07-04


「――チェックメイト」

 鋭さのある無表情を崩して、口元に笑みを浮かべる私。
 死ノ解放者デス・リベレーターを地面から離さないように立ち上がり、鎖に囚われた時点で混乱から叫ぶキンバリーを見る。

「うぉおお!? な、何だ!? こりゃどうなってんだ!?」
「あははっ、良い反応。処刑にかけられた囚人みたい」
「イヤな表現をすんな!! 頼むから笑ってないで説明してくれ!!」

 反応が面白すぎて笑ってしまう私に切実な声を張り上げるキンバリー。
 笑いすぎては可哀想かわいそう……とは思わないが、失礼だと感じて説明する。

「この大鎌の魔武器・死ノ解放者デス・リベレーターは特殊でね。光属性を持つ者じゃないと扱いが難しい上に、こういった特殊能力を発動できない。特殊能力は『光ノ鎖レイ・チェイン』という自動追尾する鎖の召喚。ただし意識すれば今みたいな芸当ができるから、魔物の拘束や捕縛とかにも便利」

 説明が終わると地面にくっつけていた石突を離し、地面から伸びていた鎖が消える。

「ということで、私の勝ち」

 にこりと笑い、死ノ解放者デス・リベレーターを《宝物庫》にしまう。
 敗北したキンバリーはくやしそうだけど、ガックリと肩を落として盛大に息を吐き出した。

「まさか負けるなんて……エドモン以来か? つーか最後の一撃は反則だろ。あんな力、スキルでもありえねーよ」
「火属性の身体強化は破壊力の強化だからね。ただし一度に一瞬だけしか使えないから、使いどころが難しいの」
「にしては上手く使ってるよな」
「修行の成果だよ」

 戦闘後とは思えない軽い会話。少し前まで息切れしていたキンバリーと違い、私は息切れしていない。それだけ戦闘技術が上がったということだ。
 それより、結界の中が寒い。地面も霜柱だらけ。
 しょうがないので地面を踏みつける動作で魔術を発動した。霜柱をかすためだけに火属性と地属性を掛け合わせると溶岩ようがんになってしまうため、今回は地属性だけで大地を活性化させて温度を上げ、霜柱を溶かす。
 指を鳴らして結界を解除。周囲を見渡せば、訓練所にいる全員が言葉も出ないほど驚いていた。

 ……また目立ってしまったよ。

 湿っぽい溜息ためいきいてエドモン達がいる訓練所の端に目を向けると、彼等もあんぐりと口を開けていた。少ししか感情を表に出さないエドモンでさえ、驚嘆しているのだと目に見えて判るくらい目を見張って、ぽかんと口を小さく開けている。
 このままでは時間が無駄に過ぎていくので、唯一親しいエドモンに声をかける。

「エドモン、これからどうするの?」
「……あ、あぁ。俺は仕事に行くが……いや、それよりも」

 我に返ったエドモンは寄りかかっていた柵から離れ、私に近づく。

「対人戦で、ここまでできるとは思わなかったが……手加減したな?」
「……は? 手加減……?」

 さっきまでエドモンの近くにいたリョーマ少年が間の抜けた声を出す。それに気付いたエドモンが言う。

「こいつが本気を出したら、一瞬で首をね飛ばして終わるぞ」
「うえっ!?」

 引き攣った顔でドン引きの声を上げる。その反応より、エドモンの発言の所為せいで顔の半分を右手で覆ってしまった。

「……エドモン、その言い方はいろんな意味で怖いよ。ていうかドン引きされたじゃない」
「俺は事実を言ったまでだ。現にあの魔物の首を切り落としただろう」

 あの魔物とは、伝説級の獅子型の魔物アシエリオンのこと。
 そういえば初対面の時、空から落下してアシエリオンを倒したんだった。アシエリオンに対して通常ではありえない倒し方を可能にする宝具【両儀の剣】で、ギロチンのように。

 思い出した私は顔をしかめて言い返す。

「あれは非常手段。あの魔物の普段の手順なら、自滅で弱らせてから矢を口に入れて終わらせているのに……」
「……その発言の方が恐ろしいぞ。というかあの魔物を自滅させられるのか」
「反響する結界に閉じ込めて、自前の咆哮ほうこうでね。大音量の声と衝撃波で耳と体内を攻撃できるし。しかも消費する魔力は僅かだから凄く楽」

 最後の一節は拳を握って手順を力説すると、エドモンは呆れ顔で溜息を吐いた。

「そんな芸当はお前だけだ」

 ……否定できないのは何故だ。
 空笑そらわらいが浮かんでしまったが、小さな溜息を吐いて気持ちをしずめる。

「それで、お前も仕事か?」
「そのつもりだったけど……学園の問題を話し合わないといけなくなったから帰るよ。早く対処しないと死人が出る」

 本当は仕事に行きたかったけれど、この問題は早く改善させないといけない。
 真剣な表情で真面目に言えば、エドモンは小さく頷いた。

「お前なら上手くいくだろうな」

 そしてまなじりを下げて、穏やかな顔を見せた。
 間近にいる私だから判る、僅かな変化。

 初めて見るその表情に目を見張ると、私の頭をひと撫でしたエドモンはギルドへ向かった。
 彼の背中が見えなくなって、《宝物庫》から懐中時計を取り出して時間を確認する。
 時刻は午前十一時前。出店で食べ物を買ってから『白兎の庭亭』に戻ろう。

「えっと……シーナ、さん?」

 懐中時計の蓋を閉じて《宝物庫》に入れたところで、リョーマ少年の傍にいた少女が私に声をかけてきた。

「何?」
「あの……さっきの武器、どこにしまったんですか?」

 恐る恐るといった様子で訊ねる少女。
 確かに魔武器を何もないところから出したり消したりすると可笑しい。
 怪しまれるといけないので、右手の甲を向けて中指を見せる。

「アイテムボックスがあるから」
「「……ええ!?」」

 右手の中指につけている、幅の広い指輪。存在感のあるそれに、少女とリョーマ少年が叫んだ。

 この指輪型のアイテムボックスは本物。ただギフト《宝物庫》をカモフラージュするために用意したものだ。それでもアイテムストレージ以外に盗難防止の防衛システムまで、盛り込めるものは全て盛り込んだ最高傑作。

 カモフラージュのためとはいえ手を抜くなんて勿体無いと思って開発したけれど、使わない方が勿体無いと気付いた頃には既に完成していた。それでも伝説級の魔道具だから、手を抜いた時点で気付かれてしまう。それならこれで良かったのではないかと、自問自答の悪循環ループおちいった。
 今となってはいい経験だから、今後に活かせたらいいと片付けた。

 過去の苦労を少し思い出していると、リョーマ少年が勢いよく質問してきた。

「ど、どこで手に入れたんだ!? ああいや、ですか!?」
「あー……秘密」

 作りました、なんて言ったら大問題が発生するだろう。

 曖昧あいまいに答えて笑うと、彼と少女とマードック少年は石像のように固まった。
 いつ見ても変な反応だと思っていると、女性が私に近づいた。

「アイテムボックスか……。シーナ、すまないが後学のために見せてくれないか?」
「これは私以外に使えないようになっているけど、それでもいい?」
「……君以外に使えない?」
「そう。持ち主の魔力を記憶するのか、持ち主の魔力以外に反応しないようになっているみたい」

 アイテムボックスの機能をインプットする魔法陣に、その機能を組み込んだから当然だ。
 あの時はかなり苦労したなぁ。

「それでも見せてくれ。伝説級の魔道具なんだから、後日礼をさせてもらう」
「……まぁ、いいならいいけど」

 そう言って指輪を渡すと、女性はまじまじと観察する。

「なるほど、確かに強力な魔力を感じるが……これは……」

 熱心にアイテムボックスの指輪を見つめる女性から目を離し、魔武器・氷冷の鉄槌の手入れが終わったキンバリーがこちらに来る。

「うお、ジェニファーがあんな顔をするなんて久しぶりに見たぞ」
「……ジェニファー?」
「お前のアイテムボックスを見ている、俺の妻だ」

 ここで、目を点にした。
 こんないわおのような男と色っぽい美人さんが夫婦だなんて……信じられない。

「……信じられないって顔だな」
「だってこの組み合わせ……美女と野獣じゃん」
「俺、野獣か!?」
「じゃあ、マードック少年が二人の息子さんってわけね」
「無視しないでくれ!」

 切実にうったえるキンバリー。あれ、相手は年上なのに扱いが雑になってきた?

「えーっと、ごめん?」
「……シーナも癖のある奴だな」
「癖のない人間なんて人間じゃないよ。癖は個性なんだから、呆れるように言ったら失礼だよ」
「……若いのに深いことを言うなぁ」

 若いと言っても、転生する前は二十代前半だった。この世界に転生して三年が経ったから、精神年齢は二十代後半になる。それって若いと言えるのだろうか。


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