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魔法学園:バレンタイン
2021/02/14(Sun) 創作小説:現代アクション
 今日はバレンタインデー。元は聖人ウァレンティヌスの記念日だけど、製菓会社の企画で恋人の記念日として広まった行事。
 前世と同じ行事があることに意外性を感じるが、それはそれ、これはこれ。

「恭佳、ハッピーバレンタイン!」

 登校してすぐ、恭佳にバレンタインチョコを渡した。
 綺麗な赤い包装を施したそれに、恭佳は目を丸くした。

「えっ? ……あっ、そういえば今日ってバレンタインデーじゃない」
「まさか、忘れていたのですか?」
「そういう凪は?」
「私は一緒に作ったので知っています。はい、これは私から」

 他人にはすまし顔が多い凪だけど、友達の前では表情豊か。
 特に今回はとても楽しそうな笑顔で、恭佳にピンク色の包みを渡す。
 すると、恭佳はショックからわなわなと震えた。

「……確か、ホワイトデーは三月だったわよね」
「うん。三月十四日」
「倍にして返してあげる。覚悟してなさい」

 闘志に燃える目で私と凪を涙目で睨む。
 人から見れば怖い表情だけど、理由を知っている私達には可愛く見えてしまう。
 自然と笑みがこぼれると、恭佳はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「有珠?」

 不意に、T組に在籍するジョット・レオネッティが声をかけた。

「どうしてここに……って、それは……」
「バレンタインチョコ。恭佳に渡したくて」

 笑顔で言えば、ジョットは衝撃を受けた顔で固まった。

「ジョット?」
「……俺には、ないのか?」

 ……垂れた犬耳が見えた。幻覚? 疲れているのかな?
 まぁ、そんなことより。

「もちろん、はい。ハッピーバレンタイン」

 鞄の中から、もう一つの包装を取り出して渡す。
 途端、ジョットはシルバーの瞳を輝かせて受け取った。

「確かホワイトデーは三倍返しと言ったか」
「人によってはだけど……私は別にいいよ?」

 これはほんの気持ちだし。
 そう思ったのだが、ジョットは私の髪をひと房取り、唇に当てた。

「俺がしたいんだ。迷惑か?」
「……迷惑、じゃ、ない……デス」

 ……顔が熱い。きざな行動と笑みのせいだ。
 ジョットの不意打ちに心臓がうるさく鳴って、片言で返した。

 枯れていると思っていたのに、私も乙女だったのね……と漠然と思うのであった。


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