鬼の精霊
ふと、ここで別の気配を感じた。魔獣ではない、精霊のような気配を。
「……誰?」
林の中に目を向けて声を上げれば、木の後ろから一人の男が現れた。
身長はヒイラギより高いため、一八〇センチは優に超えている。体格は細めだが、肩幅から少なくとも筋肉はある。
この世界では珍しいはずの藍色の着物と紺色の
警戒から鑑定魔法を使えば、驚くべき情報が表示された。
名前:□□□
種族:精霊[人型:鬼神]
位階:上位[序列第一:神位]
魔力:S/2700000
神力:S/1214000
属性:火・地[鋼]・闇[幻]
能力:鬼火・鬼焔・神炎・空間操作・武器作成・武器庫
武器:小太刀・大太刀・大剣・槍・投槍・薙刀・金棒・鎖鎌・手裏剣
詳細:最上位精霊獣・鬼の中で最も力のある鬼神。自身で作った様々な武器を得物とし、高い戦闘能力を有する。常に余裕で数手先を見据えているが、予想外のことには弱い。
神位の精霊が、どうして人間界の鉱山にいるの? もしかして武器の素材集め? ……ついてないにも程がある。
「我に気付くとは……
現れた鬼神は
ぎくりと肩が震えそうになったけれど、ぐっと
「ただの人間だよ」
「ただの人間が神剣を持ち、我と同格の精霊と契約できるのか? 特に其方の魔力、我以上と見受ける」
この子、鋭いな。
思わず顔をしかめてしまったが、深く溜息を吐く。
「余計な
「なら、知人となろう。我は其方に興味がある。これからは鬼神と呼ぶように」
強引な鬼神に頭痛を覚える。
さっきからヒイラギは黙っているけど……あ、やばい。これは怒っているみたい。
「……貴様。我が主に馴れ馴れしいぞ」
低い声で言った次の瞬間には、周囲に青白い炎の
ヒイラギの狐火だ。しかも、気付きにくいほど
「……神火か。なら――」
「両者、やめなさい」
このままでは焼け野原になると危機感を覚え、私は柏手を打って静止の声をかける。
「ヒイラギ、落ち着いて。こんなことで実力を見せなくていい。奥の手は本気の戦いの時に見せないと、手の内を知られたら厄介なことになるよ」
正論を突きつければ、ヒイラギは顔をしかめて狐火を消す。
安堵すると、【神炎】を消した鬼神が私を見据える。
「まるで我と敵対すると言っているようだが……」
「それは貴方次第。私は興味ないけれど」
興味がない。それは本当。
でも、私には【式神契約】の能力を持つ。この能力は人によって喉から手が出るほど欲しがられるものだ。
多くの者と契約できる利点がある。戦力を欲している野心家にとって格好の獲物。
精霊が人間を利用するほど欲深いとは思えないけど、相手は鬼の頂点に立つ鬼の神。地球の鬼も
「さて……血抜きはここまでにして、行きましょうか」
私は指を鳴らして【宝物庫】に魔獣の死骸を入れる。【宝物庫】に入れた物は一つ一つの別空間に分けられているし、時間が止まっているため
あとは天叢雲剣に付着した血を生活魔法で綺麗にしてから消して、進み始めた。
私の隣にはヒイラギ。私達から数歩離れた後ろには、鬼神。
「……おい。何故貴様もついてくる」
耐え切れなくなったのか、ヒイラギが立ち止まって
ヒイラギの顔が少し怖い。警戒していると解っているけど……。
対する鬼神は、余裕な笑みを浮かべていた。
「我は武器に必要な素材を集めに来たのだ。おそらく目的地は、其方らと同じ。なら、ついて行く形になってしまうのは
理由としては筋が通っているけど、なんだか怪しい。
でも、このままもたもたして到着が遅れるのは
「ヒイラギ、いいから。無視して」
溜息混じりで
予想していた私は、静かな眼で見上げる。
『彼はきっと障害になる。だから、
「……!」
【式神契約】の恩恵の一つ、念話。
契約主である私と、
自分の能力の副産物を使って無言で告げれば、ヒイラギは表情を変えた。
私が警戒していると理解してくれたので、再び歩き出す。
後ろで鬼神が