鉱山都市の生活


 窓から射し込む朝日が顔に当たって目が覚める。
 見慣れない天井をぼんやりと眺めて、あぁ、と呟く。

「オリヒオに……来たんだった……」
 昨日まで深淵の森にあるフィー姉さんの家で過ごしていたから、感覚が止まったままだった。
 でもまぁ、しばらくすれば慣れるだろう。鉱山都市オリヒオで頑張るって決めたんだから。

 枕元に置いている懐中時計で時間を確認する。時刻は六時前。食堂が開く約十五分前。
 昨日の疲労感が抜けていなくて、もう少し眠っていたい気持ちがあるけど、早速仕事に行ってみたい気持ちが強い。それに二度寝して朝食にありつけなかったら大変だ。
 起き上がった私は部屋着を脱ぎ、いつものワンピースのような白いインナーと薄紺色のズボンを着て、寝癖はないけど念のために櫛で髪を梳かす。そして銀細工の髪留めで、耳の後ろの髪を後頭部に上げてハーフアップに留める。

 着替え終わる頃に、リーンゴーン、と六時を告げる鐘が鳴った。
 盛大な音で眠気が消え、顔を洗って歯をみがき、水差しに入っている水を飲んだ。

「ふぅ……さて、行くか」

 宝具【悠久の衣】という純白のローブに袖を通し、部屋から出た。
 マドラに挨拶して朝食をとっていると入居者達が次々と食堂に集まる。
 昨日と同じ隅の席で食べ終わったところで、エドモンの姿が見えた。

「あ、エドモン。おはよう」
「……ああ」

 私の存在に気付いたエドモンは軽く目を見張り、小さく返した。

「早いな」
「体内時計が正確だから。じゃあ、お先に」

 我が家じゃないから食器は置いたままで、一旦部屋に戻る。
 清潔さを保つために、もう一度歯磨きして準備を済ませ、冒険者ギルドでの仕事後を考えながら『白兎の庭亭』から出た。



 冒険者ギルドに入ると、すでに冒険者がいた。ほとんどが朝食をとっているようで、依頼ボードの前にいる冒険者は二人しかいない。
 私も依頼ボードの前に立って、依頼書を眺める。
 討伐依頼、護衛依頼が多いCランク冒険者専用の中で、森付近に棲み始めたオークの群れの討伐依頼があった。


【オーク】
 顔が豚の亜人型モンスターの総称。体長は成人男性並みで、知能を持つ。基本的に剣や槍、棍棒といった接近戦を行うため武装を好むが、弓を使うオークアーチャー、魔術を使うオークメイジ、全ての能力がオークより上のオークジェネラル、全てのオークを統べるオークキングといった上位種も存在する。ただし、上位種は普通のオークに比べると絶対数が少ない。戦闘技術自体は高くないが、力は強く小手先の技は力技で押し負けることが多い。


 魔物図鑑にあるオークの情報を引き出して、あることを思い出して顔をしかめる。
 オークの種族は基本的におすのみで、繁殖はんしょくには他種族のめすを使用する。一番多く使われるのは人族の女。
 群れるということの有用性を本能的に理解しており、基本的に数匹〜十数匹の群れを作る。ただし希少種や上位種があらわれた場合はより多くの群れを纏め上げるため、百匹単位の群れをひきいることも珍しくはない。その時は集落を作って、人里を襲うこともある。

 集落を作って増える前に駆除くじょした方がいいだろうと思い、その依頼書を取った。

「シーナさん、おはようございます。依頼ですか?」
「うん。これ、お願いね」

 受付嬢のハイジの所へ行き、依頼書を渡す。内容を見たハイジは、ギョッとした。

「え、あの……シーナさん? 初めての依頼でこれは……」
「大丈夫。十匹以上くらい、なんてことないから」

 あくまでも最低数であって、最高数ではない。つまり、絶対十匹だけとは言い切れない。それでも受けるのは、少し嫌な予感がするから。
 安心させるために笑みを浮かべて言えば、心配しながらもうなずいてくれた。

「受注致しました。お気を付けて」
「ん、ありがとう」

 礼を言って、急ぎ足で建物から出る。
 すると、エドモンが建物の前にいた。意外と早いな。

「もう仕事か」
「うん。行ってきます」

 にこりと笑って、東門へ向かった。

 途中で昼食になる串肉やサンドイッチ、飲み物の屋台に立ち寄って買い揃え、数十分ほどで到着する。
 ギルドカードを出して近づけば、警備隊隊長のウォーレンがいた。

「おはよう、ウォーレン」
「! シーナ殿、おはようございます。冒険者ギルドに入ったようですね」

 私の持っているギルドカードで気付いたウォーレンはギルドカードを確認する。そして、目を丸くした。

「……Cランク?」
「ギルドマスターの意向でね。それで、通れる?」
「あ、はい。どうぞ、お気を付けて」

 ギルドカードを返してもらい、都市から出て森の中へ入った。
 スキル《地図マッピング》と《索敵サーチ》を駆使しながら進むと、十個以上の赤い点が浮かんだ。赤い点は魔物の数だから、おそらくオークだろう。
 数えてみると、全部で二十三匹。最低十匹の二倍以上か。まぁ、これくらいなら……。

「ん?」

 じっくり見ていると、驚くことに青い点が五つもあった。
 青い点の対象は味方である人族、獣人族、妖精族など。つまり、一般人がいる証拠。

「これが嫌な予感か」

 顔をしかめ、急ぐために風魔法で飛んだ。


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