エッセイ *恋愛
貴女と二人で[長編]
[9/11]


夜の10時半も過ぎ、休日の地下鉄は混み合っていていてサチさんと私は座れずドア付近に立ったまま揺られていた。


猫ヤンキーのライブも終わり、余韻に浸ったまま二人はあれこれとライブについて話していた。


「猫ヤンキーがあれだけ頑張ってるんだから、うちらも頑張らないとね!」

「ですねっ、来月はミースターズがライブですもんね」

「そうだよー」


私がミースターズに加入して、半年が経っていた。新しいギターのアッキーも加入し、ミースターズは6人体制の賑やかなバンドとなっている。


「そういえばグループチャットで次のスタジオ決める話しになった時に、ひかるん引越しするって書いてたけど」

「まぁ、そうですね」

「なんでまた引っ越すことにしたの?」


質問に対して、私は溜め息混じりに喋り出した。


「始めから怪しいマンションなんですよ、うちんとこ。変なおっちゃんが階段の手すりに拾ってきた布団干してたり。夜中に非常ベル鳴らされたり、ガスの栓を弄られてシャワーを浴びれなくなったりのイタズラもあったし。まぁ、職場から遠いので少しでも通勤時間を減らして勉強時間に当てたいのもありますしね。後、長い間付き合ってた元カノがよく家に遊びに来てくれてたんですけど、部屋に居るとなんとなくそれを思い出して嫌になるというか」


引越すべき理由があり過ぎて、私には珍しくやや早口でまくし立てていた。サチさんは話を促すように、何度も頷く。


「そっかぁ〜。因みにどれくらい住んでたの?」

「5〜6年くらいでしょうか……」

「結構頑張ったね」

「利便性は凄くいい場所でしたからね、駅3つ使えるし」

「まぁ、確かに!」


同じ市内住みのサチさんは、分かる分かると頷いた。


「因みに彼女とはどれくらい付き合ってたの?」

「大体4年くらいですね」

「結構長いね、別れてからどれくらい?」

「んー……。去年の夏だから、別れて1年経たないくらいですかね」

「そうなんやねぇ、ふぅ〜ん…」


こちらを意味深に見つめつつ、サチさんはしみじみ首を縦に振った。

自分の事ばかり話すのが嫌になってきて、そういうサチさんはどうなんですか、と聞いた。


「最近そういうのはご無沙汰なのよー。かれこれ4、5年ないかな。もう枯れちゃってるから」


あっけらかんとしていて、恋愛に関してはあまり興味がないし縁がないものと諦めた素振りだった。


「またまたぁ〜っ」

「もう、おばちゃんだからね」

「あははっ、自分でおばちゃんて。若く見えるのに」

「人に言われる前に先に言っとくの!」


一見サチさんは私より少し年上くらいに思っていたが、実は一回り以上離れていたりする。

バンド内で最年長だが、そうも見えないから不思議だ。化粧をしないのがお肌にいいのか何なのか分からないが、肌艶だけ見れば20代くらいに見えなくもない。


「はぁ〜、ひかるんは元カノの思い出がいっぱい残った自分の家が嫌で引っ越すんだねぇ」


何やらニヤついて、さっきまでの話の要点をサチさんがまとめた。その通りと言えばその通りだが、他人に言われてしまえばなんとなくいい気はしない。まぁ、そうですけど。と言ったものの、返事は素っ気ない感じになった。


「で、引越し日ライブの2週間前だけど大丈夫なの?」


サチさんは首を少し傾げ、確かめるように視線を真っ直ぐ送った。


「ん〜……。ちょっと5月は大学のレポートもあって忙しいんですけどねぇ。気合いで頑張りますよ、私にとってミースターズでは初ライブですし」

「えー、大丈夫? 心配だなぁ」


サチさんは腕組みをしてみせ電車のドアに少し寄り掛かって、体勢を崩した。
小柄な方である為、腕組みした所で凄みが出るとか威圧的な空気を感じさせることはなかったが、不信感みたいなのは滲み出ていた。

それに、何とかしますって、とヘラヘラ笑って応じた。


「まぁ、大変だとは思うけど頑張ってね!」

「ありがとうございます、頑張りまーすっ」


これから引越しの準備に、課題のレポート、一番大切なライブまでの詰め作業。この一ヶ月は怒涛の日々となっていくのは間違いない。

これだけ一ヶ月に予定を詰め込んでしまった私自身バカだとは思うけど、疲れ果てたとしても乗り切るしかないという覚悟はある。


ガタガタと大きい音をいつものように響かせる地下鉄御堂筋線の電車は、梅田駅を目指し私たちを運んでいった。


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