変化を告げる転校生



 満開に咲きほこる桜が映える青空の下、広大なグラウンドで進級式がおこなわれた。
 ずっと直立姿勢だったから、終わった途端にぐったりする生徒も出てくる。

 私はお父さんと総合武道場の人達にきたえられたから苦ではなかった。
 恭佳も凪も平気そうだったけど、疲労感はぬぐえなかったようで愚痴ぐちった。

「せめて椅子を並べて欲しいわ……」
「ですね……夏は特に」

 夏の長期休暇の終業式は、地獄か、と文句を言いたくなる。炎天下の中で帽子も日傘もなく直立姿勢をたもたなければならないから。

 恭佳と凪の愚痴に同感から相槌あいづちを打ち、一緒に高等部の教室へ向かう。
 高等部は中等部と違う校舎だから、迷うことはない。
 さっきまで棒立ちだった足で階段を上ると、ほとんどの人が肩を上下に揺らして呼吸を整えていた。私と恭佳は平気だけど、凪は周囲と同じく口からたましいが抜けかけていた。

「あともう少しだから、頑張ろう?」
「……平気な有珠さんと恭佳さんが羨ましいです」
「鍛えられたからね」

 クスクスと笑って、凪の手を優しく引いて出世クラスであるT組に送った。

 私は安定のU組。一クラスにつき四十人の生徒が在籍し、席は大学のように段々となっている。自由に座れるから、私は窓際の三段目に座った。
 席に座って頬杖ほおづえをついた状態でうたた寝していると、担任の教師らしき男性が教室に入ってきたことに気付く。

 毛先が少し跳ねている耳を隠すほどの黒髪に、切れ長な青藍せいらんの瞳。引き締まった顔立ちは精悍せいかん。しっかりした男性特有の体格。秀麗しゅうれいさの中に男らしさを感じさせる美貌の持ち主だ。

 見目麗みめうるわしい男性教師に、クラスの女子生徒達は皆一様みないちように頬を赤らめて見蕩みとれていた。
 確かに美人さんだけど、美形揃いの家族を見ている私には心さえ動かない。
 やっぱり両親と兄と弟のような絶世の美貌を見ていると免疫力めんえきりょくがつく。

 しみじみ思っていると、彼の隣に見慣れない女子生徒がいた。

「進学おめでとう。今年から君達の担任を務める、榊原さかきばらけい。担当は魔法科の実技。この一年間、よろしく頼む」

 榊原先生は、よく通る美声で自己紹介をした。

「そして今年、外部の女子学園から編入することになった、西園寺さいおんじ沙織さおりさんだ。不慣れなことも多くあるだろうから、みんなもサポートしてやってくれ」

 続いて片手で隣にいる女子生徒を示し、紹介した。

 西園寺沙織という少女は、一言で表すなら美少女だった。
 波打つほど柔らかな髪は栗色くりいろ。ぱっちりとした二重で大きな同色の瞳が強調され、可憐とも華麗とも見て取れる美貌を顕著けんちょにさせる。
 体型もモデルのようで、お洒落しゃれな女子制服を着こなしている姿もあって、芸能人か何かかと思ってしまう。恐らくクラス一の美少女となるだろう。

「西園寺沙織です。今年から、よろしくお願いします!」

 軽く会釈えしゃくして笑顔を見せる西園寺沙織。その笑顔に、所々から感嘆の吐息といきが聞こえた。

 西園寺沙織は下から三段目、廊下側から二つ目の席の右側に座った。
 あとは高等部からの説明や教材の配布などを行い、進級初日が終わった。



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