07-05


「そういえば魔力が多い奴って老化が遅くなるんだったな。実際はいくつだ?」
「女性にそれを聞くなんて不躾ぶしつけね……。無神経なの?」

 思わず毒づいてしまうほど、キンバリーの質問は無神経だ。女性の敵とまではいかないけど、いつか女性から非難を浴びるだろう。
 心底嫌な顔をすると、キンバリーは「す、すまん」とぎこちなく平謝り。

「私はまだ十八歳だからいいけど、他の女性に年齢を聞いたら不名誉ふめいようわさが広まるから気をつけてね」
「お、おう……。にしても十八歳か。マードックの一歳上だな」
「ていうことは十七歳? いつから冒険者をしているの?」
「冒険者は成人してようやく入れる規制がかけられているからな。十五歳になった誕生日に登録したんだ。つまり、リョーマとアスカとは同期で、二人より少し後にCランク冒険者になったってことだ。Cランク冒険者としての日はシーナよりあるが二人より浅い」
「父さん! そこまで言わなくても……!」
「事実だろう。それでリョーマに突っかかるのもいい加減にしろ」

 あせって文句を言うマードック少年に注意するキンバリー。彼の言葉に、マードック少年は自分のことを赤裸々せきららに言われて恥ずかしそうに赤面して奥歯を噛み締める。
 マードック少年の悔しいという思いも、恥ずかしいという気持ちも理解できる。

「別に昇格が少し遅れても、積み重ねて得た実力に影響はないでしょう? 日が浅いと言っても、これまでの経験が劣るわけでもないんだし。ただ受注できる仕事量が増えるだけで変わりはない」

 真剣な顔でマードック少年を見据えれば、彼は目を見開く。

「競争の意味で悔しいなら、彼等より先に上に行けばいい。それだけの実力はあるんでしょう?」
「……! ……ああ」

 まなじりを下げてさとすように言えば、マードック少年は衝撃を受けた顔で口を引き結ぶ。そして、力強く頷いた。

「だったら今まで以上に精進しょうじんすればいい。ランクなんて世間の格付けは、自分の実力を制限するようなもの。そう考えればランクの有無なんて、些末さまつなことだと気にならなくなるから」

 最後は穏やかに微笑んで言い聞かせると、マードック少年はまた赤面してしまった。
 あれ、可笑しいな。諭したはずなのにこの反応は……。

「……年齢詐欺さぎしてないか?」
「キンバリー、失礼だぞ」

 ジェニファーが失礼な暴言を吐いたキンバリーの頭に杖を叩き込む。
 ボグッと鈍い音が辺りに響く。顔をしかめる者、引き攣る者が周囲にいるけれど、リョーマ少年と少女は彼等の反応と違い空笑いを浮かべていた。

「いでっ! お、おいジェニファー、それは魔術の安定装置であって棍棒こんぼうじゃあ……」
「黙れ、馬鹿亭主。女性に失礼なことを言いすぎだ」

 対する無表情の私は、ジェニファーのにらみにちぢこまるキンバリーを見て、このパーティーの中で誰に発言権があるのか悟った。

「苦労するね、ジェニファーも」
「わかってくれてありがたいよ。それと、見せてくれてありがとう」
「どういたしまして」

 ジェニファーから返されたアイテムボックスを受け取って右手の中指につける。
 ふと、驚き顔のリョーマ少年と少女の視線に気付く。

「……何?」
「あ、い、いや……」

 歯切れ悪く、そしてぎこちなく目を逸らしたリョーマ少年はジェニファーに訊ねる。

「そ……そういえば魔女って、どういう人のことを言うんでしたっけ? ジェニファーさん」

 唐突すぎるリョーマ少年の発言に、人知れず瞠目どうもくする私。

「魔女か……。彼女達は魔術師とは違う高次こうじの存在だ。歴史に名を刻むような偉業をげ、その技術で世に貢献こうけんする魔女から隠匿いんとくする魔女がいる。魔女の称号は、歴史に名を刻んで初めて得るものだからな」

「違う」

 どうして脈絡もなく『魔女』という言葉が出てくるのか。一瞬思考が停止してしまったが、ジェニファーの説明で正常に戻る。

 同時に悟った。
 どうして日本人の顔で、日本名なのか。
 どうして二人が同じ顔で驚いたのか。
 どうして、この場に出てくるはずのない『魔女』という単語を出したのか。

 それは、彼等が地球から転移された異世界人だからだ。

 納得したけれど、ジェニファーの間違った説明を聞いて反射的に否定してしまった。
 魔女は、ただ偉業を成し遂げて得るほど簡単なものではないから……。

「魔女は歴史に名を刻む者。それは間違いないけど、魔女は……そんな陳腐ちんぷなものじゃない。魔女はね、誰もが思いつかない、誰もが生み出さないもの生み出した者が得る世界の称号だよ」
 静かな、それでいて硬い表情。そこから気迫を感じたのか、彼等は息を詰めて固まってしまう。

「世界の……称号? どういうことだ?」

 近くにいるジェニファーもその一人だが、私の説明に引っかかったのか疑問を投げかけてきた。

「そのままの意味だよ。魔女の称号は世界からたまわわる。それはこれまで世界になかった新しい技術を生み出すからだ。例えば【創生そうせいの魔女】。彼女は史上初の魔道具を作った女性だから、その称号を得た。他にも治療薬を初めて作った【創薬そうやくの魔女】、作物を生産する技術を広めた【豊穣ほうじょうの魔女】、そして史上初の魔女となった最古の魔女――【語源ごげんの魔女】がいる。実はね、【語源の魔女】が今の共通語と魔術言語を生み出したんだよ。彼女がいなければ、今頃の人々は言葉で通じ合うことはできなかった。つまり、魔女は極端な技術を生み出した女性のみが得られる称号。称号を得たら、世界のことわりや魔術の根幹こんかんを見守る存在になるけど……」

 一気に魔女の詳細をかたった私は、ふぅと息を吐く。

「まぁ、近頃の魔女は大半が神の愛娘だから、余計に高尚こうしょうな存在になってしまったけどね」

 こんなに長々とした説明は久しぶりだ。冒険者ギルドの前でもそうだったけど、魔女の説明は特に疲れる。私も魔女としての矜持きょうじがあるから、陳腐なものとして知られるのはいただけない。
 自業自得な説明会が終わって改めて彼等を見ると、彼等は瞠目していた。

「どうしたの?」
「あ、あぁ……。これまでの魔女の認識がくつがえされたから……その、壮大そうだいすぎて……」

 ジェニファーが取留めなさそうに感想を言った。
 世間から見た魔女はどんなものなのか知りたくなった。おそらくジェニファーのように、ただの偉人と認識する人が多いのだろうけど。

「それにしてもシーナは詳しいな。どこで知ったんだ?」
「え? あぁ……契約している精霊とか」
「契約!? 精霊と!? 見えるのか!?」

 ジェニファーの質問に答えると、驚愕の声を上げるマードック少年。

 そういえば精霊が視える人は少ないんだった。
 世間の常識を思い出して失言だったと思ったが、「まぁ、普通に見えるよ」と返す。

「あ、そうだ。リョーマ少年と……アスカ少女、だっけ?」
「えっ、あ、あぁ……。いや、そうだけど……少年とか少女はちょっと……」
「じゃあ、リョーマとアスカ。少し話したいことがあるんだけど、これから予定はある?」
「ありませんけど……話って……?」

 ぎこちなくリョーマが言ったので訂正して告げると、アスカが恐る恐る聞き返す。

「貴方達について、少し聞きたいことがある。時間を割いてもらってもいい?」
「「……はい」」

 優しく問いかけるけど、私の今の目付きは少し鋭いから有無を言わせぬ形になってしまった。
 まあ、結果的にいい返事だったので、少し肩の力を抜く。

「それじゃあ、落ち着けるところに移動しよう。私はこっちに来て日が浅いから、どこか良い所はない?」
「それなら俺達が住んでる共同住宅に……」

 共同住宅はどこにでもあるけど……何だろう。なんか変な予感がする。
 わだかまりに似た妙なモヤモヤが胸中に生じたけれど、「じゃあ、そこで」と言って受け入れた。



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