国立
初等部から大学部まである全寮制の共学で、いわゆる学園都市。
都会に近い山の中にあるから敷地の周辺は魔物の侵入を
一際高い山側にある城のような外観の洋館が校舎で、洋館に
初等部から入学した私は現在中等部三年生。それでも見回れていない場所がまだまだある。それくらい広大なのだ。
約三千二百人もの学生を十六年間も収容するには必要かもしれないが、お金のかけすぎだ。
まぁ、私は好みの本を買うために節約しているから、カラオケ以外の娯楽施設は行かないけど。
あ、そうそう。この学園には『ポイント』という通貨がある。
ちなみに
ポイントは
例えば――五百円の本が2ポイント。服をトータルで買えば10ポイント。
ポイントの入手方法は全て成績。優秀な成績を納めた者ほど多く貰える。
学力成績・実技成績・魔法成績・総合成績で、最大800ポイント。一学年につき約二百人の生徒がいるので、一つの成績の順位で1〜200ポイント。
中でも魔法学園らしい魔法による対戦大会がある。
未熟な初等部と就職に向けての勉強で
現金の持ち込みは許可されるが、一学期ごとに最大十万円が限度。
それでも学園での快適な生活を望み、規則である春休み以外、つまり夏・冬休みも
まさに金持ちやエリート学生のためにある学校だ。
そんな中で、私こと花咲有珠は地味系女子学生として平凡に生活していた。
プラチナブロンドを付与魔法で黒色に変えて、分厚い銀縁眼鏡で顔の半分を隠して。
普段はお嬢様結いで認知されているハーフアップという髪型だが、魔法学園にいる間だけは、鎖骨まである横髪以外、腰下まで真っ直ぐ伸びた髪はシルバーのヘアリングで一つに
学力と実技以外、魔法の成績は中の上くらいまで
ちなみにV組も優秀クラスで、一般的な才能を持つ生徒はW・X組で分けられている。
私としては実に
でも、精神的な苦痛を覚えることが多々ある。
「おい。あの地味女、またT組の奴といるぜ」
「うわぁ……。鏡見てんのか? 地味女でガリ勉のくせに生意気だな」
それは男女問わず、
「……有珠。しばいてきていい?」
「駄目」
とんでもないことを言う幼馴染に
セミロングの黒髪は
涼やかな目付き。筋の通った綺麗な鼻。口紅が無くても、色っぽい
私より四センチも高い身長で、引き締まった体型。それでいてグラマーな肉付きがブレザー越しでもはっきりと判るから、モデルになってもおかしくない。
見目麗しい彼女は良家のお嬢様に見えるが、実際に有名な大病院を経営する家柄の令嬢だ。
お嬢様なのだが
どうして庶民の私がお嬢様と親友なのかは、私の母方の祖母の生家が有名な名家で、恭佳の母親と幼馴染だからだ。その繋がりで私と幼馴染になったのだ。
恭佳は
魔法・総合成績は3位というトップクラスに食い込んでいる。おまけに美貌の持ち主だから、かなり人気者。
魔法による戦闘技術も高いから風紀委員会、しかも風紀委員長の座に就いている。
自他共に
だからか。生徒だけではなく教師でさえ
そんな彼女と親しい「地味女」で「ガリ勉」な私は、周囲に嫉妬を抱かれて悪口を言われる。
そのせいで精神的にキツイ。身内が私よりも早く怒ってくれるのは嬉しいけど……。
「今、有珠さんを貶しましたね……?」
ヒヤッと背筋に冷たいものが滑る。
さっきまで
「い、いや……そんなこと……」
「『地味女』『ガリ勉』『生意気』なんて言葉……よくもまぁ私の前でほざけますねぇ」
不気味な声音で近づく少女に引き攣った悲鳴を漏らす。
その様子で我に返った私は、慌てて少女の肩を掴む。
「凪、気にしなくていいから。こんな子達に時間を
「……」
「一緒にいる時間、短くなってもいいの?」
「……嫌です」
ムスッとした不機嫌な顔で小さく答えた。
「じゃあ、戻ろう?」
「……はい」
いつも思うけど、私のために怒ってくれる友達がいるって幸せだなぁ。
「いつもありがとう、
何となく、感謝の気持ちを伝えたくなった。
笑顔でお礼を言えば、少女は頬を赤らめて
やや長い前髪をリーフモチーフのヘアピンで七三分けに整えた、明るい茶色のセミロング。七分側のひと房を編み込んでいるから、上品な可愛らしさが際立つ。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳は大きく、
誰がどう見ても美少女な彼女の愛らしい反応に、自然と頬が緩んだ。
彼女は有名な製薬会社の社長令嬢で、恭佳の病院と繋がりが強い。
とはいえ、私と出会う前まで友達を作ったことがなくて、恭佳とも接点がなかった。
そんな彼女と、どうやって知り合ったのか。それは彼女が魔物に
あの時は大変だった。魔物の群れに殺されかけた凪を助けられたのは奇跡だった。お父さんに戦闘訓練を受けていたおかげで何とか助けて、魔物を
いや、正しく言うと
幼い凪に『有珠様』と呼ばれたときは物凄く大変だった。四苦八苦したが『有珠さん』に
入学してからも、いろんな悪意を向けてくる人達をその場で制裁するから、毎回止めるのは大変なのだ。まぁ、止めたとしても陰でいろいろとやっているらしいけど。
「全く……悪口を言う暇があるなら勉強しなさいよ。有珠の足元にも
「恭佳、その発言は怖いよ」
ショックから遠い目になりかけたが、私より高い恭佳と、私より少し低い凪の頭を撫でる。
「でも、ありがとう。恭佳と凪がいてくれて良かった」
「「……女神様」」
笑顔でお礼を言えば、二人はぽつりと呟いた。
だから何で! 兄さんと杏奈姉さんと同じことを言うの!?
「そ……そういえば今日って実技のテストですね」
恥ずかしくなって俯くと、凪は気を
「まずは武術から始めるそうよ。一学年全員で」
「……え? いつもと違うの?」
いつもなら学級ごとに実力を測って、上位者が他学級と戦って順位を決める。
私は自分の学級でトップになると、他の学級と戦わないために補欠する。魔法の実技に関しては一通りやって、理事長の息がかかった担当の人に偽装してもらっている。それでも武術の実技は上位に食い込んでいるから、総合成績は45位でT組から外れている。
でも、今回の実技の試験内容は違うって……?
「中等部に上がったら学年末試験に全員で実技をするって忘れたの?」
恭佳が呆れ顔で教えてくれて、思わず固まる。
……そうだった。すっかり忘れていた。
中等部に上がって三年目が過ぎようとしているのに、何で大事なことを忘れるのだろうか。
「補欠できない……!」
頭を抱えて
うぅっ……その優しさが嬉しいよぉ。
《
とうとう放送がかかってしまった。
重々しい溜息を