私の女神様――花咲有珠と出会ったのは十年前のこと。
適正する属性がなくて、魔法が使えない。そんな絶望から逃げるために科学の道に進んだ私に光をくれた。
無属性の存在。錬金魔法と
有珠のおかげで、私の世界は一気に明るくなった。
父さんは聖來魔法学園の理事長だから、魔法を発見した翌年に編入できた。
最初は大変だったけど、幼馴染の魁の支えもあって頑張れた。
いつしか彼に恋心を抱くようになって、それを中等部の二年生の頃に自覚した。
本当は告白するつもりはなかった。けど、人気者の魁はいろんな人から告白されて、凄くつらくなった。それを初等部にいる有珠に相談したら……。
「言わない後悔より、言って後悔する方が、すっきりすると思う」
悩みながら答えてくれた有珠に衝撃を受けた。
確かに言わないまま終わってしまったら、魁への気持ちを引き摺ってしまう。言って終わってしまったら、次の恋を見つけることができる。
やっぱり有珠は女神様だ。私の未来を広げてくれる
四歳も年下の女の子を
彼女は、私の希望だから。
有珠の言う通り当たって
すると、なんと魁も私のことが好きだった。
両片想いだったことを知って恥ずかしくなったけど、とても幸せだった。
でも、魁に恋人ができたと広まっても、告白してくる女の子はいる。
私よりずっと可愛い子や綺麗な子に変わってしまったら、私はどうなるのだろう。
不安が頂点に達して、時々泣くようになった。
このままじゃあいけないと解っていても、どうしても行動に移せない。
だから、今回も有珠に頼ることにした。
その結果が、これだった。
「魁っ! どこまで」
「黙ってついて来てくれ」
私の言葉を
不安で泣きたくなった。けど、到着した場所で、その気持ちが薄れた。
そこは、私が告白した場所――展望台だった。
エレベーターで一番上まで行って、広々としたテラスに出る。
ここはあまり知られていない穴場スポットで、学園都市の街並みと奥にある森と大きな川を一望できる素敵な場所。
誰もいないそこにはいくつかのテーブルと椅子があって、奥にはベンチがある。
魁は、特等席のベンチに行って、一緒に座った。
「すまなかった」
「……え?」
突然の謝罪に頭が追い付かない。
そんな私の反応に、魁は切なげに目を細めた。
「不安にさせたらいけないと思って、告白されたことを話さなかった。……そのせいで杏奈が傷付くなんて思わなくて……」
「そんな……私の方こそ頼り方が解らなかったせいで、魁を不安にさせちゃって……」
魁が悪いんじゃないと言おうとしたら、彼は苦笑した。
「有珠の言うとおりだな」
「……有珠の?」
「あの子は杏奈のことを理解している。昨日相談に乗ってくれた時なんて、杏奈は俺が謝っても自分が悪いって抱え込むと言ったんだ。……本当にその通りだ」
有珠が、私のことを理解してくれている……?
そんなの昔から解っていたことだ。でも、解っていなかったのかもしれない。
有珠はここまで私達を思い遣ってくれている。それが痛いほど感じられた。
「
……シスコンの魁が、予想できなかったことを言った。
でも、最愛の妹より私を理解したいという気持ちを知って、胸の奥が熱くなる。
「……私だって、有珠に妬いたことがあるよ」
「有珠は最愛の家族だから。……けど、最愛の人は杏奈だ」
私の手を握り締めて、強い眼差しで告げた魁。
「私の最愛の人は……魁、だよ……」
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙をそのままに告白すると、魁は眦を下げて微笑む。私から眼鏡を奪うと膝に置いて、空いた手で涙を
「今年の春休み、一週間くらい旅行に行かないか?」
「旅行?」
「資金的に国内になってしまうが……二人きりになりたいんだ」
魁の言いたいことを理解して、ボッと顔が熱くなる。
それって……もしかして、そういう……?
心臓が
魁はそんな私に小さな笑みを浮かべ、私の顔を軽く上げて――唇を重ねた。
温かな感触にドキドキして、静かに離れる魁を見つめる。
「卒業したら結婚しよう。いい家を見つけて、そこで二人で暮らそう」
それはプロポーズだった。
私は魁と結婚したいと思っている。そんな私と同じ気持ちを、魁も持っている。
「杏奈。俺と結婚してくれますか?」
――あぁ、これが幸せなんだ。
「――はい」
嬉し涙が溢れて、また
そんな私の笑顔に、今度は穏やかな笑顔を見せた魁が、もう一度口付けを落とした。
昔の私に教えたい。私にも、幸せな未来があるんだって。
この幸福を与えてくれた魁、そして有珠に、心から感謝した。