舞踏の如き殲滅


 夜が明けて野営に使った物を片付け、ギルドが用意した乾パンや干し肉、ドライフルーツといったもので簡単な食事をして、出発の準備を整える。
 アイテムボックスで物資を回収し終えると、幌馬車ほろばしゃに乗り込む前にジョイが予定を告げる。

「昨日も言ったが、今日の夕方にはディノゾールとリザードマンの群れの近くに着くはずだ。その後は夜明けまで休息して体力を回復しておいてくれ。特に見張りをした者達は睡眠不足にならないように。予定では、一番動きがにぶい夜明けに奇襲きしゅうする。知っての通り、リザードマンはオークより頭が回り、団体行動に優れている魔物だ。奴等を確実に殲滅せんめつさせるため、各パーティー単位で包囲してから攻撃を仕掛ける。討伐証明部位や素材をぎ取りに関しては、殲滅が終わって休息を取った後……昼過ぎまで待ってくれ。質問は?」

 説明が終わると、細々とした質問に答えていくジョイ。
 彼等のやり取りを聞きながら、私は最悪の場合を想定する。

 リザードマンの数は最低五十匹。もしかすると、もっといるかもしれないのだ。
 念のために先手を打たなければ、と考えて、あることを思いついた。

「もし予定の二倍以上の数になっている場合、三分の一ほど減らしても大丈夫?」

 粗方あらかたの質問が終わった所でジョイにけば、しん、と辺りが静まり返った。
 予定以上という不安を持たせてしまうのは重々承知じゅうじゅうしょうち
 でも、今言ったようにさくがない訳じゃない。

「……どうやって減らすつもりだ?」
「昨日、魔物を遠隔操作で倒したように、魔法陣を使って雷を落とす。逃げないように周囲のみをねらうつもり」

 簡単に言うけど信じられないだろう。現にうたがわしそうな目を向けている。
 だから、論より証拠。実際に見せた方が早い。

 一応広範囲に防音の結界を張り、馬車から離れた所にある木々の真上に向けて手を上げ、魔法陣を出現させる。その数は五つ。直径一メートルの魔法陣は青白い光を放ち、電気を帯びている。
 すぅ、と目を細め――

『〈電光の狂乱ライトニングカーニバル〉』

 腕を、振り下ろす。
 目映まばゆい閃光が降り、五本の木に直撃する。轟音ごうおんと言っても過言ではない音を響かせて落ちた紫電しでんによって五本の木は縦に割れ、黒く焼け焦げている。

 網膜を焼きそうなほどの光に目を閉じた冒険者達は、目を開くと唖然あぜんとした。
 ジョイに振り向けば、彼はあごが外れそうなほどあんぐりと口を開けてしまっていた。
 予想通りの反応に、小さな笑みが浮かぶ。

「まぁ、こんな感じ。それで、採用できる?」
「……あ、あぁ。……生存率が上がるなら願ったり叶ったりだ。なら、百匹以上の場合はよろしく頼む」
「了解」

 我に返ったジョイは冷静さを取り戻すと、強くうなずいて採用してくれた。
 それから数回の質問を答えて、幌馬車に乗って出発した。



 空が茜色あかねいろに色付きだした頃、破壊されたゼーベル領から徒歩一時間ほど離れた場所に、予定より早めに到着した。
 会議用の簡素なテントでは、パーティーリーダーやソロで活動している冒険者が集まって、ジョイの話を聞いていた。
 残りの冒険者は、その周辺でリザードマンや魔物が来ないように警戒している。私が広範囲に張った魔物除けの結界があるから、Bランク以上のモンスターは近寄らないけれど、それは周りに告げていないから当然のように緊張している。
 参加している冒険者は最低でもDランク。ベテラン以上の実力の持ち主が沢山いるのだが、相手は魔物。油断すると早死にする。

「――これからリザードマンの群れの偵察ていさつをしたいが、偵察隊は最低限で行いたい。立候補する者はいないか?」

 前置きの後にジョイがたずねるが、会議に参加しているパーティーリーダーやソロの面々は無言で返す。シーフやレンジャーを抱えているパーティーもあるが、流石さすがに危険すぎると判断しているようだ。
 ちなみにシーフは盗賊の意味があるけれど、冒険者用語では先行偵察やトラップの作成・解除を行う冒険者のことを指す。
 私にシーフの技能スキルはないけれど……。

「上空から偵察してもいいなら、私が行くけど」

 ずっと膠着こうちゃく状態でいるわけにはいかないので、仕方なく名乗り出た。
 周囲の視線が突き刺さるけど、なんとか耐え切る。

「……そう言えば飛行術ができると言っていたな。それは一人以上でもできるか?」
「ん。二人までなら。でもまぁ、今回は安全性を考慮こうりょして、定員は一人までにしぼらせて貰うよ」

 二人までなのは、手を掴める数。両手で掴んで安定させなければいけないからだ。
 今回は万が一失敗するといけないので、私ともう一人まで。それを考慮して言えば、ネディが手をげた。

「なら、私も行くわ。シーナ、できるわね?」
勿論もちろん

 フードの下で口元を弧にする。
 私達のやり取りを見たジョイは、肩から力を抜く。

「よし。偵察はシーナとネイディーンの二人で決まりだ。調べてきて欲しい内容は、敵の数と、防御が薄そうな場所。できるなら上位種か希少種、どんな敵なのかも知りたい」

 上位種は種族を率いる能力を持つため、知能も戦闘力も格段に高い。希少種は種族の中で能力が高い一匹でしかないので、上位種ほど厄介とは言わない。毒を持たない魔物が毒を持つ事例もあるが、これは希少種の部類に入る。
 これらを知れば戦況もかなり変わるので、できる限り見つけようと決めた。

「二人が偵察から戻ってくるまで一旦解散だ。二人とも、頼んだ」

 ジョイの言葉に頷き、私達はテントから出る。私はスキル《地図マッピング》の範囲を広げて、どこに魔物の群れがあるのかを確認しつつネディに呼びかけた。

「ネディ。念のために二十メートルぐらいの高さで飛ぶけど、いい?」
「大丈夫。……落とさないでね」

 ネディには、初めての飛行になるのだ。いつも泰然たいぜんとしている彼女だが、誰だって初めての体験は不安になる。
 念を押すネディに微笑して頷き、彼女の手を取って飛び立った。



 卵型の魔力障壁で空気抵抗を緩和かんわさせながら飛ぶこと十数分で、ディノゾールが率いるリザードマンの群れの上空へ着いた。
 眼下を見て、隣にいるネディが息を呑む。
 私はと言うと、想定していた最悪の場合が的中したことに眉を寄せた。

 規模は最低五十匹の二倍以上……百匹以上。所々に盛り上がっている場所があることから、リザードマンの集落が出来つつあるのだと確認できた。中心辺りにはディノゾールが三匹。
 ディノゾールが目撃数より一匹多かったことに、ネディの手から冷汗を感じた。

「三匹……親子かな? 一匹、ちょっと小さいし」
「……シーナ、平気なの?」
「え? うん。流石に一気に三匹を相手にしたことがないから判らないけど、一匹くらいならリザードマンの群れごと相手にしても問題ないし」

 さらりと言いながら、スキル《地図》に映る赤い点の数と、手薄な場所を探して記憶する。

「あ、北側と西側が手薄だ。良かった」
「……」
「南東側から雷を落とせば、森の方へ逃がさないでいられるかな?」
「……」
「……おーい、ネディ? 大丈夫?」

 無反応のネディに呼びかければ、彼女はハッと我に返って目を据わらせた。

「シーナ。その発言が異常だってこと自覚しているの?」
「……まぁ。普通ならあり得ないって解ってるけど……うん。ごめん」

 ネディが何故なぜ固まったのか、理由を理解した私は苦笑いを浮かべながら謝った。
 そんな私にネディは溜息ためいきき、眼下をめた。

「希少種は少なからずいるようね。上位種は……リザードマンジェネラルが一割弱ほどかしら」

 私同様に目が良いようで、ネディも同じように確認していく。
 希少種らしい個体は見つからないが、一応警戒しておくに越したことはない。

「これくらいにして、戻りましょ」
「ん」

 ネディの言葉に頷き、常にかぶっているフードを目深に被り直して、討伐隊の陣営へ戻った。


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