08-09
いつもより
大地を踏み固めて自然と作られた道がある森林で野営をすることになり、アイテムボックスから物資を出して、夕食を食べたりテントを張ったりして各自で過ごす。
夕食時はネディと一緒に『白兎の庭亭』の料理を食べて談笑して、リョーマとアスカと軽い話をして、クラウドに体術のみの模擬戦を頼まれて手早く勝って……。
本当にSランクに届きそうなAランクの依頼に行く空気ではない充実した時間を過ごした。
そして、就寝。野営であるため、
私的には魔物除けの結界で楽にしたいけれど、そういう訳にもいかないので、魔物除けの結界を張りつつ軽く寝る。そんな予定だった。
しかし、昼間に何度か魔物に襲われかけ、
ちなみに野営の見張りに参加しなくても、昼間の全体的な防衛で大変な功績を得ているらしい。
文句を言われるかと思ったけれど、魔物に襲われかけた御者や幌馬車に乗っている冒険者達に、逆に感謝されたくらいだ。
周囲の好意を受け取って、魔物除けの結界を張りつつ眠ることにした。
……で、問題はここから。
物資のテントは大きく、最大で四人が入って眠れるようになっている。パーティーで固まって眠る人や、ソロで行動しているためどこかのテントに入らせてもらう人など様々だ。
私の場合は『氷冷の鉄槌』のメンバーと眠ることになるのだと思っていたのだが……何故かエドモンと二人で眠ることになった。
理由を聞けば、指揮官であるジョイが欠けては任務に差し支えるから『氷冷の鉄槌』が彼を護ることになったのだとか。
だからと言ってエドモンと二人きりだなんて、気まず過ぎる。
親しそうなエドモンに任せる方が一番だ、とジョイが
早く朝が来てほしいと願いながら、組み立てたばかりのテントに入って、支給された毛布の上に寝転ぶ。
普通は被って眠るものだけど、宝具【悠久の衣】のおかげで適温を保たれているため必要ない。
それでも寝転ぶ場所は少し痛いので、体を痛めないための応急処置だ。
「普通は毛布に包まって眠るものなんだがな」
呆れたように呟くエドモン。まぁ、それが普通の反応だ。
「ローブがあるから平気」
「そのローブは魔道具か?」
「違う。一応言っておくけど、神器でもないよ」
「会議室で言っていたな。『俺達』だけが創れる特殊な武器があると。もしかして、それが?」
鋭い指摘に、一瞬言葉が詰まった。
勘が鋭いと言うか、記憶力が良いと言うか……。
「……普通は魔力の関係で、古代族一人につき一つしか創れないんだけどね」
溜息混じりで言いながら起き上がり、私を見据えるエドモンに向き直る。
「
「それは何度でも挑戦できるのか?」
「いや、一発勝負。これは個人の内面や趣味
私が宝具を創った時のことを思い出しながら話す。
「創造術。それが、古代族のみが使える武器創造の古代魔法。創造術で創られたアイテムの通称は宝具。宝具の名称は様々。例えば私のこのローブは【悠久の衣】と言って、物理・魔力による攻撃をものともしない
宝具【悠久の衣】に触れて教えると、エドモンは目を丸くしてローブを凝視する。
暖房と冷房を兼ねたエアコンのような性能。通常ではあり得ない、あり得るとしたら喉から手が出るほど欲しくなるアイテム。
仕方ない反応に苦笑していると、ハッとしたエドモンが問う。
「待て。普通は……一人につき一つ? まさか、お前は二つ以上も持っているのか?」
また、鋭い疑問。
エドモンが相手だと気を許してしまう。長年の付き合いが続いている友人みたいな感覚を持ってしまう。
でも、それは
自虐的な笑みが小さく浮かぶ。それにエドモンが息を詰めた気がした。
「……エドモンも知ってるでしょう? 私が二人の神様の因子を持っているって。魔力も神力も、通常の古代族のそれじゃない。だから三つの宝具が出来ても不思議じゃない」
三つ。それは、通常の古代族の三倍以上の魔力と神力を持っている証。
私は右手に両刃の剣、左手にオートマチック
白と黒のコントラストが美しい武器に、エドモンは魂が抜けたような顔で見入る。
「剣は【
説明が終わり、ふわりと武器を消す。
「――宝具は魂に定着されるから、壊れたとしても自分に
はっきりと断言できないのは、私がそういった状況に
もう少し詳しい情報が知りたいけど、仕方ない。
「説明はこれで終わり。何か質問はある?」
「それはどこで手に入れた」
「深淵の森の奥にある神殿で。あそこは魔力地帯だし、古代族の遺跡がある。神殿の地下に、その儀式ができる魔法陣があるから」
深淵の森は危険な場所。しかもその奥にあるのだから、普通では踏み込めない。
少し難しそうな顔をしたエドモンは、今度は違う質問をした。
「通常の古代族とは違うと言ったな。古代族の三倍の魔力と神力を持つと。だから俺達を看取る側だと言ったのか」
心臓が嫌な音を立て、痛いほど跳ねる。息が詰まって上手い具合に答えられない。
苦しいほどの感情が込み上げて、視線が下がってしまう。
「おい……?」
「……何でもない。おやすみなさい」
これ以上、話すことはない。同族に優しい彼のことだ。きっと今まで以上に気にかけてくる。
親しくなることを望まない彼に、同情で関わられたくない。
仲良くなれるのだと錯覚したくない。
結局、私は
自分の弱さを突き付けられるのが嫌で、ローブに包まって薄い毛布の上に横になった。
目を閉じれば、背中からエドモンの吐息が聞こえた。きっと溜息だろう。
気にするな、と自分に言い聞かせて眠ろうとした。
だが、肩を掴まれて引っ張られる。
「!? なっ、何……!?」
目を白黒させて見上げれば、いつかのようにエドモンが真上にいた。
薄暗いテントの中なのに、顔の
「何故お前は
突然すぎる言葉は、文句のように聞こえた。
金色の瞳に
「……どうして言わないといけないの? 親しくない人に我儘を言うほど
「……本気で言っているのか?」
強い視線なのに、瞳が
絞り出したような声に、どうして彼が動揺するのか理解できない。
「だってエドモンは、私が同族だから気にかけているだけでしょう? 親しくなる気がない人に弱みを見せて何になるの?」
これ以上の弱みは見せたくない。その気持ちを込めて言い返すとエドモンは
「昼間のアレは、そういう意味で言ったわけではない」
私が彼の親切心に
――「俺とも、それほど親しくないのではないか?」
それはつまり、そういうことなのでは――と思ってしまうのは当然のこと。
「じゃあ、何?
「……そうだ」
私の気持ちを確かめるためだったのだと肯定するエドモン。
不意に、私達が出会った日のことを思い出す。
クラウドとニコラスと一緒に臨時でパーティーを組んでいたが、親しいと言うより同業者という意識が強いのだと後日にジュリアから聞かされた。
別段親しいというわけではない、むしろ親しい人は少ないと聞いた時、私以上に人間関係が不器用なのだと知って驚いた。
同時に、彼も古代族なのだと自覚させられた。
彼も、私と同じ気持ちだったのだろうか。仲が良いと周りから認識されても、その相手はどう思っているのかと。そう思うと、呆れと切なさから困った表情で笑った。
「人間関係が不器用なの、私といい勝負だね」
「お前は器用に見えるが?」
「これでもまだ上手く掴めないの。どこまで踏み込んで良いのか、踏み込まれても良いのか」
前世同様、その手に関しては頭を悩まされている。だから今回のように、エドモンの親切心を疑ってしまった。そこは申し訳ないと思う。
「でも……エドモンの
だから今朝の会議室でのやり取りも
気恥かしさを
「……エドモン?」
どうしたのだろう、と不思議になって呼びかければ、エドモンは私の上から
私が起きないように片手で肩を押さえて、空いている片手で顔を覆い隠して深い溜息を吐く。
「どうしたの?」
「……早く寝ろ。明日はいつもより早い。寝坊すれば笑い者になるぞ」
いつもより早口でぶっきらぼうに言ったエドモンは、私の近くで毛布を被って寝転ぶ。
敵襲に備えて手元に武器を置くのが普通だが、無いのは《宝物庫》があるからだろう。
逃げるようにはぐらかしたエドモンに思わず小さな笑みが浮かんでしまったが、声に出すことなく横に向いて目を閉じた。
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