しばらく沈黙が続いたが、兄さんは嘆息して折れた。
「仕方ない。その代わり、他言は厳禁だ。いいな」
「はい」
そうして、私達は談話室のソファーに座って経緯を話した。
祥真さんが私を呼び出して謝罪した内容と、彼が私のこれまでを知らなかったことを。
全て話し終える頃には、兄さんも杏奈姉さんも健斗も怒り顔に変わった。
怖い……
「姉さんがいま眼鏡外さないのは、もしかして……」
「……うん。ごめんね。見せたくない」
察した健斗の言葉にそう返すと、健斗は悲痛な顔になる。
杏奈姉さんも痛ましそうに私を見る。
しばらく
「有珠。魔法演武大会に出ないか?」
その顔は、決意した者のそれだった。
「……え?」
「幸いにも今月はトーナメント形式。有珠は初めてだから最下から勝ち上がることになるが、問題ないはずだ」
「え、いや、いやいやいや。待って? そんなことして大丈夫なの?」
祥真さんとか両親とか、非難されるかも……。
不安と
「今まで有珠を散々苦しめたんだ。遅めの反抗期にはちょうどいいだろう?」
確かに私は反抗期というものをしたことがない。だからこれが最初の反抗期になる。
それでも
「そもそも有珠を馬鹿にしてきた奴らだ。遠慮はいらない。思いっきりやれ」
「あれ? おかしいな。やれ≠フ一文字が殺≠ノ聞こえるんだけど」
「そのつもりで言ったんだが、よく伝わったな。さすが有珠」
「なんか嬉しくない!」
褒められたのに嬉しくないなんて久しぶりだ。
どす黒く笑う兄さんが怖い。兄さんのこんな顔は久々に見る。
杏奈姉さんに助けを求めようとするが、彼女は嬉々として賛成。
「それ名案! 大会では保有ポイントを上回るダメージを負ったら
魔法演武大会では過度な魔法によって身体的な大怪我を負い、生死の影響を及ぼす確率が高い。そこで現代の魔科学によって作られた装置を身につけることで膜
聖來魔法学園では、ダメージポイントと呼ばれる数値を超えることで作動する仕組みになっている専用の損傷置換装置がある。これによりある程度の精神ダメージを軽減させられている。
魔科学の
「行き過ぎた攻撃は廃人になっちゃうけど、でも有珠なら手加減できるし問題なし!」
「いや、ありまくりだから。人にぶつけたこと無いんだから」
しかも、それだと生成魔法で武器を作れないし……いや、なに出場する方針で考えているの。
頭を抱えたくなってくると、健斗が遠い目になっていることに気付く。
「健斗?」
「……僕、後の方で姉さんと闘えるかな? 早くも対戦するとポイントが……」
「私と闘うの、嫌じゃないの?」
魔法演武大会に出場できるのは中等部と高等部のみ。どちらも合わせて
ポイントのことは当然の心配だが、健斗は私と闘って平気なのだろうか。
心配すると、健斗はきょとんとした。
「なんで? むしろ久々で嬉しいよ。姉さんに成長した僕を見てもらえるんだから」
負けるかもしれない相手だというのに、嬉しそうにはにかむ。
なんていうか……ぶれないなぁ。
「そんなに有珠は強いのか?」
「「「強い」」」
レオネッティが不思議そうに訊ねると、兄さん、杏奈姉さん、健斗は即答。
「姉さんに勝てたことないし」
「有珠の魔法は手数が多い上に、戦闘に特化しているからねえ」
あっさり認める健斗と、しみじみ言う杏奈姉さん。
ここで、兄さんが暴露。
「想像力が豊かで才能も俺を上回る。実際、俺の固有魔法は有珠が思いついたものだからな」
「えっ」
兄さんの魔法の真実が明かされ、レオネッティは驚愕から目を丸くする。
無理のない反応だが、少し
「思いついただけだよ。それを実現できたのは兄さんの実力だから」
「有珠のアドバイスがなければ辿り着けなかったのは事実だ」
あれをアドバイスと言っていいのだろうか?と思う。どちらかというとアイディアだ。
過大評価ではないか不安になってくると、兄さんが私の頭に手を載せた。
「それに俺も有珠に魔法で勝ったことがない。今回の魔法対戦大会、
ニヤリ、兄さんが笑う。
どうしてそこまで
「望むところです」
気まずさから顔を上げられずにいると、レオネッティは言った。
堂々と、意気込むように。
顔を上げれば、彼は笑っていた。その笑みは、まるで強敵との戦いを望む戦士のよう。
不敵なその笑みに、ガラにもなく見惚れてしまった。
心臓が跳ねて、頬に熱がこもった気がして……。