緊急集団依頼


 バシレイアー帝国の学校の授業プログラムを五日間で改善することに成功した。
 魔女の地位でここまで順調に行くとは思わなくて驚いたけど、鉱山都市オリヒオに早く戻ることができて良かった。

「あっ……あのっ、シーナさん!」

 そんな充実した日々を送っている中で、事件が起きた。



 冒険者ギルドにて。
 Cランク冒険者用の依頼ボードを見に行く前に、ハイジに声をかけられた。張りのある声は、いつもの明るさはなく切羽詰せっぱつまっている。

「どうしたの?」
「……すみません。緊急依頼ボードを見に行って下さい」

 表情と同じくらい硬質感のある声で頼むハイジに、只ならぬことが起きているのだと察した。
 自然と眉を寄せて神妙しんみょう面持おももちになり、フードをかぶって苦手な人混みへ向かう。

 緊急依頼ボードとは、通常の依頼とは違い、急を要する依頼を知らせる依頼ボード。
 通常の依頼ボードと違って二倍以上の大きさで、沢山の人目に触れられるようになっている。掲載けいさいされる依頼書も大きくて、三枚が身長差に合わせて貼り付けられている。

 私は受付側に貼られている依頼書を見る。
 内容は、ディノゾールとリザードマンの群れの殲滅。


【ディノゾール】
 爬虫類はちゅうるいの頭部と長い尻尾を持つ、全長八メートルの巨大な魔物。二足歩行で大地を駆け抜け、両手の鋭い爪でどんな巨大な魔物も捕まえ、鰐のような鋭い牙で捕食する。硬い皮膚ひふやいばを受け付けにくい上に、魔術を食すこともある。生息地は魔力を多く持つ捕食対象のいる森や岩場だが、まれに移動することもある。単体ではBランクモンスターだが、リザードマンの群れをしたがえている場合はAランク指定のモンスター。討伐証明部位は右の犬歯。


【リザードマン】
 うろこおおわれた手足と、太く長い尾を持つ爬虫類の顔をした魔物。オーク同様に、剣、弓、槍といった得物えものの他によろいたてで武装しているが、オークより知能が高い。Dランクモンスターだが、オークとは違って上位の存在が下す命令より、個々が状況に応じて行動する知性を持つ。本来なら知能の高さによりCランクに設定されても不思議ではないが、繁殖力はんしょくりょくはそれほど高くないため、逆に個々の能力は低いが繁殖力が高いオークと同ランクとされている。討伐証明部位は尾の先端。


 Bランクモンスターのディノゾールは、一度ったことがある。

 ディノゾールは、はっきり言って恐竜でげるとティラノサウルスだ。ぞうのような肌はかたく、爪もきばわにより鋭くて大きい。
 リザードマンを率いる高い知能を持つことからSランクモンスターに届くとも言われているし、討伐もAランク冒険者で編成したAランクパーティーでなければ困難を極めると、ネヘミヤ兄さんから注意されたことがある。

 ……なのだが、二年前に遭遇そうぐうした時は、リザードマンを二十匹も従えていたから殲滅魔法で一気に片付けてしまった。
 あの時は一人だったから楽でよかったのだが、今回は集団で討伐しないといけない。
 厄介やっかいだな。集団行動で、私が魔女だと知られないか不安もあるし。
 だが、そんな個人的な私情をはさむわけにはいかないようだ。

「前報酬は銀貨五枚。依頼達成後は小金貨三枚。貢献こうけん度合いで別途べっと報酬を加算……。すげーな、これ。Bランク冒険者の依頼より多いぜ」
「リザードマンの討伐証明部位って小銀貨五枚だろ? それが七枚になってる。リザードマンだけでもかなりかせげる……!」
「その分、危険だってことだろ。リザードマンだけでも最低五十匹って……俺には無理だわ。命あっての物種だ」
「リザードマンだけ狙えばいいじゃねーか。『氷冷ひょうれい鉄槌てっつい』も参加するらしいし、ディノゾールはあいつらに頼んじまえ」
「私は受けるわよ。この依頼は、オリヒオに近いところにいるから出されてるんでしょ? オリヒオに被害が出たら、私達も危ないじゃない」

 あちらこちらで報酬への評価、参加、不参加についての声が上がる。
 耳をかたけながら無言で読み終わった私は、ふぅ、と息を吐く。

 目撃情報によれば、ディノゾールは二匹、リザードマンは最低五十匹。少人数でいどめば確実に全滅する。
 これは私も参加した方がいいかもしれない。新参者だからあなどられるかもしれないけど。

「よお、シーナ」
「ん? ……あ、クラウド? おはよう」

 聞き覚えのある声がかけられて顔を向ければ、くせのある薄い茶髪に青い瞳の美青年、Bランク冒険者のクラウド・ヴェスパーがななめ後ろにいた。
 肩越しで見上げて挨拶あいさつすると、はよ、とクラウドは挨拶を返す。

「仕事は慣れたか?」
「まあまあね。最近見なかったけど、護衛の依頼でも受けてた?」
「ああ。帝都まで行ってた」

 それを聞いて、内心で引きりつつ安堵あんどした。
 私も一週間前から五日間も帝都に滞在していたのだ。その間に遭遇しなくて良かった。もし遭遇したら厄介なことになりそうだし。




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