「あーぁあ。本当……残念過ぎる」
公園から離れると、ゆっくりとした足取りで歩いている私は、胸中に溜めたもやもやした
健斗と会えたのは嬉しかった。けど、会えた時間は約三十分。
溜め込んだ苦悩を吐き出させることに成功したのはいいけど、お茶会の続きが外野のせいで中断せざるを得なくなった。
兄さんとも滅多に会えないのに、会える時間を
空気を呼んで欲しいというか……とにかく邪魔しないで欲しかった。
「夕飯まで……三時間か。長いなぁ……」
学園側から支給される端末のデジタル時計を見て、小さくぼやく。
仕方ない。ここは魔法の筆記試験のために復習でもしようかな。
この世界での私は、前世の『私』と違って頭脳明晰。特に魔法科は得意中の得意分野。
前世からファンタジー系の書物が好きで、自分もいろんなファンタジー系の小説を趣味で執筆していた。そのおかげで現代ファンタジーな今世では、魔法に関して頭の回転が速く、更に独創的な想像力で新しい魔法を多く発見した。
攻撃魔法を使えない光属性で思い悩んでいた健斗のために
こういった経緯もあって、周囲から魔法に関しては天才的な才能の持ち主と言われている。
前世の知識って本当に凄いなぁとしみじみ思うよ。
「――!」
不意に、左側から魔力を練り上げる気配を感じた。
これは……水魔法?
驚いて顔を向ければ、教室で私に厭味を言ってきた女子生徒の三人組がいた。
光加減でダークブラウンに見えるナチュラルブラックのボブヘアの子は、可もなく不可もない程度で整っていてスレンダー。
毛先にアイロンをかけている焦げ茶色の髪の子は、制服の
茶色に染髪した子は、ちょっとぽっちゃり気味なのか頬が丸く、足が太い。
今時の女子高生らしい格好だけど、いろんな意味でバランスの悪い組み合わせだ。
私に攻撃を仕掛けたのはボブヘアの女子生徒。真面目そうな
「……授業と大会と訓練場以外で、魔法を使ったらいけないんだけど?」
「うるさいっ!」
「しかも人に向けるなんて言語道断。退学になりたいの?」
「うるさいって言ってんのよ!」
いや、そっちの方が
無意味に吠えるボブヘアの女子生徒。彼女達の行動は何となく予想がつくため、溜息が出る。
「
「っ……あんたのせいで、うちらは
「そーよ。これは正当な仕返しなんだから」
……
人を傷つけておきながら更に傷つけて罪を重ねるなんて、幼稚以上に
「くだらない」
本当に下らない。こんなことに付き合わされるなんて腹が立つ。
さっきのこともあるから、余計にイライラする。
不快な気持ちが込み上げてきて、衝動のまま吐き捨ててしまった。
「はあ!? 生意気言ってんじゃないわよ!」
焦げ茶色の髪の子がヒステリックな声を上げて、右手を突き出す。
『火よ、我が敵を撃て=I 【ファイアボール】!』
簡略化された呪文が完成して、手のひらに生じた火球が放たれる。
彼女達の魔法は技術自体が未熟だ。
ただ払うのでは火傷するので、手に魔力を
「なっ!? 何で! 何で消えるのよ!?」
「消えたんじゃなくて、払ったの。というか、この程度でよくU組にいられるね」
V組に在籍するレベルの攻撃力だ。戦闘能力としてもそうだけど、冷静に考える力もない。
「こんなことを仕出かすなら、一般組に入るべきなのに」
「このッ……! 地よ、――=v
ぽっちゃり系の女子生徒が唱える直前、トランス状態に近い感覚で魔力を体外に放出する。
これで、干渉魔法の準備が整う。
今回の干渉魔法は、世界式に干渉するのではなく、相手の魔法そのものに干渉する。
この技は難しいのだが、コツを覚えれば簡単だ。
まず、相手の魔力を記憶する。これは私の目と肌で感じ取れば問題ない。
次に、魔法の支配権を奪う。これが一番難しい技術。相手の支配権を奪うために、私の魔力の一端と繋がらないといけないからだ。
訓練し始めた当初は、魔力を周囲に放出し、範囲内に入ったところで支配権を
でも、今では世界式に干渉して範囲を指定することで、音波のように広げた魔力の波に引っかかれば
属性そのものを借りると、相手は副作用でその属性を使えなくなる。発動前の魔法も同様だ。
でも今回は、普通に撃ってくる魔法を奪い取るだけだから、魔法を使えなくなることはない。
いざ、超音波のような魔力周波を体外に放出すると……加減を間違えてしまい、私を中心に風を起こしてしまった。
ぽっちゃり系の女子生徒は乱れた髪に驚いて口を
いや、そこまで強くないけど。ていうか……。
「スカート短くしすぎじゃない?」
「うっ、うるさい
カッと顔を赤くして水の矢が指先から放たれる。
けど、もう私には届かない。
――〈
脳内で唱えた瞬間、ボブヘアの女子生徒の魔法に干渉した途端に水の矢が崩れて消えた。
「……は? な、何で……?」
得意な魔法だったのだろう。失敗する確率の低い魔法でもあった。
だから彼女は、私が何かしたのだと感じて怒鳴ってきた。
「あんた、いったい何したの!?」
「何って……私、一切呪文を唱えてないでしょう? ……ねえ? 生徒会長さん」
公園を出た時からついて来て、ずっとそこにいた男子生徒。
ジョット・レオネッティ。生徒会の現会長。
顔を向ければ、レオネッティは
「いつから気付いていたんだ」
「最初から。それより、彼女達の
話を切り替えて三人組に目を向ければ、彼女達の真っ赤だった顔が青ざめていた。
違反行為を自覚していたのに、見つかって処罰される覚悟をしていなかったようだ。
本当に……甘ったれた
恭佳が使う
もう一度レオネッティを見れば、彼は
「X組に降格だ」
睨みつけられた三人組は引き攣った声を漏らしたが、次に出てきた判決に
「ちょ……ちょっと待ってください! 最初はこの女が……!」
「彼女のクラスメート……西園寺沙織から聞いたが、最初に突っかかったのはお前達だそうだな。名前も聞いている。担任だけではなく保護者にも報告させてもらう」
閉鎖的な学園だけど、こういった子供の失態は保護者に伝えられるようだ。
これなら良い薬になるかな、と思ったが、三人組は私を睨んでくる。
……これ、また厄介事が起きそうなんだけど。
「あぁそれと、彼女は花咲魁先輩の妹だ。あの人は妹に危害を加えるようなら女でも
うわっ、えげつないパターンになった。私まで口元が引き攣ってしまったよ。
三人組は