07-03


 場所変わって冒険者ギルドが所有する訓練所。
 朝から鍛錬(たんれん)に励(はげ)んでいる冒険者達は、皆一様(みないちよう)にこちらに目を向けた。

 キンバリーはAランク冒険者。Cランクである私が軽々しく相対(あいたい)できる相手ではない。稽古(けいこ)をつけてもらっていると思っているのか、嫉妬(しっと)の視線を向けられてしまった。
 まぁ、外野の視線は無視しよう。相手にするだけ無駄だし。でも、そうだな……。

「結界は張っておこうかな」

 おそらく被害が出るだろうから、周囲を巻き込まないために自分達のフィールドに結界を張る。
 すると、キンバリーは辺りを見回した。

「何したんだ?」
「結界を張ったの。周囲の人に被害が出るといけないからね」

 教えると目を丸くして私を見る。無詠唱で魔術を使ったことに驚いたのだろう。

「じゃあ、先攻は譲(ゆず)るよ。――初めから、本気で」

 戦闘狂じゃないのに高揚感(こうようかん)を覚える。それはきっと、初めて本気を出せるかもしれないという期待感があるから。
 好戦的で挑発的な笑みを浮かべると、キンバリーは表情を引き締めた。

 そして――強く地面を蹴った。

 大柄だというのに俊敏(しゅんびん)な動きに感心しつつ、地属性の身体強化でキンバリーの拳(こぶし)を右手で受け止め、流れるような動作で懐(ふところ)に入ると腹部に掌底(しょうてい)を打ち込む。
 小さくない呻(うめ)き声を漏らしたキンバリーは後方に飛びずさり、背負っているハンマーを構えた。

「うおおおおおおお!」

 気合とともに横薙(よこな)ぎに振るう。しかし、私は最小限の動きで避(よ)ける。
 結構な重量感があるのに素早く振り回せるのはスキル《身体強化》があるからだろう。

 推測しながら避けていると、キンバリーはハンマーを振り下ろす。
 私の目の前の地面を叩くつもりだったろうが、私はタイミングを合わせて一歩前に踏み出し、地属性の身体強化にスキル《身体強化》を重ね――左腕を翳(かざ)して受け止めた。

 ドンッと鈍い音が響く。私を中心に風圧が広がる。
 それでも私はびくともせず、姿勢を崩さず普通に立っていた。

「良い攻撃だ。でも――!」

 これでもかというほど目を見張るキンバリーの横腹(よこばら)に回し蹴りを入れた。
 鞭(むち)のようにしならせて繰り出した強烈な蹴りをくらったキンバリーは横へ吹っ飛ぶ。だが、意外と飛ばず、膝を付けずに踏ん張って立つ。多少滑(すべ)ったが、すぐに体勢を立て直した。

「へえ、あの状態で直撃を避けたんだ。意外と俊敏だね」
「ぅぐっ……そーいうお前は馬鹿力だな。骨に響いたぞ」
「地属性の身体強化とスキルの《身体強化》を同時に使ったから」

 魔力による身体強化とスキル《身体強化》を同時に使うなんて前代未聞(ぜんだいみもん)の技術だけど、訓練した甲斐があって自在に扱(あつか)えるようになった。
 ついでに言うと、宝具であるローブの効果もある。

 宝具【悠久の衣】。羽毛のように軽いのに竜の鱗(うろこ)以上の強度を持ち、破格(はかく)の魔術・物理防御を誇(ほこ)る純白のローブ。また、暑いときには涼しく、寒いときには暖かくて快適な着心地を得られる優れものだ。更に魔力を通すことにより、あらゆる汚れを除去する効果もあるから汚れても平気。
 大抵の物理攻撃にも耐え切る性能を持つおかげで、骨に響くことも、痣(あざ)も作ることもない。

 宝具のことは伏せて独自の技術を明かすと、目を見開いて驚愕するキンバリー。
 今の彼はまだ戦えそうだ。だって、パーティー名にもなっている魔武器の真価を発揮(はっき)してない。

「で……魔武器の力を使わず手加減しているのは、私が武器を使わないから?」
「……当たり前だ。殺しちまうかもしれねーし、フェアじゃねえ」

 公平な戦いを望むとは、まさしく戦士だ。
 真剣な顔で言ったキンバリーに、内心で漢(おとこ)だと称賛(しょうさん)した。

「なら……私も敬意を払おう」

 淡い笑みを浮かべた私は、流麗な黒い模様が入った純白の大鎌・死ノ解放者(デス・リベレーター)をギフト《宝物庫(ほうもつこ)》から出す。
 突然の武器の出現に目を丸くする人々の気配を感じつつ、死ノ解放者(デス・リベレーター)を一振りする。たったそれだけで強烈な風圧が生み出され、砂埃(すなぼこり)が舞う。
 目の前にいるキンバリーは目付きを鋭くしたが、口元に獰猛(どうもう)な笑みを刷(は)いた。

「行くよ」
「……おう」

 キンバリーが返事をして、一拍後に踏み出す。
 同時に駆け出し、袈裟斬(けさぎ)りのように振り下ろされるハンマーに、同じく袈裟斬りで迎(むか)え撃つ。
 鋼鉄同士を打ち付け合うより鈍く、それでいて高い音があたりに響く。
 たった一度武器を交えただけで、キンバリーは「ぐぅっ」と呻く。それに気付かぬふりをして、何度も武器を振るう。

 死ノ解放者(デス・リベレーター)は光属性を持つ者のみ重量軽減の能力を発揮する。魔力を込めることで切れ味も強度も上がり、威力を増す。
 だが、自動的に発動する重量軽減能力以外、今は使っていない。何故ならキンバリーは氷冷の鉄槌の力を引き出していないから。

 キンバリーの攻撃の速さと癖に慣れていき、徐々に武器を振るう速度を上げる。

「ぐっ……ぅぉおおおおおっ!」

 雄叫びを上げたキンバリーの魔武器から冷気が発生する。打ち合った瞬間、氷冷の鉄槌に触れた死ノ解放者(デス・リベレーター)の刃(やいば)が凍り始めた。
 少し驚いたが魔力を通して強度を上げれば、刃についた氷は砕けて消える。


魔武器:氷冷の鉄槌
詳細:水属性と風属性を持つ者が使いこなせるハンマー。冷気を発生させて、触れたものを瞬間的に凍らせ、物質を脆(もろ)くする特性を持つ。火属性の魔武器や防具に対して効果は半減する。


 死ノ解放者(デス・リベレーター)を出していない時に《鑑定》した内容を思い出し、効力を実際に見て納得した。
 確かにこれは当たると死んでしまう。それでも【悠久の衣】で受け止めれば何とかなりそうだ。けれど慢心(まんしん)して失敗してはいけないので、同じ魔武器で対抗する方が安全だ。

 キンバリーの魔武器は氷属性。相性を考えるなら神剣ホノイカヅチを選んだ方が正解だった。だけど一気に片付けたら勿体無(もったいな)いので、ここは死ノ解放者(デス・リベレーター)が適切。

 周囲が一気に冷え込むが、宝具【悠久の衣】が暖房(だんぼう)機能を発揮してくれたおかげで寒くない。
 だが、周囲の気温が徐々に下がっていき、冷気が肌を刺し、吐息(といき)が白くなる。しかも晒(さら)されている顔が冷たくなった。流石(さすが)に戦闘中にフードを被るわけにもいかない。
 仕方ない、と胸中で呟き、地属性の身体強化から火属性の身体強化に切り替えた。

 風属性の持続(じぞく)可能な高速移動、地属性の恒常的(こうじょうてき)な筋力強化とは違い、火属性は強烈な破壊力を誇る。ただし瞬発的(しゅんぱつてき)な身体強化なので、一回につき一瞬で終わってしまう。しかもタイミングを間違えれば不発に終わって、使った意味がなくなり魔力の無駄遣(むだづか)いになる。
 他の属性と違って使い勝手が悪い。それでも使い方次第で鋼鉄を素手で破壊し、使っている間は火属性の恩恵で体温が上昇して寒さ対策ができる。
 持続性がないところは面倒だけど、ハンマーの破壊力に対抗する破壊力を考えれば妥当(だとう)な判断。

 キンバリーが氷冷の鉄槌を下から振り上げる。
 私は彼と同じ攻撃を仕掛けると同時に、火属性の身体強化を発動。

「ぐぉわっ!?」

 今まで以上の音が響き渡った途端に、キンバリーは仰(の)け反(ぞ)って軽く吹っ飛ぶ。
 思っていた以上の威力を発揮して少し驚いたが、距離ができる瞬間を狙っていた私はすぐさま別の行動に移る。
 はっきりと目に見えるほど硬い霜柱(しもばしら)が立つ地面に右膝をつき、大鎌の石突(いしづき)を突き立て――

「光ノ鎖(レイ・チェイン)」

 イメージと共に光属性の魔力を一気に込めた。
 刹那、キンバリーが体勢を立て直して止まった地点から六本の鎖が立ち昇る。
 地面を壊さず出現した鎖はアナコンダより太く、淡く発光している。
 キンバリーの動きを封じるように囲んだ鎖は、彼の頭上で交差してアーチを作り、半周すると鎖の先端についている棘(とげ)の切っ先を向けて停止する。
 巨大な鳥籠(とりかご)の外から構えられた、六本の棘。まさに処刑寸前(しょけいすんぜん)の囚人(しゅうじん)になってしまったキンバリーは盛大に引き攣(つ)った。




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