07-07


「《鑑定》で見たと思うけど、私には神の加護がある。それに精霊と契約しているから、精霊からある程度の情報は聞いた。女神のエリーゼ様は、この世界の適性がある異世界人を転移させて、どう歴史を変えていくのかを見守っている」

 実際は退屈が嫌いで、気まぐれで転生や転移させて楽しんでいるだけ。でも、この事実はあまりにもこくなことだから伏せた。

「あとは私の師匠となった魔女の旦那だんなさんが、私が発案した神器を創造神に献上したから、ある程度のことは知っているの」
「……えっ!? この神剣、シーナさんが作ったんですか!?」
「作ったのは魔女の旦那さん。私はただの発案者だよ」
「いやいや……発案できる時点でスゲーことですって……」

 確かに凄いことだけど作ったのは私じゃないから、そんなに凄いとは思えない。
 私は「そう?」と小首を傾げてしまったけれど、二人は強く頷いた。

「ところで、どんな神器を貰ったの?」

 二年前に献上したものだから、アスカの神器も予想できるけど、不自然にならないよういてみる。すると、リョーマは壁に立てかけている刀を持って私に見せた。黒い鞘に納まった打刀だ。

「アグニって言う炎の神剣です。で、アスカは神鏡って言う結界の力と攻撃魔術を跳ね返す鏡」
「へえ。それ、使いこなせてる?」

 私の中で重要なことを訊ねる。
 いくら武器の性能が良くても、使い手が引き出せていなかったら意味がない。特に神器は神力がないと扱えない。それに神力を持っていたとしても、放出することができなければ発揮せず、宝の持ち腐れ。できることなら神力と神器を使いこなせていたら、私も発案した甲斐かいがある。

 けれど、正面にいる少年は渋面じゅうめん、少女は苦笑いを浮かべていた。

「……性能も発揮できなかったのね」
「や、スッゲー危ない時に……火事場の馬鹿力ってヤツでして……」
「あ……あはは……。私は余裕がなかった時だけ……」

 その時だけしか神力を引き出せないのか。残念だけど、何となくわかった。

「なるほどね……。神力は覚悟と感情のたかぶりでリミッターが外れるから、火事場の馬鹿力なら納得がいく」
「覚悟と感情の昂ぶり?」
「逆境に立ち向かう覚悟や、憤りと同じかそれ以上の苛烈な想い。助けたい、救いたい、負けたくない……そんな強い想いが昂ると発揮される」

 具体的な神力を扱うコツを教えると、リョーマは理解したけど仕組みは理解できないという難しい顔になる。
 一方、アスカは少し暗い表情になった。

「私……そんな上等なことで使えたことがないです」

 アスカは、神鏡が発動する時は余裕がない状態だと言っていた。それはおそらく、自分に危機が迫っている時。何となく解るそれは共感できるものかどうかと聞かれると首を傾げるが、人間らしいという意味では感情移入ができた。

「死にたくない。――それは当たり前の感情だよ。それを素直に表に出して力に変えられるなら上等だと、私は思うよ」

 穏やかに微笑んで言えば、アスカは暗い表情から驚きに目を見張って、力無く笑った。

「……何でも分かるんですね。魔女って、シーナさんみたいな人が多いんですか?」
「さあ? 師である魔女しか知らないから何とも言えないけど……。それに、何でも分かるわけじゃないよ。ただ何となく感じただけだから」

 人の機微きび敏感びんかんになったのは、この世界に転生してからだ。『前世の私』は他人と関わることが苦手だった。機微に気付いたとしても、それを指摘することもなかった。

 けれど、この世界に転生して『私』は今の私として人と関わることを選んだ。おかげで繋がりができたし、人と関わって心を傷つけないかおびえなくなった。そして、こうして人の心に踏み込んでも傷つけずにはげますことができるようになった。
 とはいえ、目の前にいる彼等みたいに表面が判りやすくないと難しい。取りつくろう人の心まで感じることは並大抵ではできないから。

「シーナさん?」
「……何?」

 いけない。少しぼーっとしてしまった。
 何事もなかったかのように振る舞うと、アスカは少し迷うような表情で言った。

「その……少し暗かった気がして……」
「……あぁ、ちょっとね。《鑑定》ってどこまで見ることができるのか気になって。人の情報ってどれだけ見れるの?」

 少し思考がれてしまったのに気付かれてしまった。
 はぐらかすために、パッと思いついたことを言えば、リョーマが私をじっと見た。

「あー……。名前と年齢と種族と職種と属性と状態と……体力、魔力、攻撃、防御、幸運。あとはスキルとユニークスキルです。体力からスキルまではランク付けで表示されています」

 私のステータスを見ながら答えるリョーマ。
 へえ、と相槌を打ったところで、少し引っかかる。

「《鑑定》って恩恵や称号は見れないんだね」
「多分ですけど、スキルランクが熟練者レベルなので、そこ止まりなんだと……」

 確かに彼等の《鑑定》のランクは熟練者レベルであるBランク。ということは一部のものは見ることができないということか。
 私の場合はEXランク……神業レベルだから、見られないものはない。対する異世界から転移された者は熟練者レベルで止まっているため、恩恵・称号・ギフトは閲覧えつらんできない。

 少しだけ肩の力を抜く。私の恩恵と称号は物々しいし、ギフトも特殊過ぎるから、見られなくて良かった。

「じゃあ……恩恵や称号で知ったんじゃなくて、職種で魔女だと知ったってこと?」
「はい。シーナさんはどんな魔女の称号ですか?」

 興味津々で訊ねるリョーマ。
 そういえば職種には『魔女』としか記されていなくて、称号の欄に立派な称号がある。でも、彼等の鑑定スキルでは見ることは不可能。
 まぁ、教えるくらいいいかと思って答えた。

「【黎明の魔女】。魔女の称号は一年前に得たばかりだから、魔女としての日は浅いよ」
「黎明……って、どんな偉業で貰えたんですか?」
「それは秘密。ここから先は専門用語ばかり出てくるから、疲れている貴方達では頭に入らない。でも、そうね……。代わりに神力の感覚を教えてあげる」

 きっぱりと断ると不満そうな顔をしたけれど、次に提示した話に明るい顔になる。
 判りやすい現金な二人に小さく笑って、両手を差し出す。

「今から神力を流し込むから、その感覚を覚えて」
「「はい!」」

 ワクワクとした表情で私の手を握るリョーマとアスカ。確認して、ひと呼吸で神力を送る。
 切なさと感動が混ざり合ったような感情から込み上げる熱。
 鳥肌が立つほどの、鮮烈な感覚。
 無風の空間の中で、フワッと髪が揺れるほどの力が二人に流れ込むと、二人は息を呑む。

「これが……神力?」
「そう。解ったようで良かった」

 流れる神力を止めて、二人から手を離す。

「その感覚を忘れないようにね。じゃあ、私は部屋に戻るよ」

 防音結界を解いて席から立ち上がり、二人の視線を背中に感じながら階段を上った。



 部屋に戻ると、どっと疲れが出る。
 一気に襲いかかる倦怠感けんたいかんから、ベッドに倒れこんだ。

「ハァ……。慣れないこと、するもんじゃないなぁ……」

 他人に説明することも、お節介を焼くことも。
 でも、よどみなく説明できたことを思い返せば、これまでの修行のおかげだと感じ取れた。
 今の私を形成してくれたフィー姉さんには感謝してもしきれない。そんなフィー姉さんに、今から大切な話をしなくては。

「――あ。もしもし、フィー姉さん?」

 左耳のイヤーカフに触れてフィー姉さんの携帯通信魔道具と接続し、学園のことについて話し合った。

 それから一週間弱で、フィー姉さんとともに学園の授業内容を改変するのだった。


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