結果的に弟子入りを断って、無地の魔法衣装につけられたポイントの五割――つまり半額に割り引かれたポイントを払った。本来必要なポイントを半分も節約できたのだ。
その後、三人で有名なケーキ屋ルノワールで期間限定のケーキを
「あれ、有珠?」
紅茶を飲んだ時、ルノワールの店の二階に杏奈姉さんが現れた。
「杏奈姉さん? もしかして息抜き?」
「や、後輩の勉強会で。有珠は恭佳ちゃんと凪ちゃんと装備を買いに行ったんじゃなかったの?」
「ばっちり買ったよ。今は魔法の中」
盗られるといけないので、念のために【時空宝庫】に入れている。
におわせるように言えば、杏奈姉さんは頷いた。
「あら? 杏奈先輩、そちらの方は先日の?」
聞きなれない声が杏奈姉さんにかけられる。そちらを見れば、綺麗な女の子がいた。
波打つようなセミロングの黒髪。少し垂れた、炎を思わせる大きな
彼女の後ろには、栗色のショートヘアに大きな栗色の瞳の、大人しそうな可愛らしい美少女が。
年頃は健斗と同じくらいだろうかな、と思っていると、杏奈姉さんが紹介した。
「幼馴染の花咲有珠。その幼馴染の東雲恭佳ちゃんと香崎凪ちゃんだよ」
「……! もしかして香崎先輩は、風紀委員会の勧誘を断り続けている方……?」
「そ。で、この子は
あ、やっぱり同級生だった。しかも一人は健斗と同じ生徒会役員。
そういえば健斗が自分より学力が上の生徒がいるって言っていたっけ。
「紹介に預かった花咲有珠です。よろしくね」
「……よろしくお願いします」
第一印象は良くしておきたいので、自然体な微笑で挨拶する。
対する浪川七海はすまし顔で
「あ、そうだ。有珠、ちょっと宿題で分からないんところがあるんだけど……」
「……杏奈姉さん、大学部だよね? 私、高等部だよ?」
「魔法式の簡略化の問題だから。有珠ってそういうの得意でしょ?」
確かに魔法式の簡略化は得意だ。魔法服飾店の店長から弟子入りされるほどだから。
杏奈姉さんは鞄から宿題の紙らしいものとノートを取り出す。四人掛けのテーブルにいる私達のところに来て、私の隣に座るとページをめくる。
「これ。ここと、この文字の意味が分からなくて」
「あー……北欧系の魔法言語なんだ」
普通では習わないことを習っていたなんて驚きだ。
杏奈姉さんは「さすが」と笑い、テーブルの横に来た浪川七海と弥栄文乃が目を丸くした。
「一目で分かるのですか?」
「魔法言語は一通りかじったから」
言葉を返しながら問題文を読み、杏奈姉さんのノートに文字の意味を書きながら説明する。
「この文字は『イス』。氷≠フほかに氷結∞停止≠フ意味があって、氷の悪魔≠フ意味を含む『ソーン』との組み合わせで対象を封じ込める魔法式になる。この場合は対象を氷結させる魔法式になるでしょうね。ここに『ハガル』を加えたら氷結した対象の破壊、『ニイド』の場合は拘束力を強められる。だからよき魔法≠意味する『アンスール・ラーグ・ウル・ギューフ・オセル・ダエグ』といった補助系の魔法言語はいらない。で、さっき分からないって言った『ソーン』には茨∞巨人∞門∞試練と忍耐≠煌ワまれる」
「……あ。停止≠ニ試練と忍耐≠セから拘束系の魔法になるんだ」
「正解。攻撃に転用したかったら『イス』を
解説も全て書き終わって、紅茶を飲んでケーキを食べる。頭を使った後の糖分が脳に
「さすが有珠、あっさり解いちゃって……! 魔法学が学年1位なだけあるね」
「ふふっ、どういたしまして」
杏奈姉さんのお礼に笑顔で返すと、「えっ」と浪川七海が驚く。
「魔法学……1位なのですか?」
「有珠は魔法に関して天才だから、魔法学の筆記は常に満点よ」
恭佳が代わりに教えると、浪川七海と弥栄文乃は驚愕した。
でも、常に満点は
「たまに九十点台になるよ?」
「私の記憶には、片手で数える程度とあります。正しくはほぼ常に満点ですね」
「……どうして『常に』を付けるの……?」
身内贔屓にも程がある。
苦笑いを浮かべていると、浪川七海が言った。
「花咲先輩は魔法を使えないとお聞きしますが、何故そこまで詳しくなれるのですか?」
かなり踏み込んだ質問に、笑みが一瞬消える。
悪意を持つ人なら不快になるだろうけれど、彼女のような純然たる疑問は嫌な気がしない。
ただ、下級生にまで知られているとは思わなくて、少し衝撃だった。
「魔法が好きだから、としか言えないかな。『好きこそ物の上手なれ』って言うし」
「魔法を使えない『属性無し』ですのに?」
『属性無し』は魔法を使えない。それが一般論で、常識。
魔法を使えないのなら、必然的に『属性無し』と思われて当然だ。
魔法学園に通う資格がない者とされているから、私がコネで入学したのだと思われることもしばしばある。実際は違うけれどね。
「たとえ使えなくても、学べるだけの知識を得られたら、別の視点での魔法が見えたりするじゃない。今まで編み出されなかった魔法を、私ならどう編み出せるのか。ちょっとした想像でも面白いし、案外誰かの助けになっているから、捨てたものじゃないよ」
想像したことが現実になるのは楽しいし、とても嬉しい。その過程で健斗達のような魔法に悩んでいる子達を助けてきたから、なおさらそう思う。