08-03


 初めて入るギルドの会議室は、酒場の空間に近い広さ。部屋の中心には八人のみ使える長方形の机があり、壁に沿って全部で五十個ほどの椅子が均等きんとう間隔かんかくを開けて置かれている。残念ながら、前世のように黒板やホワイトボード、ましてや映像を映し出すプロジェクターなどといったハイテクな機械の存在はない。
 元々そんなに会議室を使わないのか、はたまた今回のように大勢が集まりやすいようにわざとそうしているのかまでは推し量れない。

 会議室にはすでに二十を超える冒険者が集まっている。屈強くっきょうな男から細身の女性まで、性別も年齢も体格も様々。男女の比率では、当然のように男性の冒険者の方が多い。それでも女性の数は、私を入れて十人近く。知っている女性の冒険者の数より多かった。

 私が会議室に入った途端、不思議そうな、いぶかしそうな、またはあなどっているような視線を向けてきた。けれど、それは半数以下。半数以上の冒険者達は、フードで顔を隠しているはずの私を見て目を丸くした。
 私を知っている人がいるなら大丈夫だろう。そう判断して、部屋の隅にある椅子に座った。

「なんだ、あの女……? あんな奴、ギルドにいたか?」
「……あいつは先月入ったばかりの新人だ」

 パーティーメンバーに声をかけている筋肉質な男に、隣にいる長身の男が教えた。すると当然、男は目を引ん剥く。

「はっ? つーことはFランクか?」
「いや、Cランクだ」
「はあっ? 新人が……Cランク? 俺より上? 何の冗談じょうだんだよ」
「冗談じゃねえって。……この目で見たんだ。あの守銭奴しゅせんどを武器なしで倒したところを。それを見たギルドマスターが直々にCランクへしたところをな」

 ざわっと会議場の空気が変わる。聞き耳を立てている人も、目を丸くして私に視線を向けた。
 一方、私は守銭奴が誰であるか衝撃を受けた。クラウドが守銭奴って呼ばれていたなんて……。

「他にも見たことがない巨大な魔物の一瞬で出したんだ。おそらく空間拡張の魔術をほどこした魔道具を持ってる」
「や、そりゃ違う。ギルドに入会した次の日なんだけどさ、早速オークの討伐に行ったらしくて。それが昼頃に戻ってきて……大量のオークの魔石と素材を出したんだ。そん時聞こえたんだが……アイテムボックス持ちなんだと」
「「はあ!?」」

 とうとう素っ頓狂とんきょうな大声を出した、聞いていた男と話していた男。
 二人の反応に、長身の男の隣にいる無精髭ぶしょうひげの男は苦笑い。

「しかもその依頼でBランク冒険者の報酬と同じ報酬金を貰ってたんだ。あと、小耳に挟んだんだが……『氷冷の鉄槌』のキンバリーさんとの模擬戦で勝ったらしい。新人だが、実力はギルドマスターからもAランク冒険者からもお墨付きって訳だ。だから突っかからない方が身のためだぞ」

 ……おーい、私はそこまで猛獣じゃないぞー。

 沢山の視線が突き刺さる。しかも事実だが物々しい会話に、恥ずかしさで消えたくなった。
 ああぁぁ、早く誰か知ってる人来いぃぃっ……!

「お前も参加か」

 不意に、共同住宅『白兎の庭亭』の朝食後でも聞いた声がかけられた。
 顔を上げれば、つばの広い帽子と同色である濃緑のマントを羽織った青年――エドモンが目の前に立っていた。

「……エドモンも?」
「俺は指名依頼でな。どうやらAランク冒険者のほとんどは強制参加らしい」

 ほとんど……あぁ、ニコラスをのぞいているからか。
 一拍置いて理解すると、エドモンが右側に座る。ちょうど部屋の隅だから、真横ではなく斜め。

 他にも席があるのに、どうして私の隣に? いや、文句はないけど……。

「……そう言えば、エドモンの武器って何?」
「剣だが、通常の剣ではない」
「じゃあ、魔武器?」
「さてな」

 軽く受け流したエドモン。その反応で、多分違うのだと感じた。
 魔武器ではない武器……それって二つしか心当たりがない。

「……神剣?」

 とりあえず公然でも言える方を言ってみると、エドモンは目を軽く見張って私を見下ろす。

「……何故判った」
「通常の武器でも魔武器でもないなら、神器ともう一つしか思い浮かばなかったから」
「もう一つ?」

 眉を寄せて復唱するエドモンに、やっぱり知らないのか、と理解した。

 エドモンは私の一回りくらい年上だけど、古代族の中では若い方だ。時代によって古代族の遺跡の存在の有無すら薄れているため、古代族の秘儀である武器創造の魔法――創造術の存在を教えられていないはず。

 この場で言える内容ではないため、曖昧あいまいに答えるしかできない。

「『私達』だけが創れる特殊な武器だよ」

 含みのある言葉で返せば、エドモンは不燃焼気味な表情で追及ついきゅうすることをやめた。

「それにしても神剣かぁ……。ネヘミヤ兄さんに会ったことがあるんだ」
「……兄妹だったのか?」
「そう呼んでって言われて。私にとっても良き兄のような存在だから。師匠の旦那さんだし」
「……初耳だな。『神器は妹の発案で発明できたんだ』と奴から自慢じまんされたが、お前だとは……」
「意外?」
「むしろ納得した。お前ほどの柔軟な発想ができる奴なら可笑おかしくはない」

 ……意外だ。そこまで私を買い被っているなんて思わなかったから驚いてしまった。

「だって魔武器って魔力を込めて作られるでしょう? 神力だってあるのに使わないなんて勿体無もったいないじゃない」
「その発想自体が普通ではないことくらい自覚しろ」
「ええー……。なんか、グサッときた……」
「……まさかお前、自分が普通じゃないことを自覚してないのか?」
「流石にそれはしてるけど……何て言うか、ねえ……」

 微妙な顔でぼやいて、溜息ためいきく。
 前世の私は普通≠ゥら外された。それでも普通≠ノなろうと努力していたから、どんどんれている現状に複雑な気持ちになってしまう。

 嗚呼……普通≠セった頃が恋しいよ。
 戻らないと解っているけど、思うだけならタダなので内心で愚痴ぐちった。


1/58

Top | Home