ヤンキーのステージも中盤を過ぎ、何やらメンバーがまだ膨らんでない風船を配り始めた。まぃさんの説明によると、これをそれぞれに膨らませて、曲中に好きに振り回すのだそうだ。

それで、曲のサビで合図があった時に風船の口を持っていた手を放し、ステージの方へ一気に飛ばしてしまおうというものだった。

配られて来た風船を手に取った時、いかにも膨らますにはゴムが固そうで、中々骨が折れそうな作業だなと思った。ちょっとでも膨らみやすくするためにゴムの部分をタテにヨコに何度も思い切り伸ばしてみる。


「ひかるん何してるん?」

「えっと……こうすると、ちょっとでも膨らみやすくなるかなぁって」

「ん、膨らましたろか?」

「いえ、こうして伸ばしたので大丈夫ですよ」

「そう?」


サチさんも、私も手に持った風船に思い切り息を吹き込む。しかし、やっぱり伸ばした所で風船のゴムが固くて中々息が入らない。
苦戦して何度も勢いをつけて息を吐き出した時、ようやく少しづつ風船は膨らみ始めたがかなり膨らむペースが遅くじわじわと大きくなる感じだった。
一生懸命膨らませていたが、それを見てサチさんがやや呆れて笑っている。


「ちょっと、代わろか?」

「や、出来ますから。ほら」


思い切り息を吸い込んだ後、また風船をゆっくりと膨らませ始めようとする。しかしなかなか始めの一息が風船に入って行かず、つい前屈みになって力んで吐き出した時ようやくまたゴムが膨らみ始めた。


「ちょっと、全然膨らんでないで…っ」


あまりにも真剣に風船を膨らます私の姿がツボだったのか、結構笑われている。


「ちょっと貸しーや、私が膨らましたるから」

「ちょっとづつ膨らんでますって」

「どこが、全然やん。私もう終わったで? 他の人らもだいたい終わってるで」

「えー…」

「はいはい、ほら。な?」


サチさんの手が伸びて来て、ほら貸してと差し出される。別に、ゆっくりだったら自分でも出来るのにと思うが、そこまで言うならやって貰った方がいいような気がして膨らみ掛けた風船を渡した。

ただ一つ気がかりがあって、この風船は口を付けているので人に渡すのが気が引けた。
しかも、サチさんは確か私と同じように女の人を好きになる人…。考え過ぎかもしれないが、梅酒のグラスに続きサチさんと2回目の間接キスとなる。


ただ1人悶々と恥ずかしい気持ちになりながら、サチさんに手渡した風船があっさりとパンパンに膨れ上がる様子を見守っていた。

膨らんだ風船を、はいっ、といつもの調子で渡すサチさんに、やっぱり私の考え過ぎだと我に帰る。


「ありがとうございます、やっぱボーカルだから肺活量あるんですかね?」

「ふふっ、さぁねぇ〜」


色とりどりの長く膨らんだ風船がライブハウスを埋め尽くして、揺れている。

この風船が一斉にステージ目掛けて飛ばされる時、どんな景色を目の前を彩ることになるのかワクワクしながら曲が始まるのをサチさんと一緒に待つのであった。


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