さよならの匂いが鼻につく
「緑谷、最近オーバーワークだぞ」

合同捜査で一緒になった轟くんは、相変わらずのクールな表情で僕にそういった。
事件は即座に解決して、これから各々の事務所に戻るところだったので、緊迫した状況から少し雑談でも、という空気に切り替わっていた。

「ははは…このあいだ麗日さんにも同じこと言われたよ…」
「この1年、やけに現場直行率多いよな。有給ちゃんと消化してんのか」
「……」
「してねえんだな」

轟くんは呆れたような顔をする。

「このままじゃ身体が持たねえぞ」
「うん、分かってるんだけどね…」

分かってるんだ。
この1年、ろくに眠れてない。
身体が毎日重い気がする。
でも。

「でも、休んでると、余計なこと考えちゃって……」
「余計なこと?」
「うん」

1年前、彼女のなまえちゃんと別れてから、僕はそのことを考えないようにしてきた。
でも非番になると、それがすぐにダメになる。
朝起きて、もしかしたらと僅かな期待を込めてスマホをチェックしたり。
なまえちゃんの好きなドラマがやっていると、録画しなきゃとリモコンを取ったところで、もう僕の隣にはいないのにと我に返ったり。
なまえちゃんのいない生活に慣れてない自分がいた。

「その余計なことって、緑谷にとってはすげえ大事なもんだったんだな」
「…そうだね」
「こんなになるまで働かねえと忘れられないくらいなんだもんな」
「うん。ぶっちゃけ、今も頭の中がそれでいっぱいなんだ。助けた人の顔を見ると、1番にその子が浮かぶくらい」

僕にとって、なまえちゃんは平和そのものだった。
どんなに助けた人から感謝されても、1番に見たいのはなまえちゃんの笑った顔で。
事件を解決してから速攻でなまえちゃんのマンションに行く。
なまえちゃんが「出久くん…!」と会いに来た僕を見て安心そうに笑うその顔でようやく、ああ、平和だな。街の安全を守れたなって思えるんだ。

だから、なまえちゃんと会わなくなって、いくらヴィランを倒しても、色んな人から讃えられても、なまえちゃんはどうしてるかな。ちゃんと危険のない安全な場所で暮らせてるのかな。
ヴィランとは無縁のところで、笑っていてくれてるのかな。
って心がザワザワするんだ。

他の誰でもだめなんだ。
キミじゃなきゃ。