幼馴染とお茶会



 凪とともに公園に到着すると、恭佳と二人の少年少女がいた。

 真っ直ぐな白い髪に、青空のような鮮やかな青色の瞳が綺麗な、中性的な美少年。

 柔らかな黒髪に、少年と同じ青色の瞳が特徴的な、可憐な美少女。

 身長は少年の方が数センチ高いが、共通点は寝癖のようなアホ毛が、ピョンと立っている。

 少年は澪標みおつくし深月みづき
 少女は澪標深幸みゆき
 現在、中等部二年生でありながら風紀委員長と副委員長をになう、双子の兄妹だ。

「お待たせー」
「珍しいわね。五分も遅刻するなんて」

 時間厳守げんしゅな恭佳に苦笑する。
 直後、深幸が輝かんばかりの笑顔で走ってきて、飛びついた。

「有珠お姉ちゃん!」
「わっ……と、久しぶり、深幸」
「久しぶりっ」

 とてもいい笑顔で挨拶する深幸。初対面の頃では考えられない明るさだ。

 初めて出会った頃、この兄妹は心に深い傷を負っていた。幼いながら苦痛を与えられ続けて、私のお父さんが助け出した頃には、すでに心をざしていたから。
 そんな二人が、私達に心を許して笑顔を見せてくれる。それがどれだけ奇跡的なことなのか、過去を乗り越えて成長した二人を見て感慨深かんがいぶかくなった。

「深月も久しぶり」
「お久しぶりです、有珠お姉様」

 深幸は「お姉ちゃん」と呼んでくれるけど、深月は「お姉様」と呼ぶ。
 最初は「お姉様」は抵抗感があったけど、今では慣れたものだ。

「本日は、先日の恭佳さんへのねぎらいと、深月君と深幸ちゃんの就任祝いのためにお菓子を作ってきました」
「本当!?」「本当ですか!?」

 凪が言うと、同時に歓喜の声を上げた澪標兄妹。
 輝いている双子の瞳に、私は笑顔でうなずく。

「別に気遣わなくていいのに。ありがたくいただくけれど」

 苦笑する恭佳は、公園の中で一番大きなログテーブルの所へ行く。
 真っ先に行動するあたり、とても嬉しそうなのが見て取れる。

 私と凪は顔を見合わせて笑い、準備を始める。
 凪が紙皿とプラスチック製の食器を並べているところでパンケーキを盛り付ける。林檎のコンポートのおかげで何もつけなくても美味しいけど、今回は特別にヘルシーな特製ホイップクリームをえる。飲み物は紅茶とリンゴジュースの二種類を用意した。

「深月と深幸はリンゴジュースでよかった?」
「あ、はい! 僕達、紅茶が飲めなくて……」
しぶいのが苦手なんだっけ」

 恥ずかしそうに頷く深月。その表情が可愛くて、つい頭をでてしまう。
 私とほぼ同じ身長だけど、相変わらずの可愛らしさになごむ。

「わあ! このパンケーキ、懐かしい……!」

 深幸が嬉しそうに身を乗り出す。
 喜んでくれて何よりだ。準備が終わると、私は温かな紅茶を入れた紙コップをかかげる。

「恭佳の慰労いろう、そして深月と深幸の風紀委員長・副委員長の就任を祝して」
「「乾杯!」」

 私の祝辞と双子が音頭を唱え、お茶会が始まった。

「ん〜っ、美味しい!」
「本当に久しぶりだね、有珠お姉様のお菓子は」

 深幸と深月の感想に安堵して、私もナイフとフォークを使ってパンケーキを食べる。
 うん。作った時と同じくジューシーだ。

「洋梨じゃないけど、同じくらい美味しい。この前もそうだけど、腕、上げたわね」
「ふふっ、ありがとう。今回は凪も手伝ってくれたの」
「林檎を切っただけでしたが……」

 恭佳の感嘆に言葉を返すと、凪が恐縮きょうしゅくする。
 凪も頑張ってくれたのはそれだけじゃない。

「焼くのも手伝ってくれたでしょう? すごく上達していたし」
「そ、そうですか? 嬉しいです」

 ほおを淡く染めてはにかむ凪。

 つられて私もはにかんで、パンケーキを切り分けて食べる。

 ここであることを思い出して、紅茶で口の中の食べかす嚥下えんげした。

「そういえば二人共、風紀委員長と副委員長の仕事はどう?」

 たずねると、深月は苦笑、深幸は渋面じゅうめんを作る。

「大変……ですね。生徒会長の健斗君との連携は取れていますが……」
「三年の先輩達、深月のこと馬鹿にするの。光属性は攻撃魔法のレパートリーが少ないから、弱いって決め付けて……」

 確かに光属性の攻撃魔法は少ない。実際、私が健斗のために考えるまで、回復・治癒などといった支援魔法ばかりの印象が強かった。
 健斗も今年で中等部だから、今月から魔法対戦大会に出場できる。けど、それまで光属性の攻撃魔法は、光属性保有者である深月が披露ひろうしていた。

 いつも健斗のために作って教えていたけど、今回は深月に贔屓ひいきしてあげてもいいかな。

「深月、魔力操作はきわめた?」
「有珠お姉様ほどではありませんが、放出と圧縮と遠隔までなら」
「それじゃあ、前に教えた【光線銃】に追尾機能を加えて敵を追撃するとか、光の剣を作ったりするのはどうかな? 光の剣を媒介ばいかいに、光のやいばを飛ばす……とか」

 この前に考えた光系統の技の知識を披露すると、ぽかんと深月と深幸は口を開いた。恭佳と凪は私の想像力に慣れているから、楽しそうに聞いている。

「そ……そんなことできるの?」

 戸惑う深幸に、私は頷く。

「昨日、凪に雷魔法の対策を教えた時に、協力してもらったの。ねらった相手に当たるまで消えない追尾機能を組み込んでみたら成功したよ」
「ぜひ教えてください! 光の剣と、その応用も!」

 身を乗り出して食いついた深月は瞳を輝かせた。
 私はいい笑顔に頷き、魔法の中からノートと筆記用具を取り出した。


 ――【時空魔法】


 無属性の派生である時間・空間属性を掛け合わせた固有魔法。
 私が最も秘密にしたい、時空間の概念がいねんを操る強力な魔法。

 世界を操ると言っても過言ではない神の領域をおかす魔法だから、知っている人はごくわずか。今のところ、兄弟と杏奈姉さん、恭佳と凪、深月と深幸の七人だけだ。

 これを使っている間は魔力の消費量が半端ない。魔力量が多い私でなければ危険だ。
 普段の魔法に使う魔力が1≠ネら、時空魔法は5〜10≠消耗しょうもうする。

 けれど、一番便利な技【時空宝庫】はそんなに魔力を使わない。使うとしても作成する時だけ。
 この【時空宝庫】は時間が停止した亜空間で、常に作られている状態を維持している。
 物の出し入れは念じるか唱えるだけで簡単に収納できるし、さらに前世のゲームの知識が影響をおよぼしているのか、目録リスト機能と整頓ソート機能がついている。

 本当に便利な魔法を編み出して良かった。これなら食べ物もくさらないし。前世の知識様様だ。
 とはいえ、今は光属性の攻撃魔法を教えなければ。

 ノートに概要がいようを書いて、呪文を考える。呪文は想像しやすい方がいいと思って、できるだけ短文を心がけた。呪文は語彙力ごいりょくが物を言うから、国語が得意で良かったと心底思う。

 書き終わるとノートの切り取り線に添って破り、深月に渡した。

「はい」
「ありがとうございます! ……難しそうですね。ですが、やり遂げてみせます」
「うん。無理しない程度で頑張ってね」

 深月は嬉しそうに頷いて、紙を丁寧ていねいに折りたたんでポケットにしまった。

「あれっ、姉さん?」

 そんな時だった。健斗の声が聞こえたのは。
 顔を向けると、健斗と、彼の同級生であり中等部の生徒会に所属する少年が二人いた。

 太陽の光を浴びると茶色みを帯びるナチュラルブラックの髪に、やや鋭い黒茶色の瞳でクールビューティーな印象を与える美少年。

 健斗より少し高くて美少年より低めの身長の少年は、天然パーマがかかった茶髪に同色の瞳を持つ、快活かいかつそうな二枚目。

 前者は泉沢いずさわ誠也せいや。中等部の生徒会副会長。
 後者は久保井くぼい宗太そうた。中等部の生徒会書記。
 健斗にとって一番心許せる親友だ。

「あ、健斗。誠也君も宗太君も久しぶり」
あねさんも久しぶり。もしかしてお茶会っすか?」
「うん。恭佳の慰労と、深月と深幸のお祝いで」

 宗太君にそう答えると、健斗はこの世の終わりを迎えたような顔になった。

「姉さんと……お茶会……!? しかも……姉さんの特製パンケーキ……っ!?」

 かなりショックを受けているようだ。
 思わず苦笑してしまい、提案する。

「後でパンケーキ、届けに行くから」
「絶対だよ! 絶対だからね!」

 身を乗り出して念を押す健斗についつい笑ってしまう。
 彼の隣にいる誠也君は、呆れ気味に嘆息した。

「まったく、相変わらずシスコンだな。たかがパンケーキぐらいで……」
「姉さんが作るのは、洋梨のコンポートが入っているよ」
「マジか」

 健斗の解説に目の色を変える誠也君。
 ただし、ちょっと訂正ていせい

「洋梨は時期じゃないから、代わりに林檎を使ったんだけど……」
「おおぅ、沢贅ぜいたくな……。姐さん、俺らにも分けてくんない?」
「いいよ。一人一枚になっちゃうけど」
「充分っす」

 嬉しそうにはにかむ宗太君。誠也君も、こっそりこぶしを握り締めた。

「じゃあ、僕達そろそろ行くよ。お菓子、三時頃にお願いしていい?」
「ん、了解。また後でね」

 はにかんで頷いた健斗に手を振って見送る。
 それを見ていた恭佳と凪は……。

「さすが有珠」
「ですね」

 面白そうに囁き合った。



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