07-06


 ……で、案内された所は共同住宅『白兎しろうさぎの庭亭』でした。

「……貴方達もここに住んでいるの?」
「えっ!? 『も』って……シーナさんも?」

 目を見開くアスカの問い返しに小さく頷く。

「今まで会わなかったけど、どこか遠くまで仕事に行っていたの?」
「商人の護衛でエンポリアーまで……」

 それを聞いて、納得した。だから今まで会わなかったのだと。

 商業都市エンポリアー。バシレイアー帝国の南西に位置する中規模の都市だが、商人達が集まる場所。帝国の中で最も経済的に安定しているのは、商人が集う商業ギルドがそこにあるから。他の都市と比べて人気は底辺だけど、実力者がいる都市として名が知られている。

 鉱山都市オリヒオは、バシレイアー帝国の東側にある。商業都市エンポリアーまで行くには、地図で表すならななめ左下に行かないといけない。しかも護衛だから徒歩、または辻馬車つじばしゃに同乗することになるから、到着するまで一週間前後もかかる。依頼者である護衛対象の調子も加味かみすると、更に時間がかかる場合だってある。
 かなり疲れる旅だったと思う。私は護衛の依頼、受けるのは止そうかな。

「何て言うか、お疲れ様」
「はは……サンキュー」

 空笑いするリョーマにどれだけ苦労したのか手に取るように解った。
 ……うん、護衛依頼はけよう。
 心に決めて『白兎の庭亭』に入り、空いている隅のテーブルに座る。

「さて、と……まずは食事かな」

 ぽつりと呟いて、《宝物庫》から出店で買った料理を取り出す。
 ホットドッグのように肉と野菜を挟んだ総菜パン、サンドイッチ、オーク肉の串焼き――味付けは塩胡椒しおこしょう・秘伝のたれの二種類――、スープを入れた容器、果実水を入れた水筒、あとはコップとスープカップを三個ずつ。
 どれもこれも出来立ての時と変わらない温かさがあり、串焼きの肉汁も皿にしたたっている。

 《宝物庫》の中はアイテムボックスと同じで時間が止まっているから、保存も効いて助かる。
 三人前はある量を出したけど、《宝物庫》に入っている料理はまだある。それでも明日、また買って溜めておこうと決めた。

「出店の料理で申し訳ないけど、仕事帰りの慰労いろうねておごるよ」
「ええっ!? いいんですか!」
勿論もちろん。聞きたいことに付き合わせちゃうから、そのおびも兼ねて」
「「ありがとうございます!」」

 二人が明るい顔でお礼を言うと、両手を合わせて「いただきます」と唱えてから食べ始めた。
 やっぱり日本人だなぁ、となつかしい気持ちになった。

 私もホットドッグに似た料理を口にして、コップに注いだ果実水を飲む。
 キンバリーとの勝負で疲れたし、昼時もあって空腹感がお腹を刺激していた。
 総菜パンとスープを食して、やっと空腹も満たされて人心地つく。

 ふと、夢中になって食べているリョーマに目を向けた時、スキル《鑑定》が発動する。


名前:高藤亮磨たかとう りょうま
年齢:17
種族:人族
職種:剣士
属性:【火】【地】【光】
体力:A
魔力:B
攻撃:A
防御:B
幸運:A
状態:□□□
罪科:□□□
恩恵:【女神の祝福】【精霊の加護】
称号:【異世界の旅人】【神の申し子】
ギフト:《言語理解》《精霊感応》《幸運体質》《魔術状態異常無効化》
スキル:《身体強化:A》《気配感知:A》《探査:A》《剣術:A》《見切り:A》《鑑定:B》《地図:B》
ユニークスキル:《剣舞けんぶ


ユニークスキル:剣舞
詳細:刀剣類限定で重量を感じず、各刀剣に適した剣技を発揮する。


 ……やっぱり女神の気まぐれで異世界転移された子だ。
 確か二年前に冒険者に入ったとキンバリーが言っていたから、おそらく十五歳で転移されたのだろう。
 アスカも、きっと同時期に。


名前:御坂飛鳥みさか あすか
年齢:17
種族:人族
職種:魔術師
属性:【水】【風】【光】
体力:C
魔力:A
攻撃:B
防御:B
幸運:A
状態:□□□
罪科:□□□
恩恵:【女神の祝福】【精霊の加護】
称号:【異世界の旅人】【神の愛娘】
ギフト:《言語理解》《精霊感応》《幸運体質》《魔術状態異常無効化》
スキル:《魔力強化:A》《魔力感知:A》《魔力探査:A》《鑑定:B》《地図:B》
ユニークスキル:《付与術師エンチャンター


ユニークスキル:付与術師
詳細:あらゆる物質や対人に魔術による特殊効果を付与する。


 転移者が得る女神の祝福とギフトは共通。スキルでは達人レベルだけど《鑑定》と《地図》も同じように持っているようだ。

 ユニークスキルは一人につき一つ。武器もさずかっているはずだ。
 どうしてそう思うのかは、二年前にネヘミヤ兄さんが作った神器・神剣アグニと神器・神鏡を依頼してきた創造神ディオンに献上けんじょうしたから。
 その神剣・アグニを、リョーマは持っている。腰に帯剣しているのを見たから間違いない。
 使いこなせているかどうかは判らない。それを聞き出すのは、私の話術次第だ。
 思い詰めるけれど食事を再開して、食後の林檎をナイフで切って彼等にも分けてあげた。

「――ふぅ……。いやぁ、アイテムボックスって便利ですね!」

 満足感のあるリョーマは笑顔で言った。
 実際はアイテムボックスではないから歯切れが悪くなりそうだ。

「まぁ、ね。満足できた?」
「はい」

 明るい笑顔で頷いたアスカに、ほっと安心する。
 でも、これからの質問で、その笑顔を壊してしまう。それが心苦しいと感じた。

「そういえば、話って何ですか?」

 アスカが思い出したように訊ねた。
 私はそっと目を閉じて、周囲に防音結界を張る。
 結界の外の音が聞こえなくなったことを確認して、まぶたを開く。

「単刀直入にく。貴方達、《鑑定》のスキルを持っているでしょう」

 凛とした視線を向けて断言すれば、二人は目を見張って固まった。
「な……なんで、それを……」

 リョーマが掠れた声を漏らす。私はまなじりを下げて、彼等に言った。
「何の脈絡もなく『魔女』の称号を持ち出したからね。同じ驚いた表情になっていたし、もしかしてと思って。それに、この国には滅多にない彫りの浅い顔立ちと色の組み合わせ。身形みなりと旅をする資金を考えて、国外から移住する資金までないはず。それらを加味して導き出した答え――」

 そっと伏せた目を、しっかり開いて見据える。

「貴方達は異世界からやってきたということ」

 更に衝撃を受けるリョーマとアスカ。
 踏み込まれたことのない事実を言い当てられたのは初めてなのだろう。この世界の人は異世界の存在を知らないから、言い当てられたことはないはずだ。


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