01-03
ベッドではなく地面で眠った所為で体中が痛かったが、充分な睡眠をとれた。
食料にある林檎を食べて軽い体操をして、
「よしっ、行こう」
鬼が出るか蛇が出るか。はたまた違うものが出るか。
緊張感を持って、階段を下りた。
地下一階は、一階と同じく迷路のような場所。ただし、ヒカリゴケという光る植物が生えていた一階と比べて地階の方が暗い。
暗闇に慣れるために瞼を閉じてみる。
――スキル《暗視》を習得しました――
新たなスキルを手に入れた。
ゆっくり目を開けば、鮮明な景色が視界に映った。
豆電球を点けている部屋以上の暗さだったのに、《暗視》のおかげではっきりと見える。
そこまではいい。問題は地階の空気。濃密な魔素が充満している
魔素の濃度が高いと魔物が出やすいらしいから、きっと魔物がいるはずだ。
生唾を飲んで慎重に進む。《地図》で道を確認しながら歩いていると、重量感がある足音のようなものが聞こえた。
まさか……魔物?
どうしよう。まだ生き物を殺す覚悟ができてないのに……。
隠れられる場所は一ヶ所だけ。袋小路になっている通路へ右折して、
一度、深呼吸をする。息を吸い、深く吐き出し、緊張感を無理矢理
――スキル《気配感知》を習得しました――
――スキル《魔力感知》を習得しました――
――スキル《
――スキル《
……こんな簡単にスキルを覚えていいの?
スキル習得のお知らせのおかげで恐怖心が薄れ、息を潜めて敵が通過する瞬間を待つ。
《地図》のスクリーンに映っている赤い点が近づく。心臓が激しく脈打つ中、冷静さを損なわず待ち構える。
足音が大きくなり、通路を真っ直ぐ進む魔物の影が見えた。
魔物の正体は、巨大な熊。
ただの熊ではない。体毛が真っ赤で、長く鋭い爪を持っている。
通過する際に《鑑定》で見えた魔物の名称は、レッドグリズリーと言うらしい。
Dランク指定のモンスターで、通常の熊より凶暴で凶悪。理性もなく、獲物を見つけると見境なく襲いかかる、
本音を言うと、
レッドグリズリーの姿が見えなくなって、足音を立てずに通路へ出た。
「
大鎌に魔力を込めると、淡く発光する鎖が生じた。光属性が宿った鎖は、地球の巨大蛇で有名なアナコンダのように太く、長い。
レッドグリズリーは気付かない。その隙に鎖を操作して、レッドグリズリーを捕縛する。
「グガアァァッ!」
ビリビリと鳥肌が立つほど恐ろしい雄叫び。
「ッ……ぁぁあああッ!!」
足が
振り向きかけたレッドグリズリーの首を、
すぐさま距離を置けば、首から
――スキル《身体強化》を習得しました――
――スキル《精神強化》を習得しました――
新しいスキルが頭の中に浮かぶと同時に、荒ぶる気持ちが鎮まっていく。
「はぁっ、はぁ……ふぅ」
肩から力が抜け、一息つく。
初陣にしては呆気なかった。手際が良かったこともあるけれど、少し
後ろから殺すなんて武士としては
……それでも、生き物を殺すなんて……したくなかった、な。
感傷を振り払い、レッドグリズリーの死体を《宝物庫》へ収納。通路に流れた血は……。
『〈
胸の奥に熱を宿し、右手を
光属性って便利だ。治癒の他に浄化魔術まで使えるのだから。
あれから何度か戦闘を繰り返し、《地図》に映っている開けた空間に到着した。
何もない場所かと思いきや、大理石のような床一面に文字が彫り込まれていた。
「……魔法陣?」
空間の中央に立って全体を見ると、それは魔法陣だった。目覚めた時に見た七芒星の魔法陣と似た陣形と彫り込みがあるから、きっとそうだ。
おそらく何らかの儀式をする場所だろう。しかし、大気中のマナが淀んでいる所為で、魔法陣の一部が見えにくくなっている。
せっかくだから浄化してみよう。
『〈
念のために光の球で明かりをつけて、瞼を閉じても明るく感じるようにする。
目を閉じ、肌で覚えた神界の清浄な空気の感覚を鮮明に
今までの浄化魔術より強力な魔術の呪文は……。
【〈
生前、執筆していた小説に使ったギリシャ語とラテン語を組み合わせた呪文が勝手に出た。
次の瞬間、体中が揺さぶられるような激しい感覚に支配される。
「うっ、カハッ……!」
呼吸が詰まり、肺が空っぽになるくらい息を吐き出す。
酷い
過呼吸になったかのような息苦しさに意識が
淀んでいた空気が一気に浄化される。暗かった空間が眩しくなる。
――称号【最上の聖女】を取得しました――
――ギフト《
頭に浮かんだ文字が何を意味するのかも解らないまま、意識は闇へ沈んだ。
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