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「まず、冒険者ギルドは階級制です。最下級のGランクからF、E、Dという風に上がっていきます。Gランクは戦闘を必要としない、いわゆる街の中だけでできる依頼のみを受けることができる初心者用のランクです。例えば店の商品や倉庫の整備、店番、草むしりといった雑用仕事です。この依頼は小遣い稼ぎとして受ける街の住人もいます。E、Fランクは駆け出しや新人のランクとなっております。CとDまで上がればベテランで、AとBは一流や腕利きとなります」

 ということは、私はGランクになるのか。これは何が何でも早くランクを上げないと。

「それと、実はSランクというものがあります。これに関しては世界に数人しか存在していません。それほどの規格外……言っては悪いですが、人外の存在のような人達です」

 ……人外、か。Sランクモンスターを簡単に倒す私って人外になるのだろうか。なんていうか、それはちょっと遠慮えんりょしたいかも……。いや、古代族という時点で人外だけど……人間だった前世があるから抵抗感があるんだよなぁ。

「ここまでで何か質問はありますか?」

 少し沈みかけたけどハイジの声で我に返って、気を取り直して訊ねる。

「街に出ることができる依頼を受けるにはどうすればいいの?」
「ギルドの試験官にある程度の戦闘能力があると認められれば、ランクFに上がることができ、街の外での依頼を受けることが可能になります」

 なるほど、と頷く私を確認したハイジは説明を続ける。

「続いて依頼ですが、あそこに並んでいる依頼ボードがあります。Gランク用、Fランク用といったようにランクごとに受注可能な依頼が貼り付けられています。その依頼書を受付に持ってきて受注すれば依頼の受注は完了となります。なお、依頼書に書かれている報酬については、街に納める税金やギルド側の手数料を抜いた金額になっているので、依頼を達成した場合は記載されている報酬全額が支払われます。依頼に関してですが、規定日数が書き込まれているものについては、その日数以内に仕事を終えることができない場合、報酬の三割を違約金いやくきんとしてギルドに支払ってもらうことになるので注意してください」

 規定日数というものがなければいつまでも依頼を達成しないような者が出てくるだろうし、その際のペナルティとしては妥当だろう。あらかじめ税金や手数料を抜いた金額を記載してくれているという点もありがたい。じゃないと報酬額をどれだけ減らされるか不安になる。

「依頼についてですが、Fランク以上は基本的に自分のランクの一段階上までの依頼なら受注可能で、下限はありません。例えばFランクの冒険者が受け付けられる依頼は、G、F、Eの三つという具合です。一段階上までというのは、無理な難易度の依頼を受けるのを防ぐためにあります。ですので、冒険者を守るという意味でもそういう規則があります」
「ふぅん。じゃあ、ランクを上げるには具体的にどうすればいい?」
「ランクアップに関しては、規定回数の依頼をこなした後に申請しんせいすればギルド側で審査しんさし、ランクアップ可能かどうかを判断します。ただしCからBに上がる時は、ランクアップ試験を受けてもらうことになっています」

 私はできるだけ討伐するのも難しい依頼を熟したい方だ。できるだけ早めにランクアップしたいのだが、そのあたりは厳しいようだ。

「それとパーティーランクというものがあります。これは複数人の冒険者でパーティーを組んだ場合、メンバーの平均ランクがパーティーランクとなってギルドカードに明記されます」

 パーティーを組むことに関しては、私は誰とも組むつもりはない。なんせ今まで一人で戦ってきたのだ。今さら誰かと組んで、巻き込んでしまわないか不安だ。
 まぁ、頼まれたらその時は一時的に協力するけど。

「あと、魔物にもランクがあって……」
「あ、それは知っているから大丈夫」

 魔物のランクや討伐についてはネヘミヤ兄さんから教えられた。
 Cランクの魔物と戦う場合は、複数人のCランクの冒険者のパーティーが若干余裕よゆうを持って戦うことができる感じ。
 これが一般的な魔物のランクの認識。でも、私の実力では、その認識は無いにひとしい。
 ついさえぎっちゃったけど、ハイジは気分を害することなく頷いた。

「分かりました。では、ランクに関しては以上です。続いてはギルドカードについて。今回は初回として登録したので、ギルドカードの作成に関しては無料ですが、紛失した場合は再発行の手数料として小金貨一枚が必要になりますので気をつけてください。このギルドカードはそれなりに高度な技術が使われていますから」

 小金貨一枚……十万円? うわ、高っ。でも、更新機能があるのなら、これは安いのかも……。
 予想外の高額さに驚くが、ギルドカードも魔道具の部類に入るのだと言われると納得する。

「それで、倒した魔物の素材に関しては、ギルドで買い取りもできますが、街中にある店で売っても構いません。基本的にギルドでの買取は一〜二割ほど安くなりますが、買取り審査が素早かったり同じ素材が市場にあったりする場合でも一定の値段となります。それと、ギルド以外で取引をして何らかのトラブルが起きたとしてもギルドでは関知しませんのであしからず」

 普通の店で売るとしたら、商人が値切ってくる可能性が高い。
 それを考えると多少安くてもギルドで売った方が安全であることに間違いない。
 まぁ、私は多少安くても大丈夫。この世界に送られた日にお金持ちになったから、それほど執着しゅうちゃくしていないし。

「最後に、冒険者ギルドは各地方に点在しております。ギルド同士の意思伝達コミュニケーション円滑えんかつにしたりしていますので、ここで作ったギルドカードやランクは他の町の支部でも使用可能となっています。依頼やそのの関係で冒険者同士が何らかの揉め事を起こしたりしても、一般人に被害が出ない限り冒険者ギルドは基本的に関知しません」

 確かに冒険者同士のいさかいは日常茶飯事にちじょうさはんじ。それを毎回ギルド側が対応していたらきりがない。ただし冒険者と違って荒事に慣れていない一般人を巻き込むような被害を起こすと、ギルド側が対処しないといけない。それは冒険者ギルドの責任となってしまうし、適切な処置ができないからだ。

「以上です。解らないことがあれば随時ずいじ聞いてください」

 長々とした説明が終わって、気になったことをく。

「低ランクの冒険者が、高ランクの討伐依頼の魔物を倒した場合は、受注していない状態だから報酬は貰えない?」
「そうなりますね。他に何か質問はありますか?」
「いや。カードはまだかかりそう?」

 訊ねると、従業員の一人がギルドカードをハイジに渡す。
 軽く周囲を見ると、受付嬢や従業員は人族以外に獣人族もいる。猫耳から犬耳、中には兎耳の年頃の女性が多い。
 帝都でも獣人族は見かけているけど、ここまでじっくり見るのは初めてだ。

 ケモ耳、触ってみたいな……。

「ちょうどですね。ギルドカードはこちらになります。表記されている内容が正しいかどうかを確認してください」

 ハイジの言葉にしたがい、ギルドカードを確認する。


冒険者ギルド
登録地:鉱山都市オリヒオ支部
名前:シーナ・レアード
年齢:18
性別:女性
種族:人族
職種:【魔術戦士】【聖女】
階級:G


「……うん。不備なし。……そうだ。ランクアップの時間帯とか決まってる?」
「午前十時から午後六時の間です。今からお受けしますか?」
「お願い」

 頷くと、ハイジはカウンターから離れようとした。
 けど、その前に声をかけられる。

「その相手、俺がしてもいいか?」

 森の中で出会った、バスターソードの使い手だ。
 青年の申し出にハイジが驚いて振り向く。他の受付嬢も、酒場で飲み食いしていた冒険者も、驚きから目を見開いている。

「いいけど……どうして?」
「あのアシエリオンを倒したんだ。どれだけ強いか、どれだけ俺の力が通じるか試してみたい」

 ……綺麗な顔に似合わず脳筋? いや、脳筋って言うほどではない……よね?
 でもまぁ、いいか。顔見知りは作っておいた方がいいだろうし。

「わかった。私はシーナ。よろしく」
「クラウド・ヴェスパー。Bランクだ」


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