05-07
「ギルドマスター! どうしてこちらに……」
ヒースが上げた大声に、私は目を丸くする。
彼女が、ギルドマスター?
この世界でも男女格差は存在する。だから女性がギルドマスターをするなんて意外だった。
彼女から感じる魔力は一般的な量。けれど彼女が纏う風格は、皇帝ほどではないけれど王者の風格に似ていた。
「ニコラスから聞いた時は信じられなかったが……納得した。君ほどの実力者ならアシエリオンを倒すのも可笑しくはない」
「ニコラス?」
「このエルフのことだ」
親指で隣にいるエルフを指差すと、ニコラスというエルフの男は苦笑した。
「私はジュリア・オーガスト。この冒険者ギルドのマスターだ。気軽にジュリアと呼んでくれ」
「……いいの? ギルドマスターがそんな軽くて」
「私は自分より格上の相手に
今の戦いで格上と判断された。
自分の技量と相手の技量を見極める観察眼を持っているようだが、彼女が私より格下だとは思えない。おそらく得意分野においては私より上だと思う。
「ところで、君が倒したというアシエリオンを見せてくれないか? 幸か不幸か、見たことないんでな。あぁ、剥製の方も出してくれ」
ニコラス、余計なことを……。
顔をしかめてしまったが溜息を吐くことで表情を戻し、仕方なく《宝物庫》からアシエリオンの死体と剥製を出した。
突然出現したそれらに驚く
六メートル以上のアシエリオンの剥製に、ギルドマスターで名が通っているジュリアも目を見開いて凝視していた。
「三年前に狩ったやつは国に売ったけど……これ、どこで売れると思う?」
「……それこそ国だろう。いくらなんでも、これを買い取るほど大金を持つ奴、まして手元に置ける家を持つ奴なんて数える程しかいない」
やっぱりそうなるか。面倒だなぁ……。
また帝都に行って王宮に出向かないといけないと思うと憂鬱になる。
溜息を吐いて剥製と死体を《宝物庫》に入れて、ジュリアを見る。
「それで、私のランクはどれくらいになる?」
「あ、ああ……。まずはCランクから始めてもらう。君ほどの実力者が低ランクにいると利益にならないし、何より国が不満を漏らすだろう」
「そんな大袈裟な……」
呆れから眉を寄せるが、ジュリアの顔は真剣だ。
まぁ、一理ある。私はいい意味で有名だ。私が冒険者になること自体驚かれるだろうが、低ランクでいると知っている人達からすれば文句を言う可能性が高い。
でも……。
「新参者がいきなりCランクだなんて、他の冒険者に反感持たれない?」
「その時は知らしめていい。基本的に冒険者同士の争いは
結局、実力行使か。
「ハァ……わかった」
「では、ギルドカードを。ヒース」
「は、はい」
ぎこちなく頷いたヒースにギルドカードを渡して、ジュリア達とともにギルドの中へ戻った。
「ところで、フードを脱がないのか? 顔は知られておかないと困るだろ」
夕食のために酒場に立ち入ろうとしたが、ジュリアに言われる。
確かに一理ある。これでは顔見知りも作れない。
私はジュリアの言うとおりにフードを脱ぎ、髪を外に出す。
途端、店内は一気に静まり返った。目の前にいるジュリア達も固まって私を凝視する。
だからフードを取りたくなかったんだ! この反応、怖いんだよ!
「な、何?」
凄く気まずくて後ろ足を引きそうになる。そんな私に我に返ったジュリアは咳払いした。
「ところで、住む所は決まっているか?」
「……決まってないけど」
まずは宿で過ごし、長期間も滞在するようなら共同住宅に切り替える予定を立てている。
でも、
「なら、俺が住む共同住宅に来い」
不意に声をかけたのは、近くの壁に腕組みした状態で寄りかかっている、あの古代族の男。
彼の発言に、周囲の人々は目を丸くする。
「……どういう吹き回しだ?」
怪訝な顔をするジュリア。
高ランク冒険者と一緒に鉱山の麓にいた時点で、彼も高ランク冒険者で間違いない。けど、ジュリアが少し酷い言い方をしているから、彼は評判が悪いのだろうか。
失礼なことをチラッと考えていると、古代族の男は説明する。
「俺が住んでいる共同住宅は、各部屋の設備が整っている上に広く防音造り。何より守秘義務だ。価格も水代と照明魔道具に使う魔晶石代込みで、ひと月分が小金貨一枚。朝と夕の食事付きなら銀貨五枚を加算。飼っている動物やテイムした魔物がいるなら
優良物件の紹介を聞いて、
確かに下手な宿より安全だ。多少高額だと言っても、十五万円なら納得いく、むしろ設備を考えると地球では安い料金。設備や防音があることにも惹かれる。それに彼の紹介ならスムーズに事を進めることができるかもしれない。
これほど自分の都合に言い話を、ここで断るわけにはいかない。
一つ頷き、顔を上げる。
「じゃあ、そこにする」
古代族の男の提案を受け入れると、彼は淡々とした冷たい表情を僅かに
「俺はエドモン。Aランク冒険者だ」
エドモンと名乗った古代族の男が右手を差し出す。
最高ランクの冒険者ということに軽く目を見張ったが、すぐに静かな表情に戻して名乗り返す。
「シーナ。よろしく」
握り返した
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