08-05


 ちょうどその時、会議室に焦げ茶色の短髪の男が入ってきた。キンバリーと同い年ぐらいで、かなり筋肉質。威厳のある風貌ふうぼうには斜めに十字の傷が走っている。恐らく彼が今回の指揮官だろう。
 予測していると、男は辺りを見渡して一つ頷く。

「三十四人、か……。みな、よく集まってくれた。俺は今回の依頼を仕切らせて貰うジョイだ。依頼の大まかな内容は、緊急依頼ボードにあった通りディノゾールとリザードマンの討伐。報酬は前金として銀貨五枚、依頼終了後に小金貨三枚。また、貢献度によっては追加でボーナスも検討され、次のランクに上がる際にも考慮こうりょする。それとリザードマンの討伐証明部位も、この依頼に参加しているものに限り、通常の小銀貨五枚のところを小銀貨七枚とし、ディノゾールの討伐証明部位である右の犬歯も、銀貨三枚の通常価格より銀貨六枚に引き上げる。ここまではいいな?」

 一瞬、ディノゾールの討伐の報酬に周囲がざわめいたが、ジョイのうながしに静かになる。

「ディノゾールが住み着いている場所は、オリヒオから二日……いや、一日半ほどの距離にある。数に関しては、ディノゾールは二匹、リザードマンは最低五十匹だが……あくまでも最低で五十匹。その数から上位種や希少種もいるはずだ。出発は今日の昼過ぎ。三の鐘が鳴る頃だ。準備ができた者から正門前に集合するように。予定としては道中で一泊して、翌日の夕方に到着し、夜明けと共に奇襲を行う。では、何か質問はあるか?」

 一通りの説明が終わって問いかけると、少し離れた所にいるクラウドが問いかける。

「ディノゾールの被害にった村はあるか?」
「……ああ。ただ、村ではなく領全域だ。ゼーベル領という町が、二日前に壊滅した」

 それを聞いた冒険者達は沈痛な面持おももちになり、目を伏せる。
 まさか領全体がほろぼされているなんて思わなかった。けれど、それくらいのことがなければ緊急依頼なんて出されないだろう。

 眉を寄せつつ片隅で納得していると、冒険者の一人が口を開く。

「リザードマンの中にリザードマンジェネラルやリザードマンキングもいるか?」
「確認されていないが、ジェネラルは確実にいるはずだ。キングの方はディノゾールに従わないからな」
「貢献度でランクアップも考慮されるってことは、依頼に参加するだけでも?」
「いや、それは活躍した者のみに限る」
「移動するための馬車はギルドの方で用意してくれるのか?」
「勿論だ。ただし、独自に用意できるならそれでも構わない。その場合は空いたスペースに物資を積み込ませて貰う」
「その物資はギルドから出されるのか?」
「そうなる。独自で用意しても、念のためにBランクの治療薬と魔法薬を三個ずつ配布はいふする」

 治療薬にもランク付けされている。
 Dランクは掠り傷や浅い切り傷。
 Cランクは深めの傷から軽い火傷や凍傷。
 Bランクは武器によって負う深い切り傷や打撲だぼくから麻痺。
 Aランクは貫通した傷から毒の解毒げどく
 あるSランクは瀕死ひんしに関わる傷。
 最低ランクであるDランクは誰でも買い取れるが、最高ランクであり高級品の薬品は滅多なことでなければ支給されない。

 今回は武器による深い負傷と麻痺を回復させる治療薬。Bランクだが、それくらい今回の依頼は困難のようだ。

 冒険者達の質問によどみなく答えるジョイ。それを聞いていると、エドモンの隣にいるキンバリーが彼に声をかける。

「物資の輸送手段に協力できると、貢献度に繋がるか?」
「それもプラスされるが……輸送用の馬車でも用意するのか?」

 キンバリーの発言に怪訝な顔をするジョイ。
 彼の反応は当然のものだ。移動するために必要な馬車を増やせば人員が余計に必要になるし、移動が面倒になる。更に魔物や盗賊に襲われた時、物資が壊れてしまうと大破産。

 キンバリーでも解っているはずだけど……。

「いや、それをシーナに頼めば確実に移動が楽になるはずだ」
「……はい?」

 思わず目を丸くしてキンバリーを凝視すると、キンバリーは悪戯小僧いたずらこぞうの笑みを見せる。

「せっかくアイテムボックスを持ってるんだ。有効活用しないとな?」
「なっ、アイテムボックスだと!? それは本当か?」

 驚愕の声を上げるジョイに、私は頭を抱えた。
 ああもう、しょうがない。諦めよう。

 溜息を吐いて落ち着いた私は立ち上がり、前に出てテーブルに触れる。アイテムボックスである指輪に意識を寄せて『収納』と念じると、テーブルが忽然こつぜんと消えた。驚く彼等を確認し、テーブルを元の位置に出す。
 ジョイを見れば、彼は呆然と私を凝視していた。

「これで解ったと思うけど……。キンバリー、私に押し付けるなんて良い度胸ね?」 薄笑いを浮かべて首をかしげる。すると、キンバリーは引き攣って冷汗を浮かべた。

「いや、だがな……」
「キンバリー?」
「……すんません」

 更に笑みを深めると、身の危険を感じ取ったのか肩を震わせて素直に謝った。
 よし、と満足して席に戻る私に、ジョイは目をぱちくりさせた。

「キンバリー、こいつに弱みでも握られてるのか?」
「や、そうじゃないが……こいつが本気で怒ると確実に死にそうな気がしてな……」
「おーい、私はそこまで非道じゃないよ。ちょっと凍らせるか感電させるだけだよ」
「……それが怖えんだよ」

 口元をヒクつかせるキンバリーの反応に、会議室の温度が数度低くなった気がした。

「……キンバリーがそこまで言う奴なら信用できる。そのアイテムボックスで物資の輸送を手伝うなら、ギルドへの功績こうせきとしよう」

 ……面倒な役割を押し付けられてしまった。
 軽い溜息を吐いて、粗方あらかたの質問が終わるのを待つ。


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