都市、入場



 アズサの背に乗って数十分で到着した林から、高い防壁に囲まれた都市の門へ向かう。精霊を連れていたら驚かれるから、アズサとエンジュは【幻想郷】で待機してもらう。
 ちなみにヒイラギは先に都市に入ってもらっている。
 精霊として防壁の上から入っているけど、人と接する時は人間に化けているそうだ。

 早く合流しないと。胃の痛みが酷くならないうちに!

 門に近づくにつれ、レザーアーマーを胸や腕・ひじなどの関節に装着した衛兵の姿をした門番が私に気付く。久々の人間に、緊張感が走る。

「あの……町に入りたいのですが……」

 ひかえめな声になってしまう。私ってこんなに小心者だった?

 手に汗握る中、壮年の男の衛兵が膝を曲げて目線を合わせてくれた。

「君、どうやってここまで来たんだい?」
「家族に……近くまで送ってもらいました」
「出身地は?」
「アルビオンの森です」

 アルビオンの森とは、幻獣の他に精霊が出現しやすい場所で有名な森だ。精霊都市の手前にヒューレーの樹海がある。このヒューレーの樹海は凶悪な魔獣が多く生息し、いくら強い冒険者でも立ち入ることもはばかられるそうだ。
 ちなみに私は、ヒイラギに合格を貰ってからは樹海で魔獣を討伐していた。……否、狩っていたという方が正しいかな? おかげでいろんな素材が手に入ったし。
 あ、でもこれだとうたがわれるから【宝物庫】から上等な素材を取り出した。

 この光景に、衛兵は驚愕きょうがくのあまり目を丸くする。

「なっ、ど、どこからっ!? まさか【亜空間】か!?」

 ……あぁ、そういえば【亜空間】は神様からさずからないと貰えないものだった。

「えっと……私の魔法で作った亜空間です」
「魔法で!? いったいどんな……」
「無属性の派生属性で作った固有魔法です。空属性の魔法で作れる亜空間ですけど……」

 空間魔法があるので、念のために亜空間を作った。滅多なこと以外使わないけれど、無いと不信がられるから。
 裏事情をはぶいて説明すると、衛兵は口をぽかんと開けて固まってしまった。

「……聞いたことがない」
「そりゃあ……私が見つけて作ったからです。……あ。魔獣も私が倒したものなので、実力はこれで証明になりますか?」

 付け加えると、衛兵は遠い目になって口元を引き攣らせた。
 現実逃避しないで。早く町に入りたいのに!

 どうしようかと困っていると、門の方から衛兵ではない男が来た。赤い制服に軽いよろいを付けている姿から騎士だと見受けられた。

「おい、お前がチハル・サカキって奴か?」
「え? そうですけど……どうして名前を?」

 いきなり名前を言い当てられて警戒してしまう。
 この三年間、人間とは関わってこなかったはずなのに、知られているなんておかしい。

 眉を寄せて衛兵より若そうな騎士を見上げると、彼はあっさり答えた。

「ヒイラギから聞いたんだ」
「……え」

 まさかヒイラギの知り合いだとは思わなかった。
 目を丸くした私に、騎士は快活に笑った。

「あいつが売ってくる酒は絶品でな! 特に芋で作った酒……焼酎って言うんだったか。あれは美味い。果実酒もなかなかで、俺の親のお気に入りの一品だ」

 ヒイラギのお酒がここまで評価されるなんて驚きだ。私は未成年だから飲めないから味は分からないのが残念だ。

 でも、ヒイラギの努力が評価されるのは凄く嬉しい。

「それは……ヒイラギも喜びます。彼が作るお酒は家族にも好評なので」

 私が笑みを浮かべて言うと、騎士は目を丸くした。

「……あいつが作っているのか?」
「はい。お酒にはこだわりがあるそうで、しょっちゅう家族にくすねられて怒っているんですよ」

 エンジュとの遣り取りを思い出して、口元に手を当てて笑ってしまう。
 すると、騎士は目をパチクリさせた。

「……お前、本当に子供か? かなり大人びて見えるんだが……年増としま?」

 ぴきっと脳内で何かの亀裂きれつが走った。
 笑顔が固まり、徐々じょじょに引き攣るように笑みが深くなる。

「騎士さん。子供でも女性にその発言はいけませんよ……? もし他の方にもそんな発言をしているのなら……夜道は背後に気をつけてくださいね?」
「お……お、おぅ……すす、すまん。謝るからその顔はやめてください……」

 急に敬語になった騎士に溜飲りゅういんが下がる。でも、そんなに怖い顔なのかな?

 深い溜息を吐いて気持ちを落ち着け、地面に置いている魔獣の素材をしまおうとした。

「ん? それはどうした?」
「私が倒した魔獣の素材です」
「……は? お前が? ちなみにどんな魔獣だ」
「グランドベアです」
「はあ!? Aランク指定だぞ!?」

 頓狂とんきょうな声を上げる騎士に、思わず顔をしかめてしまう。
 だって、証拠があるのに信じてもらえないなんて悔しいじゃないか。

「無属性の身体強化は全属性分の性能がありますから。一瞬で詰め寄って首をスッパリいけば簡単です」
「はぁああああ!?」

 今度こそ絶叫した騎士。あまりにもうるさすぎて耳をふさいでしまった。

 これ、どうすればいいの。とうとうヒイラギが門から出てきてしまったし。

「ヒイラギ……全然通してくれないんだけど」
「チハルが脱線ばかりするからだろう」
「だってこれで税金払わないといけないから」

 森育ちだとお金は思っていないことになるから、魔獣の素材を売ることで税金を払おうと思っていたのだ。

 だが、ヒイラギが予定外のことを言った。

「税金なら俺が払った」
「あらかじめに言ってよ!」

思わず頭を抱えて叫んでしまった。
 この前もそうだけど、最近のヒイラギの行動が予想できない。前世と違って人間と接する機会が増えたからかな?

「何で行く前に言ってくれなかったの?」
「その反応が見たかった」
「私で遊ぶなーッ!」

 拳を作った右腕を上下に振って怒ると、ヒイラギは愉快そうに喉を鳴らした。
 こんなに笑うヒイラギは、こっち≠ノ転生してから増えた。
 なんだか毒気が抜けて、溜息混じりで脱力した。

「……じゃあ、さっさと入ってMICを作りに行こう。その後に冒険者登録ね」
「ああ。ドワイト、いいだろうな?」
 ドワイトという騎士に声をかけたヒイラギの目付きは高圧的だ。

 有無を言わせぬヒイラギの態度に、ドワイトは軽く引き攣った。

「い、いいが……俺もついて行くぞ。お前達だけだと厄介事に絡まれるだろう」

 ドワイトの申し出に、何となく彼はお人好しなのでは、と思ってしまった。
 その印象は正しかったようで、ヒイラギが溜息混じりで受け入れた。

「相変わらずお人好しだな。……チハル、いいか?」
「うん」

 多少の保険は必要だろう。ここは好意を受け取ろう。

 うなずいて魔獣の素材を【宝物庫】にしまい、ヒイラギと並んで町に入った。