MIC



「こちらへどうぞ」

 受付嬢ではなく、今度は男性の職員が案内するようだ。

 今回は私だけで、周囲には二人の警備兵がいる。
 子供だから二人で充分だと思われているけれど、子供を利用した犯行もあるのだから、もう少し厳重でいた方がいいと思う。

 そんな現実逃避をしながら、六畳間ほどの部屋に到着する。

 部屋の中心には大きな円形の機械のような物があった。色は白く、組み合わせた隙間すきまからほのかな光が漏れている。そして、備え付けのテーブルには小さな針が置かれていた。

「手順は簡単です。あの機械のくぼみに血を擦り付けて、魔力を込めてください」
「……あぁ。魔力で個人情報を識別しきべつするんだ。血は情報の媒体ばいたいになる……と」

 なんとなく理解して呟くと、職員と警備兵が目を見張って私を凝視した。

 なんだか、この反応にも慣れてきたような……。

 気を取り直して、装置の前に設置された台に上がり、少し観察する。
 白い装置の中心には、正方形の結晶のようなものと嵌め込んだ円盤が取り付けられている。結晶の上には透明度の高い板が置かれている。
 おそらく、あの板がMICの媒体となるものだろう。

 観察が終わると、テーブルに置いている針を右手の人差し指に刺し、血を滲ませる。量は判らないから、左手で抓んで圧迫させて血を出し、装置の斜面にある窪みに人差し指を押し付け、魔力を流し込む。

 すると、円盤の中の正方形の結晶が輝いた。
 目映まばゆい光の色は紫色だけど、白金色の光まで混ざっている。
 目をらしてよく見ると、透明の板が色づいていき、あっという間に透明度を残しながら紫色に染まった。単色ではない。縁取ふちどりが白金色で、中が透明度の高い紫色だ。

 綺麗な色に見入っていると、職員がカードを取って渡してくれた。

「あ……ありがとうございます」
「いえ。無属性……なのですね。この縁の色は見たことありませんが……」
「おそらく無属性の派生属性ですね」
「……無属性に、派生属性?」

 またしても聞いたことがないという反応。これには慣れたから、スルーしよう。

「それで、これからどうすればいいんですか?」
「……戻ってカードの説明をします」

 未知の情報を聞きたそうだが、職員は自制心を利かせたようだ。
 そんな彼を見て、私は自覚する。

 私は、人の好奇心がどれほど強いのか知っているはずなのに、謎を残すことを言ってしまった。
 次からは気をつけようと反省し、職員達と装置がある部屋を出た。



 MICは横に長い長方形。大きさは大人の手のひらに収まるくらい。
 自分の魔力を流し込むことで、情報がカードに浮かび上がる仕組みだ。非表示にしたい場合は、項目に魔力を込めた指でタップすればいい。
 非表示にできる部分は、属性、魔力・神力の数値、恩恵、権能、才能、技能、契約の八項目。

 一年に一回は更新しないといけない。更新の際は小銀貨二枚――日本円で二千円――が必要。精霊を召喚した時も、契約した時も、ちゃんと更新しないといけない。でなければ精霊師・召喚士と名乗ることはできない。

 部屋で使い方や注意事項を聞きながら、MICに記載されている情報を確認する。


名前:チハル・サカキ
年齢:10
性別:女
種族:人族
国籍:エレフセリア聖王国[精霊都市アマトリア]
職業:□□□
属性:無[空・念・霊]
魔力:A/126700
神力:S/1000000
恩恵:創造神の祝福
権能:言語理解
才能:技能獲得・創造傑作・害悪無効
技能:戦闘[身体強化・格闘術・剣術・棒術・槍術・薙刀術・弓術・投擲]
   魔法[呪文破棄・鑑定・解析・空間・念能・霊能・結界・付与・創造]
   生活[料理・裁縫・掃除・暗記・計算・暗算・話術]
   技術[解体・隠密・隠蔽・追跡・暗視・感知〈気配・魔力〉・探知〈気配・魔力〉・遮断〈気配〉・魔力操作〈放出・圧縮・遠隔〉・魔力変換〈体力・回復力・治癒力〉・解析〈言語・魔法陣〉・作成〈護符・魔法陣・術符〉]
   耐性[火傷・氷結・毒・麻痺・石化・混乱・恐怖・呪い・魔障]
契約:□□□


【神隠れ】の性能はしっかり表れている。流石に日々増える体力までは数値化できないようだが、代わりに魔力と神力は記載されるようだ。

 私の魔力と神力は桁外れなので、せめて十万までおさえたかった。魔力はともかく、神力は創造神の祝福で百万も貰っているから、これ以上は減らしたらおかしがられるはず。
 あと、この世界に銃器は無いし、威圧も子供が使うには異常だから、数か所も隠した。

 何とか捏造できて安心するが……。

「なっ……なんじゃこりゃあ!?」
「Aランク……だと……!?」

 ドワイトと説明してくれた最高責任者の男性が、私の魔力値と神力値を見て絶叫。
 ……Aランクも異常だなんて知らなかった。

「えーっと……神力は創造神の祝福で貰った通りなので……」
「だとしても! どんだけ魔力を持ってんだ!? 魔族並みだぞ! これは!」
「……竜族の場合は?」
「Sランクか、それに近い数値だ」

 男性が重々しく言ったので、私は気が遠くなった。


 異世界の人種は、全部で五種類。

 人族は、繁殖力は程々に優れ、数多のことを凡庸ぼんように熟す力を持つ種族。魔力量は個々によって差があるが、神々の恩恵を受けやすい特徴とくちょうを持つ。平均寿命は八十代だが、魔力によって変わる。

 獣人族は、体の一部に獣の姿を持つ種族。魔法が苦手である代わりに武力にひいで、とびぬけて繁殖力に優れている。ただし寿命は人族よりおとる。

 妖精族は、エルフ、ドワーフ、ホビットといった魔法に馴染み深い種族。どの妖精族も精霊を信仰し、力を貸し合い、共存している。基本属性は満遍まんべんなく使いこなせるが、対極属性はハイエルフとダークハイエルフという、通常のエルフより高次の存在でなければ持ち得ない。

 魔族は、魔人族、夜魔族やまぞく夢魔族むまぞく妖魔族ようま獣魔族じゅうまぞくといった魔的能力が高い種族。一番人族に近い魔人族には独特な形をした角があり、夜魔族は夜行性で吸血鬼みたいに血を食糧とし、夢魔族は享楽きょうらくの夢を力のかてとし、妖魔族は地球でいう妖怪のような様々な特性を持ち、獣魔族は獣人族と違い魔法も得意とする。寿命は部族によって異なるが、神に選定されて就任する『魔王』は約二千年も生きるそうだ。

 竜族は、魔獣のドラゴンと違って知性があり、思慮深しりょぶかい種族。人間の姿をとることもできるが、真っ直ぐな形状や枝分かれした形状などの角が生えている。角の色は保有する魔力属性によって異なるのだとか。変身が完璧である竜族は角を隠せるそうだが、竜族であるほこりから角を隠さない者が多いらしい。

 他にも他種族と交わって誕生する亜人族――例えばハーフエルフや、妖魔族と獣魔族または獣人族の混血である妖獣族など――があるけれど、これは一般的に数えられない。


 数ある種族の中では、竜族が最強種とされている。
 まさかその最強種と同等の魔力量だなんて想像したこともなかった。神力も合わせてしまうと、とんでもないことになりそうだ。
 もう少し捏造しておくべきだったと落ち込んでしまうと、隣にいるヒイラギが私の頭を撫でた。

「しかもどんだけスキルを持ってんだよ! 戦闘術なんか、お前の歳でこんなに持ってる奴は初めて見るぞ!」

 ドワイトが興奮気味こうふんぎみに言うと、責任者の男性が強く頷く。

「万人が使える魔術に必要な術符も作成できるのなら、どこかの符師ふしに弟子入できる」
「え……あの、私は冒険者希望なんですけど」
「冒険者以外にも掛け持ちすればいい」

 掛け持ちと言われても、戦闘関連以外の職業なら術符作成・魔装具・魔装武器の製造くらいだ。
 怪我をした際も考慮こうりょして、戦闘職以外の職の適性を増やした方がいいのかもしれない。
 今後の計画を立てて、説明会は終わった。



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