新たな旅立ち


 この世界に送られて三年の月日が経過した。
 一年前に【黎明の魔女】の称号を得て、もう少し戦闘技術をみがき上げ、ようやくフィー姉さんから独り立ちすることを許された。
 今後の方針を相談したところ、都会に出て自由に働くことをネヘミヤ兄さんから提案された。

 戦闘力を活かす冒険者。
 治療薬や魔法薬を作る薬師くすし
 魔道具を製作する錬金術師。
 国に貢献こうけんする騎士や宮廷魔術師。
 他にも数え切れない職業といった、いろんな道がある。

 魔女だけではなく様々な職業に就いて世間を知ることも大切。
 そういうことで、経験していない数ある職業の一つ――冒険者になることにした。

 一年前に行った帝都の時に使ったユニークスキル《神隠かみかくれ》の設定を見直す。
 ユニークスキル《神隠れ》は、別の情報欄を作成し、ステータスの隠蔽いんぺい偽装ぎそう、他人からの鑑定や魔眼による影響を受けず、ギフトやスキルを守ることができる。
 ステータス隠蔽・偽装は古代族特有のスキルだけど、古代族の偽装・隠蔽スキルは鑑定や魔眼による影響からステータスを守ることができないそうだ。

 ということで、本来のステータスとは違う設定を作った。


名前:シーナ・レアード
年齢:18
種族:人族
職種:【魔女】【聖女】【魔術戦士】
属性:【火】【水】【風】【地】【光】
体力:A
魔力:S
攻撃:A
防御:A
幸運:S
状態:□□□
罪科:□□□
恩恵:【創造神の祝福】【女神の祝福】【精霊王の祝福】【竜神の祝福】
称号:【神々の愛娘】【財宝の狩人】【武芸の達人】【最上の聖女】【黎明の魔女】
ギフト:《精霊眼》《強運》《聖女の祈りアンジェラス》《接続心コネクトハーツ
スキル:《身体強化:S》《精神強化:S》《気配感知:S》《魔力感知:S》《索敵サーチ:S》《錬金術:S》《調合:S》《魔道具製作:S》《隠密:S》《暗視:A》《歌唱:A》《戦術:A》
ユニークスキル:《万能戦闘》


 種族を『人族』、『魔法戦士』を『魔術戦士』、魔力と運をSに変えて、闇属性と一部の恩恵と称号とギフトとスキルとユニークスキルを隠す。ユニークスキル《神隠れ》は使っている時点で消えるから安心だ。

 本当は大袈裟な称号も捏造ねつぞうしたかったが、全体なら消せるけど一部――例えば【神々の愛娘】を【神の愛娘】――を改変することは無理だった。困ったが【黎明の魔女】や【最上の聖女】の称号のために必要だと割り切った。

「シーナ。何かあれば魔道具で連絡すること。無理をするようなら帰ってくること。君を傷つける者はシリウス殿やセレネ殿、君と友誼ゆうぎを結んだ竜神がゆるさないだろうが、私達も心配することを覚えてくれ。苦しくなれば相談しろ。いいか。君は独りではない」

 フィー姉さんの温かな言葉に、想いに、喜びと感謝の気持ちを抱いた。
 独りじゃない。その言葉だけで、どれだけ救われたことか。

 フィー姉さんとネヘミヤ兄さんのおかげで決意を固め、深淵しんえんの森から出るために空を飛んだ。



 風魔術で飛ぶ技術を磨いたおかげで空の旅を楽しむことができる。
 でも、深淵の森は広大だ。古代族の遺跡がある場所はフィラカス山脈の近くで、約百キロメートルも東に行かないと鉱業ができる鉱山にたどり着かない。それから数キロメートルほど進んだ所に鉱山都市オリヒオという田舎都市がある。
 田舎都市と言っても、他国との国境付近にある辺境だからそう呼ばれているだけ。規模で言うならバシレイアー帝国の北側にある森に面した観光都市ホレフティスと同等。

 鉱山都市オリヒオは、都市にかんした通り鉱業がさかん。どの地域より良質で価値の高い鉱石や宝石を採掘しているから、装飾品や武器関連の商人も目をつけて商売している。武器や防具をあつかっているテュール商会の第二の拠点としても商会の界隈で有名だ。しかも深淵の森に近いから魔力地帯の範囲はんいも広く、高ランクモンスターが多い。

 まる所、冒険者達は強い魔物を相手にしているから質も飛び抜けて良いのだ。
 金銭的きんせんてきに困ってないが、私の実力を発揮はっきしやすい場所として、私もそこを拠点にしようと思っている。

「……まだかなぁ」

 宝具【悠久のころも】がバサバサと音を立てる。念のために空気抵抗を軽減させる魔力障壁まりょくしょうへきを作っているのだが、フィネスより猛スピードで飛んでいるから後ろだけ意味がない。
 途中で昼食をとって休憩し、再び飛ぶこと三時間で鉱山が見えてきた。
 もう数時間で人里だと高揚感こうようかんを覚えた。

「あと少し……あれ?」

 スキル《地図マッピング》で現在地を確認しながら飛んでいたが、スキル《索敵サーチ》に何かが引っかかった。
 少し大きめの赤い点の近くに青い点が三つ。高ランクの魔物と対峙たいじしているのか。
 気になって鉱山の麓の上空まで行き、人影と全長二メートルほどの魔物が見えた。


「グガアアアァァァァァァ!!」


 次の瞬間、衝撃波をともな雄叫おたけびがとどろいた。
 十メートル以上も上空にいる私に届くほどのそれは、三年前と一年前に聞いたことがある。

「……アシエリオンか」

 伝説級のSランクモンスター、アシエリオン。
 銀色の体毛ははがねと同じ硬度を持つ、百獣ひゃくじゅうの王で有名な――獅子ライオン

 今の雄叫びは獅子王の咆哮ほうこう。聴く者の鼓膜こまくを破って平衡感覚へいこうかんかくうばい、衝撃波で吹き飛ばす。
 対峙している三人の戦士はもろに受けたようで、転がりながらも耳に片手を当てて耐える。

 アシエリオンは刀剣類では歯が立たない。通用するのはおのやハンマーなどの打撃系の武器。しかし、彼等が持っている武器は剣、幅広で片刃のバスターソード、弓。これでは全滅してしまう。

「しょうがない」

 見捨てるのもしのびない。というか、見捨てるなんて非道なことはできない。
 良心を傷つけ、後悔するような人生は嫌だ。今生は後悔しない生き方をするのだと、転生した時にちかったのだから。
 この世界に目覚めた時を思い返しながら【悠久の衣】のフードを目深に被った。


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