採掘と修行



 そして翌日の朝に出発し、アズサの背に乗って鉱山に到着した。
 岩場ばかりで植物は少ないが、鑑定すれば鉱山でしか採れない珍しい植物もある。

「アズサ、ありがとう。休んでいいよ」
「何かあったら呼んでください。ヒイラギ、後は頼みます」

【幻想郷】から出てきたヒイラギに一言告げて、アズサは帰った。

「……さあ、行きましょうか」

 着ている服は赤と白の巫女装束と、その上に羽織る千早ちはや。手持ちの荷物は無い。
 これも能力【宝物庫】のおかげだ。ほとんど手ぶらな状態でいられるのだから。

 現在地はアズサのおかげで鉱山の中腹。鉱物を採れそうな洞窟が所々にある。
 私はかんを頼りに少し先にある大きな洞窟に入ることにした。

 洞窟は暗くて、常人ならあかりが無いと無理だろう。
 けど、私には【暗視あんし】のスキルがある。これを使えばどんな暗い場所でも平気だ。
 同時に【鑑定】を行使しながら周囲を見渡すと、岩壁に強い光を見つけた。

「んっと」

【宝物庫】からハンマーを取り出し、とがった方で光の周囲を叩く。
 魔力による身体強化も忘れずに。


 魔力の身体強化には、属性によって種類が異なる。

 火属性は、最も重要な筋力の強化。
 水属性は、毒などの異常への強化。
 風属性は、速度と動体視力の強化。
 地属性は、腕力や防御などの強化。
 光属性は、治癒力や回復力の強化。
 闇属性は、精神や恐怖耐性の強化。

 これが一般的に知られている、魔力属性によって異なる身体強化の知識。
 無属性の身体強化は一般的に知られていないが、これは全属性分の力を発揮はっきできる。
 おかげで光っている個所の周りや表面の岩壁を簡単に壊すことができた。

「あっ、出てきた! え〜っと……よし。Aランクね」
「チハル、それが欲しかった素材か?」

 岩壁の穴から銀を慎重しんちょうに取り出して鑑定していると、ヒイラギがたずねた。

「うーん……銀は素材としては欲しい物の一つなの。本命はミスリルとアダマンタイト。アダマンタイトは単体で銃の外装に当てられると思うけど、魔力を伝達するために必要なミスリルを銃砲身と弾倉に使うとしても、単体じゃあ強度が足りない気がして」

 ライサンダー家の書庫で読んだ図鑑では、ミスリル単体では強度はオリハルコンより低いらしいから、魔弾まだんを撃つための強度と伝達率を高めるために銀が必要になるはず。
 地球では銀は魔をはらう効果があると言うけど、それは異世界でも通じることらしい。

「……よく解らんが、それは魔力を帯びるものか?」
「そうね。ミスリルは確実に」
「なら、こんな中腹ではなく上に行く方が良さそうだな」

 ヒイラギはそう言うと、天井を見上げる。

「この鉱山は上に行くほど魔力の濃度が高くなるようだ。おそらくだが、頂上付近なら手に入るだろう」
「じゃあ、銀をもう少し採ったら行きましょう」

 銀にはいろんな使い道がある。私が作りたいのは、武器以外にもあるから。



 洞窟にある銀はほとんどが上質なAとSランクだった。期待以上の質と量に満足して、上機嫌に頂上付近を目指す。
 中腹は木々が少なかったけれど、上に行けば行くほど木々が増えて、とうとう森に近い林へ変わった。

「……ヒイラギ、気付いてる?」
「当然だ」

 ヒイラギに声をかければ、あっさりと言葉が返ってきた。
 私もかなり前から気付いていたけれど、内心は緊張している。

 それは何故か? 答えは、林の中に魔獣の気配がするから。しかも、複数も。

 これまで死骸を解体していたけど、生き物を殺したことはない。
 これが初めての実戦となるが、胃が痛いし罪悪感が……。

「俺は手を出さんぞ」
「……やっぱり慣れるため、よね?」

 ヒイラギを見上げれば、彼はうなずいた。
 私の家族で式神だけど、同時に武術の師でもある。ここは師匠として見守るのだろう。
 少し怖いけど、私も覚悟を決めないと。

 小さく深呼吸をして神経を研ぎ澄ませ、草むらの陰から近づいてくる敵を感じ取る。
 ガサガサという音がする方へ顔を向けると、黒々とした狼型の魔獣が飛び出してきた。
 勢いよく飛びかかる狼の魔獣。私はその勢いを利用して、天叢雲剣を召喚すると同時に振るう。

 ――居合いあい。抜くと同時に敵を抜刀術ばっとう

 魔獣はいかかろうと大口を開けたが、その口にめがけて剣を振るえば、口の裂け目から胴体の最後まで、真っ二つになる。まさに一刀両断。
 切り捨てられた魔獣は一瞬で絶命し、地面に倒れて赤い水溜りを作った。

 あまりの呆気なさに、少し脱力。殺生に忌避感きひかんを持っているのに、不思議と嫌悪感が湧いてこない。ただ、生きている者を斬る感触の生々しさに手が震えた。
 でも、なんとか乗り越えられたと思う。このまま続ければ、いずれ慣れるはず。

「よくやった。……が、剥ぎ取りをするならもう少し考慮こうりょしないとな」
「あはは……手厳しい」

 力無く笑って、草むらに目を向ける。
 魔獣の血の臭いにつられて、同じ形状の魔獣が出現する。
 どうやら倒した魔獣を含めて群れだったようだ。中心に他より一回り大きな狼がいる。

 群れの長のようだ。そう感じていると、次々と魔獣が襲いかかってきた。
 一瞬で身体強化をほどこし、襲いかかってくる直前に走り出す。

 そして、あっという間に討伐が完了した。
 倒れた魔獣は首を切り落とされたものから頚動脈けいどうみゃくのどを斬られたものまで多種多様。今度は綺麗に剥ぎ取れるように加減をしたのだ。
 ほっと力を抜いて、血抜きが終わるまで待つことにした。