06-02


 五人の内に女性がいないことを祈って向かう。だが、聞こえてきた悲鳴は女性のもの。
 奥歯を噛み締めて開けた場所で着地し、スキル《身体強化》を駆使して走る。

 木々の隙間から見えるオークの群れ。逃げ延びて草陰に隠れているのは二人の男と一人の女。残る二人は、オークに追い詰められている、女。
 一人の女の上にオークが伸し掛かる。
 食事ではない、醜い雄の欲望が顔に浮かんでいる。

 頭に血が上り、風属性の身体強化で一気に踏み込んで、オークジェネラルを蹴り飛ばした。

「ブモオォォ!?」

 豚特有の鳴き声で悲鳴を上げる豚顔の魔物。遠くに転がっていくオークジェネラルから視線を外し、後ろにいる女性二人を一瞥いちべつすれば、木を背に縮こまっている女性と私の後ろにいる女性に防音結界を無詠唱で張る。

 ギフト《宝物庫ほうもつこ》から黒い模様を描いた純白の大鎌・死ノ解放者デス・リベレーターを取り出し、軽く頭上で回転させ、柄の先端――石突いしづきを地面に突き刺す。

光ノ鎖レイ・チェイン

 魔力を込めて唱えると、音もなく地面から光のくさりが立ち昇った。
 先端にとげが付いている十本の鎖に、下から、斜めから貫かれる。脳までつらぬかれたオークは悲鳴を上げられず、心臓や臓器を貫かれたオークは掠れた悲鳴を上げて命を落とす。
 一気に十体まで減らして、地面から大鎌を抜くと手近にいる三匹のオークを袈裟斬けさぎりに、下からすくい上げるように、ぎ払うように真っ二つにする。

 残るは十匹。ほとんどがオークアーチャーとオークメイジ、蹴り飛ばして未だ倒れているオークジェネラル。
 オークアーチャーが弓につがえた矢を放つ。瞬時に死ノ解放者デス・リベレーターから神剣ホノイカヅチに切り替え、切り捨てる。打刀うちがたなが纏う帯電たいでんする炎に触れて燃えたと思えば、炎に帯びる電気によってはじけ飛ぶ。


神器じんき:神剣ホノイカヅチ
詳細:神力を込めながら鍛え上げられた武器であるため、神力を持つ者以外は使用不可能の打刀。帯電する猛火もうかを纏い、焼き切った後に電撃の追加攻撃を与えるため、高い攻撃力を持つ。


 続いてスキル《身体強化》を発動して、一瞬で四匹のオークアーチャーをほふる。
 斬られた場所が燃えると同時に、電撃で弾けた傷口から血が噴き出る。

『ブルァッ!』

 続いてオークアーチャーで時間をかせいだオークメイジの魔術を跳躍で回避かいひ
 ウィンドアローという鎌鼬かまいたち、アイスアローという氷の矢を放つが、ぶつかり合って消える。
 その間に宝具【天譴てんけんの銃】を出し――

拡散弾かくさんだん

 引き金を引いた。
 弾けるように放たれた十発以上の魔弾が通常のオークとオークメイジを穿うがち、殲滅せんめつする。
 残るは、オークジェネラル。

「ブモオオオォォッ!」

 己をふるい立たせる雄叫おたけびを上げて駆け出し、ロングソードを振りかぶる。
 私は【天譴の銃】を消して、右手に握ったままの神剣ホノイカヅチで受け止め、強く踏み込んで一文字を描くように振るう。
 一線。すれ違いざまに真横に斬れば、オークジェネラルの刀傷が燃え、電撃で血肉が弾け飛んだ。

「……ふぅ」

 地響きを立てて倒れたオークジェネラルが絶命してから魔物の気配を探るが、周囲に魔物は感じなかった。

 血が付着していない神剣を《宝物庫》にしまい、二人の女にかけていた結界を解いて近づく。
 オークジェネラルに襲われかけた女性の前に片膝をついて目を合わせ、穏やかな笑みを見せた。

「怪我はない?」
「……は、ぃ……」

 先程の恐怖から喉が引きっているようで、掠れた声しか出せない。
 痛々しい姿にまなじりを下げ、そっと目を伏せる。

『〈天上の穏和〉』

 癒しを与える魔法名を優しく唱えた。すると、周囲にいる五人の人間を淡い光が包み込む。温かな光に包まれ、体に溶け込んで消えると、青ざめていた顔色が良くなった。
 不思議な感覚に驚きから戸惑う彼女の頭を、壊れ物を扱うような優しい手付きで撫でる。

「もう大丈夫。貴女達をおびやかすものはもういない」
「……ほん、と?」
「うん」

 笑顔で頷けば、クシャっと顔を歪めて涙を耐える女性。
 大人になったら泣くことに抵抗感を覚える。それは前世でも経験しているから良く知っている。

「……怖かったね。泣きたかったら、今のうちに泣いていいよ。我慢したら心が壊れるから」
「…………ぅっ、うあぁぁぁっ……!」

 務めて優しい声で促すと、張り詰めていたものが消えたのか、女性は思いっきり泣いた。
 ほっと安心して頭をひと無でしていると、隠れていた女性がうずくまって泣いている女性に近づいてなぐさめる。隠れていた男もこちらの女性に駆け寄って背中を撫でてあげたりした。

「……あの……」

 一人の男が私に近づく。服装からして、辻馬車つじばしゃ御者ぎょしゃだろう。

「助けてくれて、ありがとうございます」

 頭を下げた男の顔は強張こわばっているけれど、恐怖という感情は浮かんでいないようだ。
 あの凄惨せいさんな戦い方に怖がられないか心配だったけど、杞憂きゆうでよかった。

「間に合ってよかった。ところで、貴方達は鉱山で働く人じゃなよね? どうしてこの森に?」
「この森の近くに小さな村があるんです。そこからオリヒオに向かっていたのですが……」
「オークに襲われた、か……。災難だったね」

 顔をしかめて言えば、男は小さく頷いた。

「辻馬車も壊されて馬も殺されてしまって……。本当は護衛をやとおうとしたんですが、村の冒険者は少ないですし、断念してしまって……」
「その時は近くの町から冒険者を寄越さないといけないけど、そうしなかったのはお金の問題?」
「……お恥ずかしながら」

 力無く笑う男に、その村がどれだけまずしいのか想像してしまう。
 でも、いくら貧しくても安全性を欠いてしまっては意味がない。
 呆れから溜息を吐いてしまったけれど、少し先にある壊れた辻馬車らしき物に目を向ける。

「じゃあ、私が護衛してあげる。けど、私は冒険者だから……そうね。魔物と遭遇そうぐうして、その魔物を倒した数で銅貨二枚っていうのはどう?」
「えっ!? ……それだけでいいんですか?」
「普通ならもっと取るけど、今回だけだよ。それから辻馬車と馬を用意するから、それを加算して銅貨三枚。どうかな?」
「願ったり叶ったりですが……どうやって?」

 不思議そうな顔をする男に小さく笑い、壊れた辻馬車に近づく。
 深呼吸を一つして、右手をかざし――ユニークスキル《時の奏者》を発動した。

「――『時ノ遡源さくげん』」

 これは特定の時間のみを逆巻き、事象をなかったことにできる便利な魔法だ。
 辻馬車の周りに輪が生じ、くるくると回る。すると、映像が逆再生するように辻馬車が元に戻っていく。ものの数秒で元の形に戻ると、ユニークスキルによる魔法を止めた。

「これでよし。あとは馬……」

 辻馬車の大きさから普通なら二頭くらい必要だろうけど、一頭で充分だ。

【大地を司る力よ、我が声を聴け。我が意に応え、我が命に従い、思うままにかたどれ】

 確固たる形状にするために呪文を唱えて……。

【〈大地の馬ヒッポス・テッラ〉】

 古代魔法をこの世に顕現けんげんさせる。
 大地に宿る気と私の魔力、そして神力が合わさり、琥珀色の馬を創り出す。

 サラブレッドと言ってもいいほどの良馬の姿に満足して振り向くと、彼等は唖然あぜんとしていた。
 無理もない反応だけど、少し可笑しくてクスクスと笑ってしまった。

「日が暮れる前に行くよ。この子に辻馬車を繋いで乗ってくれる? 後はこの子が勝手に動いてくれるから」
「は、はいっ」

 御者の男が元に戻った辻馬車の紐を魔力の塊である馬に繋げる。その間にオークを回収して全員が乗ったところを確認し、私も乗り込んで出発した。

 スキル《索敵》を使って安全な道を進むこと数十分後、ようやくオリヒオの前に到着した。
 周囲にいる人達にかなり驚かれたが気にすることなく、呆然としているウォーレンの所へ行く。

「ウォーレン、ギルドカードの確認と、彼等の入場料の確認をお願い」
「……もう終わったんですか?」
「まあね。この人達を宿に送ってから剥ぎ取りのためにまた出るけど」
「……凄いですね」

 心からの褒め言葉に笑みを返し、ギルドカードの確認と入場料を渡す。

「それとこの人達、討伐対象に襲われた人達だから。彼等の懐を考えて、安くても安心できる宿はない?」
「それならここから左側に進んだところに『森のいこい亭』という宿があります」
「じゃあ、そこにしようかな」

 礼を言って門を通り、そこから歩いて近くの宿に着いた。
 魔力でできた馬を消して彼等を下ろすと、御者の男から小銀貨を渡された。

「あれ? 銅貨三枚じゃなくていいの?」
「助けてくれたお礼もあります。税金まで払って頂いて……本当に、ありがとうございました」

 嬉し涙を浮かべて頭を下げる男と、四人の男女。
 彼等の想いを受け取って、どういたしまして、と笑顔を返した。


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