09-02


 地面に降り立ち、急いでテントへ行こう踏み出すが、ネディが足元を崩して地面に膝をつく。

「えっ、大丈夫?」
「だ、大丈夫……。ちょっと浮遊感が抜けないだけ」

 そう言えば、風魔術による飛行は高度な技術だから、使用できる人は極めて少ないんだった。
 私は普段から飛行しているから慣れているけど、ネディは初めて体験したのだ。フワフワした不安定な感覚におちいるのも仕方ない。

 念のために近くにいる冒険者に、ジョイに戻ったと知らせて欲しいと頼み、ネディが元の感覚を取り戻すまで少し待った。

「……ふぅ。待たせたわね」
「大丈夫。さ、行こう」

 ようやく立ち上がったネディと一緒に会議用のテントへ戻る。
 テントにはすでにジョイとパーティーリーダーやソロの冒険者が集まっていた。
 彼等は私達を見ると、ほっと安堵した様子で道を開けて、設置したテーブルに招いてくれた。

「シーナ、ネディ。早速だが偵察の結果を報告してくれるか?」

 ジョイにうながされ、私はギフト《宝物庫》から大きめの紙と万年筆を出した。
 言葉よりも目で見て説明した方が分かりやすいので、記憶にある通りの情報を書いていく。

 方角を意味する図を右端に書き、いびつ菱形ひしがたを横向きに描き、その中の右と下に大きな丸、真ん中に黒塗りの丸を三個、所々に大きな丸より小さい丸や三角を書きこんだ。

「リザードマンの数は百匹以上。森側の南と東に多く密集していたけど、平原側の北と西はやや手薄。見張りはないけど、歩哨ほしょうは少なからずいた。あと、作りかけの集落があった」
「上位種のジェネラルは一割強。少なくとも希少種もいる可能性はある。……それと、最悪なことに、ディノゾールが三匹もいたわ。一匹は成体よりやや小さかったから、おそらく子供ね」

 リザードマンの数の時点で引きる人が続出したけど、ネディのとどめの言葉に全員が強張こわばる。
 当然の反応だが、時間は有限。さっさと次に進もう。

「そこでだけど、一番危険な南東側に扇状おうぎじょうに雷を落として、平原側へ誘導ゆうどうしたい。念のために東側にCランクぐらいのパーティーを配置して残党が出ないようにして、南東側に『氷冷の鉄槌てっつい』を配置してディノゾールに向かいながら敵を倒す。エドモンは平原側から真っ先にディノゾールを狙って欲しい。理由は、雷の魔術で平原側に逃げる可能性が高いから」

 図面を指差しながら自分で考えた作戦の一部を告げて、ジョイを見る。

「私は空から危険な場所へ遊撃ゆうげきする。まぁ……これはただの案だから、却下きゃっかしていいよ」
「……シーナ。ディノゾールが三匹もいるなら、応援を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「それでモタモタしている間にリザードマンが増えて、被害が拡大してもいいの?」

 恐る恐る訊ねるクラウドに現実的な予想を言えば、彼はだまった。
 彼はBランク冒険者だが、ディノゾールと戦ったことはないようだ。私は深淵の森で一体のディノゾールとリザードマンの群れを相手にしたことがあるから、そこまで怖いと思わない。
 真っ直ぐ彼等を見据えていると、ジョイが溜息で沈黙ちんもくやぶる。

「……シーナの言うとおりだ。さっきの作戦だが、もう少し詰めていいか? 実力のある人員の配置も細くしたい」
「わかった。じゃあ、みんなの得物と得意分野とポジション、実力で考慮しよう。紙はまだあるから、それに纏めて」
「そうだな。パーティーリーダーの諸君しょくん。今から配る紙にメンバーの情報を記入してくれ。希望したい配置もついでに書いていい」

 ジョイが告げたので、私は紙を一枚ずつ渡す。ペンを持っていない人は幾つか持っている予備のペンを数本貸して、代わる代わる使い回してもらった。

 それを眺めていると、早くも書き終わった二十代前半の女性から目を向けられた。
 ライトブラウンの長髪と、大きくて穏やかそうな同色の瞳が美しい、はかなげな美女だ。

「貴女、意外とパーティーリーダーに向いてるのね。パーティーを組んだりしないの?」
「あー。ソロの方が気楽だし、色々と巻き込まないか自信ないから。魔術も規模が大きかったりするし」

 苦笑いを浮かべて答えると、女性は納得したような顔をした。

「確かに……この作戦は貴女がいないとできないものね。私はキャンディス。Cランクパーティー『蒼炎のやいば』のリーダーをしてるの。シーナって呼んでいいかしら?」
「うん、いいよ」

 知り合いができるのは嬉しい。コネ云々より、純粋に気軽に話せる人は貴重だから。
 昔の私では考えられないなぁと思っていると、女性――キャンディスは一瞬固まった。

「……ねえ、シーナ。ちょっとフード取って貰ってもいい? 顔が判らないと、後々困るし」

 キャンディスの行っている意味は解る。そして、その裏に私の素顔を知りたいという好奇心があるということも。
 でも、素顔を見せることで起きる皆の反応が怖いんだよ……!

 渋っていると、誰かが後ろからフードを引っ張って脱がした。驚いて振り向くと、そこにはネディが……。

「ちょっ、ネディ!?」
「顔見世は冒険者として大切なことよ。ほら、前を向いて」
「うにゃっ」

 後ろから頭を掴まれて無理矢理前へ向けられる。ネディは細腕なのに意外と力が強いことに驚くと同時に、いろんな視線を浴びているのだと理解して固まる。
 皆、石像のように固まって私を凝視していた。

 その反応が怖かったんだよ!!

「……かっ、可愛いっ!」
「ふえっ!?」

 思わず奇声を上げてしまった。
 だってしょうがない。突然キャンディスが抱きついてきたのだから。

「何この可愛い子っ! ほおを赤らめちゃって……! 超美人なのに小動物みたいっ!」
「えっ? や……キャンディスの方が美人じゃぁ……?」
「シーナには負けるわ。ああもう、帰ったら何か着せ替えたい!」
「いやっ、遠慮する!」

 着せ替え人形になるのは嫌だ!
 儚い美貌にはんして溌溂はつらつとしたキャンディスの性格に驚きながら目を回している内に、周りの視線が気にならなくなった。でも、誰か助けて欲しい。

「おーいキャンディス。今は作戦を優先させるぞ」
「あ、そうね」

 キンバリーの一声で離れてくれたキャンディス。
 ほっとしていると、今度はフードを被せられた。

「うわっ」
「ちょっとエドモン」

 驚いていると、ネディが私の後ろにいるだろうエドモンに文句の眼差しを向ける。
 対するエドモンは呆れが入り混じった溜息を吐いた。

「このままでは先に進めん。ジョイ」
「あ、あぁ……」

 ぎこちなく頷くジョイも、周囲にいる男達と同じように頬を淡く染めている。
 やっぱり古代族の美貌って普通じゃないのか、と改めて実感した。

「皆、書き終わったな? ……それじゃ、シーナが提案した作戦を詰めるぞ」

 そこから採用された私の案を基礎ベースに奇襲作戦の構成を練り上げるのだった。



◇  ◆  ◇  ◆



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