08-06


「質問は以上だな? これで解散とするが、昼までには正門前に集まっておくように」

 ジョイがそう告げると、冒険者達は準備をするために急ぎ足で会議室から出て行く。
 私は準備万端だけど、念のために『白兎の庭亭』の女将・マドラに事情を説明しておかないといけないから、私も会議室から出ようとする。

「シーナだったな。お前は少し残ってくれ」

 しかし、ジョイに止められてしまった。きっと物資のことだろう。

「キンバリーが言うほどだが、念のために確認する。リザードマンといったDランクモンスターの群れを討伐したことはあるか?」
「あるにはあるけど……。今までで一番の数を相手にしたのはヘルハウンドだから、問題ないよ」

 ヘルハウンドとは文字通り地獄の番犬で、知能や素早さ、獰猛どうもうさからBランクモンスターとされている。しかし群れとなればAランクモンスターとして扱われる。
 以前、深淵しんえんの森の奥で三十匹を超えるヘルハウンドを武器と軽い魔術のみで狩った。いい運動になると感じる程度だから、リザードマンぐらいならなんとかなる。

 深くまで言わず軽く説明すれば、ジョイは目を見開いて驚いた。

「ヘルハウンド……それは、一人でか? 武器は何を使った」
「武器は状況に合わせて刀だったり大鎌だったり魔術だったり……」

 テーブルの上に持っている武器をギフト《宝物庫》から出す。

 日本刀のような神剣ホノイカヅチ。世界樹の弓。アダマンタイトナイフ。通常の武器で、ブロードソード、短剣、槍、バトルアックス、身の丈ほどのこん……。
 テーブルに置けるだけ置いた後、大鎌の死ノ解放者デス・リベレーターを出して軽く振る。それだけで重い風圧が生じ、ジョイは驚愕のあまり口をあんぐりと開けていた。

「まぁ、こんなもん。それで、問題ない?」

 全ての武器を《宝物庫》に収納して問えば、ジョイは我に返ってぎこちなく頷く。

「あ……ああ……。じゃあ、アイテムボックスのメリットとデメリットを教えてくれ」
「メリットはどんなものも上限なく収納できることと、時間が止まっているから料理も出来立ての状態で出せる。デメリットは私以外に使えないことだけど、盗まれそうになったら防衛反応で相手に電撃を与えるようになっている。あとは収納したものを一個ずつしか取り出せないこと。箱か何かに纏めておけば一気に出せるけど」

 一個ずつ出すという面倒を省く裏技を教えると、ジョイは感心したようにおとがいに手を当てる。

「……なるほど。安全面を考えると合格だ。確かソロだったな? なら、盗む奴が現れないように護衛をつけよう。そうだな……『氷冷の鉄槌』と【白銀の剣帝けんてい】が良いか」
「……白銀の剣帝?」

 聞いたことがない単語に首を傾げる。パーティー名なのかと思ったが……。

「お前の隣にいた、Aランク冒険者のエドモンの称号だ」
「……エドモンの? え、あの人、称号持ってたの?」

 古代族が必ず有する【神の愛し子】と【隠匿いんとくの人種】以外の称号を持っていたなんて驚きだ。
 目を丸くする私に、ジョイは不思議そうな顔をした。

「何だ、知らないのか? 元Sランク冒険者で【烈火の剣聖けんせい】の称号を持つギルドマスターより剣技に優れているから、剣帝と呼ばれているんだ」

 ジュリアより強いってマジか……。
 唖然としてしまった私に、ジョイは苦笑した。

「まあ、とりあえずそう言う方針だ。お前は集合より早くギルドに来てくれ」
「……了解」

 打ち合わせがやっと終わり、ほっとした私はギルドから出た。



 共同住宅『白兎の庭亭』に戻ると、閑散とした食堂に設置されたテーブルを拭いている小柄の女性、女将のマドラを見つけた。

「あら? シーナさん、今日は早いですね。お休みですか?」
「や、緊急依頼を受けることになって……。数日くらい戻らないから、期限が切れる前に入居を継続するお金を渡したくて」

 宝物庫から小包を出し、中から小金貨一枚と銀貨五枚を取ってマドラに渡す。
 マドラは目を丸くして、しっかり頷く。

「わかりました。出発はいつ頃に?」
「三の鐘が鳴る前だから……今から一刻弱かな」

 懐中時計で時間を確認すると、時間は既に九時半を回っていた。

 一刻弱、つまり二時間弱の間に準備を整えなければ。

「では、半刻後に食堂に来てください。お弁当を渡しますね」
「お弁当?」
「ええ。まだ一週間分の家賃と食堂を利用する料金が残っていますから、そこから天引きしてお昼と夕飯のお弁当を作らせて貰います」

 まさかのサービスに驚き、自然と笑顔になって頷く。

「ありがとう。じゃあ、また後で」

 礼を言って、準備のために冒険者用の商店街へ向かった。

 ネディのオススメである道具屋に入ると、以前訪れた時と同じく薄暗くて床にはほこりがあるが、商品に埃はなくて整然と並んでいた。
 大抵の店は小綺麗に掃除されているが、この店は商品重視だから、どれも質が良い。
 どんな店にも粗悪品そあくひんがある。けれど、この店の店長は一つ一つを鑑定しているから安全も保証している。私のスキル《鑑定》で確認しても、全て精度の高いものばかり。

 私は治療薬と魔法薬を見て回り、中でも上質なものをいくつか選ぶ。
 私は怪我をしても光属性の治癒術で楽に治せる。けど、万が一、億が一を考慮して、私の目の前で誰かが怪我した場合も想定して、回復用であるBランクの治療薬と魔法薬を購入。

 次に武器が壊れたとき用のために、武器屋で質のいい剣と弓を二本ずつ、矢を纏めて売っている矢筒を三組ほど買って、アイテムボックスに収納。

 そうしている内に半刻が経って『白兎の庭亭』に戻る。
 そろそろ昼食の時間だから食堂に人が集まっていた。厨房の奥にいるだろうマドラに声をかければ、マドラが小柄な体で持つには大変そうな二つのかごを持ってきてくれた。

「お待たせしました。どうぞ、道中で食べてください」
「こんなに沢山……ありがとう」
「どういたしまして。それと、お気を付けて」

 心配そうな顔を精一杯微笑みに変えて、送り出す言葉を口にした。
 本当に母親のようなマドラに癒されて、私も笑顔で頷いた。


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