05-04


 都市の中は帝都と同じ中世ヨーロッパを彷彿ほうふつさせる家々や店、建築物が並んでいる。木材や石材で造られた立派な家が立ち並ぶ路上は敷石しきいし舗装ほそうされているため歩きやすい。

 路上には犬や馬を連れている者から馬車で移動する者、屋台を出している者、彼等の店で買い食いしている人々、遊んでいるのか走り回っている子供達までいる。

 一年ぶりに見る人間のいとなみみの中を歩いていると、遠くの方に立派な建物があった。高さはサグラダ・ファミリア聖堂と同じくらい。白を基調とした外観はルネサンス様式に似ている。
 ミルドレッド大聖堂らしき建物が見えてきたから、この近くに冒険者ギルドがあるのだろう。

 周囲を見渡しながらしばらく進むと、木材と石材を組み合わせた三階建ての建物があった。
 開放的な入口から見える受付のカウンター。左側の奥は酒場のような空間が併設へいせつされている。そして建物の上には冒険者ギルドと黒く刻んだ白い大理石の看板がめ込まれていた。

 ここが冒険者ギルドの拠点。判りやすくていい。
 とりあえず入会の手続きをしてから宿を探そう。
 念のためにフードを被り、踏み込もうとした。

 ――だが。

「お前は……!」

 覚えのある声が聞こえた。
 引きりそうな表情筋をなんとか抑え込み、右側へ目を向けると……あの三人組がいた。
 驚き顔で固まっている重戦士の青年とエルフの男。古代族の男は落ち着いているように見えて、軽く目を見張っている。

「閉門時間まで間に合ったようだね」
「ええ……。ところでシーナさん、ギルドにご用が?」
「まぁ……用といえば用かな」

 私の身分証で名前を知ったエルフの男が戸惑いながらたずねたので、曖昧あいまいに答える。
 驚愕から固まっている彼等は放っといて、ギルドの中に入る。

 冒険者ギルドの中では、予想通りの光景が広がっていた。
 荒くれ者が大勢集まり、好き勝手に酒を飲み、殴り合いとまではいかないが喧嘩けんかをし、下品なほど大声で笑っている。
 夕方もあって仕事帰りの打ち上げをする人が結構いるようだ。
 人が多すぎる所為せいで気分が悪くなりそうだけど、受付カウンターに近づく。

 数ある受付の中で、右側にいる緑の制服が似合う受付嬢の方へ行った。
 焦げ茶色の髪を後頭部で纏め上げた女性は、おそらく二十歳近くの十代後半。大きなブラウンの瞳が特徴的で、綺麗と可愛さをあわせ持つ。私と同い年ぐらいかな?

「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」

 利発そうな印象が強い女性は営業スマイルで対応してくれたので、少し肩の力が抜けた。

「ギルドに登録したいんだけど、時間は大丈夫?」
「え。登録……ですか?」

 何故か驚く受付嬢。女性の冒険者もいるのに、驚くことだろうか?
 そんなことを思っていると、受付嬢は抽斗ひきだしの中から一枚の紙とペンを取り出した。

「私は冒険者ギルドの受付をしていますハイジと申します。どうぞよろしくお願いします。では、こちらの用紙に名前、年齢、性別、種族、職種、戦闘で使える特技がございましたら書いてください。代筆はいりますか?」
「いや、大丈夫」

 ハイジという受付嬢からペンを借り、カウンターに出された紙の空欄くうらんに書いていく。


名前:シーナ・レアード
年齢:18
性別:女性
種族:人族
職種:魔術戦士、聖女
特技:魔術、武器全般、錬金術、調合


 ……こんなもんかな? 魔女なんて知られたくないし。聖女に関しては保険だ。

 この世界の聖人と聖女は光属性を持つ者のことを指すが、それ以上に神に何らかの力を与えられている者は、神殿で活動する聖人と聖女の中で別格扱いにされ、好待遇こうたいぐうで扱われる。
 待遇云々うんぬんはどうでもいいけれど、とどこおりなく物事を進めるためには必要なことだとフィー姉さんから教えられた。

 ペンを置いて紙を渡すと、ハイジは目を見張ったけれど声に出すことなく頷いた。

「では、身分証はありますか? 身分証の職業欄を更新する必要がございますので」

 ……そう来たか。
 さっきのエルフや門番の時のような反応されるかもしれない。それだけはけたいのに……。

 思わず渋面じゅうめんを作ってしまったけれど、身分証を取り出してハイジに告げる。

「いい? 大声だけは出さないでよ」
「? はい」

 念を押して頷いてくれたことを確認し、身分証を渡す。
 受け取ったハイジはそれを見て、息を呑んだ。叫びかけたのか口に手を当てて抑え込む姿に、やっぱりそうなるか、と頭を抱えてしまった。

「あ……の……本物、ですか?」
「……法の精霊が不正をするとでも?」
「い、いえっ、そんなこと……」

 恐縮からぎこちなく首を横に振るハイジに、ちょっと泣きたくなった。

「あまり知られたくないからだまってて。立場上で無理ならギルドマスターだけならいいから」
「……分かりました」

 緊張気味に頷いたハイジは、法界魔術協会の身分証を発行するロウズノートと同じものに身分証のカードを置く。すると、ロウズノートが一瞬だけ淡く光った。

「では、身分証をお返しします。ギルドカードは冒険者ギルドの説明を聞いて頂く間に発行しますので、もうしばらくお待ちください」

 身分証を受け取って一瞥いちべつすると、職業欄に【冒険者】と記載されていた。
 ちゃんと更新されていると確認して《宝物庫》に入れ、ハイジから説明を聞く。



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