04-05


『やあ、シーナ。また危ないことに首を突っ込んでいるようだね』
「……しょうがないじゃん。国の近くで五十年も循環作業をしていると、彼も気が散るだろうし」
『確かにそうね。でも、あまり無理すると、またフィロメナに怒られるわよ』
「大丈夫。今度は違う方法でやるから」

 シリウスとセレネにそう言えば、二人は僅かに眉を寄せる。

『……確かにこの現状にアレは効果的だけど、広範囲に届く?』
「風魔術で広げれば大丈夫」
 ギフト《聖女の祈りアンジェラス》と新技術を行使しながら魔術を使うなんて無謀むぼうだが、やるしかない。
 私の無茶な行為に気付いた二人は渋面を作った。しかし、竜神を見た途端に変わった。

『ちょうどいい。君、シーナに協力してくれないか』
【……混沌の精霊王と光の精霊か?】

 私と契約しているのはどんな精霊王なのか予想していたようだが、その予想を上回っていたようで、竜神は戸惑いながら訊ねた。

『そう。僕達は彼女と契約している。故に彼女がしようとしていることを知っている。シーナは君に力を貸すようだけど、君の協力も必要だ。頼めるか』

 厳然とした態度で竜神に問いかけるが、疑問符をつけていない時点で協力させる気だ。
 驚愕のあまり目を丸くしていた竜神は、我に返ると答えた。

承諾しょうだくした。どう協力すればいい】
『簡単だよ。彼女と合一して魔力回路の循環に意識を繋げて作業をするだけだ。そうすれば彼女の力も魔力回路に行き渡りやすくなる』

 この技術は二人に止められていたけど、竜神と協力すれば負担が減ると気付いた。
 シリウスの言葉に竜神は驚いて目を見張り、考える素振りを見せたあと、私に首を近づけた。

【乗れ。触れ合わなければ合一できぬ】
【ありがとう】

 礼を言って、私は風魔術で竜神の首に移る。
 滑らかな触り心地に笑みがこぼれ、竜神の合図を待つ。

【いくぞ】
【うん――】

 体から力を抜き、ほんの少し意識を空っぽにして竜神に意識を寄せる。
 すると、竜神の意識が頭の中に繋がった。

【世界の理よ、我が願いを聞き届けよ。我が祈りを受け止めよ。清浄なる世界へこいねがたてまつる】

 いんを踏む竜神の意識。
 やっぱり、私の研究は間違いじゃなかった。
 確信できた私は自信を持って《聖女の祈り》を発動し、すぅっと吸い込み――古代語で、歌った。

 瞬間、ドクンと大気の震えを肌に感じた。
 安定した音色で、優しく言い聞かせるように。
 そして、少し高くすることで切なさを伝える。
 高めの音程から低めの音程を操りながらサビを歌うと、大気が脈打つように震える。
 最後のフレーズを切ない旋律で伸ばし、歌い終える。

 ドクンッ――一際強く、鼓動こどうのように震えた瞬間、よどんで重く感じていた魔素が一気に軽く感じるほど心地良い空気に変わった。肌で感じて判るほど、魔力回路の循環が元に戻ったようだ。
 今回、魔力はほんの少ししか使っていない。代わりに神力を惜しみなく使った所為で体がだるい。


 ――スキル《歌唱》がランクアップしました――


 わお、スキルが上がった。
 脳内に浮かぶ、随分ずいぶん前に習得したスキルの文字に拳を握ると、最後に……。


 ――称号【黎明れいめいの魔女】を取得しました――


 魔女としての称号を得た。
 黎明って、夜明けの方じゃなくて、新しい時代を切り開くっていう意味?
 仰々ぎょうぎょうしい称号に苦笑いが込み上げていると、竜神と一体化していた意識が途切れた。

【黎明の魔女か……。言い得て妙だな】
【……私には勿体無い称号だけどね】
【いや、この上ないほど適した号だ。……まさか古代族がここまで循環を整えられるとは思わなかった。被害がなければ、向こう千年は安定するだろう】

 竜神に絶賛されるとは思わなかった私は自分の技術に驚き、嬉しくなって笑った。

【良かった、力になれて】

 心からの喜びを込めて言えば、竜神が穏やかに笑った気がした。

【竜神として心から感謝する。そして友として受け取ってほしい】


 ――恩恵【竜神の祝福・加護】を取得しました――
 ――ギフト《接続心コネクトハーツ》を取得しました――


 竜神が申し出た瞬間、恩恵とギフトを得た。
 物々しい祝福と加護にとんでもないギフトを得てしまった気が……。

【そのギフトは我ら竜神と意識を繋げることができる。名を念じれば我と繋がる】
【名前? 竜神にも名前があるんだ】
【生まれ落ちた瞬間、世界から賜わるのだ。生まれた場所によって異なる。虹から生まれた我が名……プルウィルスと呼べ】

 竜神を名前で呼ぶことを許された。
 予想外の展開に戸惑ったけれど、認めてくれたのだと思うと嬉しくて笑顔になる。

【ありがとう、プルウィルス。私はシーナ】
【シーナ、我はそろそろ次の循環に向かわねばならん。何せ年中手不足なのでな】
【そっか。応援しているね】

 風魔術で待機していたフィネスに飛び移って、微笑んで気持ちを伝えれば、竜神――プルウィルスは穏やかに目を細めた。

【ああ。我もシーナの未来に、幸多からんことを願おう】

 プルウィルスは寿ぐと、翼を広げて飛び立つ。陽光を浴びて飛翔する姿は美しく、輝いていた。
 一分もしない内に見えなくなったプルウィルスを見送って、私達は王宮へ戻った。



 王宮の庭で待ってくれていたのは、フィー姉さんと皇帝と彼の傍にいた宰相と近衛騎士。
 フィネスから降りて気付いた私は、フィー姉さん以外に大物がいることに驚いてしまった。

「シーナ、どうだった」
「上手くいったよ。竜神から、被害がなかったら千年くらい安定するって褒められた」

 簡潔に伝えれば、フィー姉さんは肩の力を抜いて笑みを浮かべた。
 皇帝達は驚き顔になっていたけれど、逸早く我に返った皇帝が左胸に右手を当てて頭を下げた。

「この国を治める者として礼を言う。国の危機を未然に防いでくれて感謝する」
「私はやれることをやっただけだから。でも、どういたしまして」

 お礼の言葉を受け取れば、皇帝は頭を上げて穏やかに微笑した。
 やっぱり美形が微笑むと破壊力あるね。ネヘミヤ兄さんには負けるけど。

「あ、そうだ。フィー姉さん。魔女の称号を得たよ」
「! ……思ったより早かったな。どんな称号だ?」
「【黎明の魔女】。独自の魔力回路の循環を編み出したからかも」

 教えると、フィー姉さんは顎に手を当てて考え込み、理解したように頷く。

「なるほど。『新しい時代を切り開く魔女』か……。シーナによく似合う称号だ」
「仰々しすぎるけどね」

 フィー姉さんも私の思惑と同じ意味だと感じたようだ。
 魔女として各地を旅するか、それとも森に籠って自由に生きるか。今後の方針をフィー姉さんと相談しなくちゃ。
 あ、その前に。

「家名だけど、レアードにするよ。シーナ・レアード。それが、これからの私の名前」



 それから数日後。法界魔術協会で名前と職種を更新して、フィー姉さんと一緒に帰った。
 私が魔女になったことを知ったネヘミヤ兄さんから祝福され、神剣ホノイカヅチを貰った。
 私が考案した、炎の刀だけど雷の追加攻撃を与えられる特殊な神剣だ。
 そして自分のステータスを確認して、やっと安息することができるのだった。



名前:シーナ・レアード
年齢:17
種族:古代族
職種:【魔女】【聖女】【魔法戦士】
属性:【火】【水】【風】【地】【光】【闇】
体力:A
魔力:EX
攻撃:A
防御:A
幸運:EX
状態:□□□
罪科:□□□
恩恵:【創造神の祝福】【女神の祝福】【根源の祝福】【精霊王の祝福】【竜神の祝福】
称号:【異世界の転生者】【世界に祝福される者】【神々の愛娘】【根源の観測者】【隠匿の人種】【財宝の狩人】【武芸の達人】【最上の聖女】【黎明の魔女】
ギフト:《言語理解・会話》《総合限界突破》《知識獲得》《精霊眼》《強運》《魔力高速充填》《宝物庫》《聖女の祈り》《接続心》
スキル:《身体強化:A》《精神強化:A》《気配感知:S》《魔力感知:S》《索敵:S》《錬金術:S》《調合:S》《魔道具製作:S》《隠密:S》《暗視:A》《歌唱:A》《作曲:B》《作詞:B》《予測:S》《戦術:B》《鑑定:EX》《地図:EX》
ユニークスキル:《時の奏者》《万能戦闘》《神隠れ》


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