05-03
遠くの空が橙色にほんのり色付く時間帯になって、ようやく見えてきた鉱山都市オリヒオは、全体的に言い表すなら
高台には、屋敷と呼ぶには大きすぎる、かといって城と呼ぶには小さい建物が建っていた。
上空からの観察が終わって少し離れた林に降り、金の懐中時計で時間を確認。少し寄り道もしたけど、朝の九時から出発して十六時半過ぎで到着したから……八時間と数十分か。
懐中時計を《宝物庫》にしまって門へ向かう。
林を抜けて立派な門の両脇を固めている四人の門番。都市だからか、不正が出ないように厳重に注意しているのだろう。
都市へ出入りする商人や旅人は少なく、むしろ入っていく冒険者が結構いた。
しばらく待って冒険者が全員入ったところで、門番へ近づく。
門番はレザーアーマーを身につけ、右手に槍、左の腰に剣を
私に気付いた一人の門番は、
「門番さん、入場料はいくら?」
「……その前に身分証を」
そういえば身分証がないと都市に入れない決まりがあったな。
手元に身分証を出して見せる。途端に門番は目を見開いて、恐る恐る私に声をかけた。
「……あ、あの……この身分証は本物でしょうか?」
「法の精霊が不正をしているとでも?」
呆れから顔をしかめて言えば、門番はぎこちなく首を横に振った。
「そ、その……少々お待ち頂けませんか? 警備隊隊長にお伝えしなければ……」
「え。入場料を払うだけじゃ駄目なの?」
「申し訳ありません。魔女殿を入場する際の手順を、自分は知らないので……」
……魔女に入場の手順なんているの?
無意識に寄せてしまった眉。軽く寄った眉間の力を抜くために
「わかった。手短でお願い」
「は、はい」
ぎこちなく頷いた門番は左の手首につけている腕輪に触れて、腕輪に向かって話しかける。
携帯通信魔道具か。世に広めて約一年。辺境の都市まで
そんなことを思っていると、連絡が終わった門番は門の奥へ向く。少しして、門の奥から一人の男が走ってきた。他の門番と違って質の高いレザーアーマーを身につけているところを見て、彼が警備隊の隊長なのだと一目で判った。
三十〜四十代ほどの男の顔つきは程々に整っているが
見た目通り厳しい性格なのかと推測した――が。
「貴女が魔女殿で合っている……かな?」
意外と軽い口調で親しみやすい態度に印象が
「そう。身分証を見れば判るよ」
私が言うと、私の身分証を持っていた門番が両手で男に差し出す。
受け取った男は軽く目を見張り、私に返してくれた。
「確かに。入場料に関しては一般と変わりません。ご
「理由は?」
「街の中と外を行ったり来たりする必要のある依頼も多く受ける冒険者が、その度に税金をかけると冒険者達がその街を拠点として使わなくなるからです。そのため街を治める貴族達は冒険者ギルドに所属する冒険者がギルドカードを見せた場合に限り、税金を
なるほど……なら、好都合かもしれない。
「この都市の冒険者ギルドはどの辺りにあるの?」
「……それは、入会するつもりで言っているのですか?」
目を丸くして訊ねる男に、小さく苦笑する。
「身分証にもある通り、これでも魔術戦士だからね。宝の持ち
今後を見据えているという事情を説明すれば、目を
「では、失礼ですがフードを脱いでくれませんか? 顔が判らなければ、何かと不便ですし」
……言われてみれば、ずっとフードしていたな。
確かに顔を知ってもらわないと、この先トラブルに
理解した私はフードを脱いで、ハーフアップに留めたロングストレートの黒髪を外に出した。
昔はお尻を隠すほど伸びていたけど、一年前に背中より下で切った。その後の一年で元の長さ……腰下までの長さに戻った。
手櫛で軽く梳いて男を見ると、彼と、その後ろに控えている門番が固まった。
まるで魂が抜けたような顔は、少し怖い。
「改めて、私はシーナ・レアード。貴方の名前は?」
「……! わ、私はウォーレン・イェーツ。警備隊隊長を務めています」
「じゃあ、ウォーレン。冒険者ギルドはどの辺りにあるの?」
「こちらの東門とミルドレッド大聖堂の間に、大きな酒場があります。そこが冒険者ギルドです」
どのファンタジーの冒険者ギルドも酒場が拠点。それは仕事帰りの冒険者を労わるためでもあり、情報を交換し合う場所でもあるからだ。そこは理解しているが、定番だ、という感想を持つ。
「なるほど。……で、この街の入場料は?」
「小銀貨二枚です」
日本円に換算すれば二千円。転生初日で得た
受け取ったウォーレンは、軽く頭を下げてお辞儀した。
「それじゃあ、通ってください。この街で良き出会いがありますように」
にこりと人の良さそうな笑顔で見送られ、私は鉱山都市オリヒオに入った。
Top | Home