09-04


(世界樹の弓……は、敵が接近しているから無理。……しょうがない。あれにするか)

 できることなら人前で使いたくないのだが、出し惜(お)しみしていると失敗する。

「――【両儀の剣】」

 一瞬の迷いを打ち消して、シーナは右手に意識を寄せる。淡い光が右手から放たれると、瞬(またた)く間に純白の刃を持つ漆黒の刀身が美しい両刃の剣が現れた。

 宝具【両儀の剣】は斬ることに特化した剣だ。どんなものでも切り裂き、どんな攻撃をも耐え切る硬度を持つ、シーナの神力と魔力によって創られた武器。そして、創造したシーナ限定で特殊な魔法を行使できる。

 シーナは純白の革を滑り止めに編み込まれた柄をしっかり握りしめ、一斉に襲いかかるリザードマンに向ける――のではなく、刀身を地面に突き立てた。


『――神明裁判(しんめいさいばん)』


 次の瞬間、シーナを中心とする直系五メートルの範囲内に何十本もの剣戟(けんげき)が地面から出現し、リザードマンを貫く。微(かす)かな引き攣った悲鳴を上げ、ダランとリザードマンから生気が消える。
【両儀の剣】限定の特殊魔法・神明裁判。刀身を突き立てている地点から所有者が望む指定範囲内に、練り合わせた魔力と神力を地面に込めることで、巨大な剣戟を生み出す技。

 地面から突き出た剣戟は、魔力と神力によって作られたため淡く発光している。
 見たことがない周囲にいる人々の目には異様に映ってしまうが、侵(おか)しがたい神聖的な力を感じ取ってしまい、深く思考することができない。

 シーナは敵が息絶えたことを確認し、地面から刀身を抜いて神々しい剣戟を消す。

「シーナ!」

 後ろからキャンディスに呼ばれて振り向く。
 すると、キャンディス以外に二人の男がいることに気付く。

 焦げ茶色の髪にダークブラウンの瞳、程良い筋肉を持つ整った顔立ちの男の名前はウォルター。年齢は、二十一歳。

 スリムな体躯に似合わないメイスを持っている、黄色の短髪に緑色の瞳の優しそうな男の名前はユリシーズ。年齢は、二十五歳。

 この二人は作戦決行前に言葉を交わしたため、緊張することなく声をかけることができた。

「三人とも、怪我はない?」
「いや、全く。にしてもすげーな。俺等なんかより滅茶苦茶倒してさ」

 ウォルターが手放しで褒める。一方、ユリシーズは先程の疑問を言う。

「見たこともない魔術でしたが、あれはいったい――」

 しかし、突如として感じた地面の振動で口を噤(つぐ)む。

 シーナも北西側を見上げ、こちらに近づいてくる巨大な魔物を視界に映す。
 灰褐色(はいかっしょく)の鱗(うろこ)と皮膚に覆われた巨体。血走った赤い眼。鰐(わに)より鋭く大きな牙。長い尾。

 Bランクモンスター・ディノゾール。

 誰もが引き攣った悲鳴を上げて硬直する。
 しかし、シーナは【両儀の剣】を構えて特攻した。

「えっ!? ちょっとシーナ!?」

 キャンディスが慌てて止めようとするが、既(すで)に遅く。
 シーナは鮮やかに剣を振るい、リザードマンを倒しながらディノゾールに向かう。

 果敢(かかん)に立ち向かおうとするリザードマン。
 しかし、その勢いも一気に萎(しぼ)む。


『鬼神(きしん)』


 静かに唱えた瞬間、黒々とした禍々(まがまが)しいオーラが【両儀の剣】に纏わりついた。

【両儀の剣】の特殊魔法の一つ・鬼神。目に見えるほどの濃度を持った、殺意や気迫が込められた覇気(はき)を纏い、恐怖を伴(ともな)う威圧を与える技。
 これは敵によって光属性と闇属性を切り替えて込めることができる。今回は純粋な殺意を込めた覇気にするため、闇属性だ。

 リザードマンの群れは、文字通り鬼神の如(ごと)きオーラを纏うシーナに恐れをなす。
 シーナは動くことすらできないリザードマンの群れに突き進み――

『破斬(はざん)!』
b 一振りで、いくつもの斬撃を与えた。
 一度に多くの斬撃を与える【両儀の剣】の特殊魔法のおかげで、リザードマンの群れはほぼ戦闘不能にすることができた。

「――!」

 その時、シーナは自身を覆う影に気付いて、咄嗟(とっさ)に風属性の身体能力を発動して飛び退(の)く。
 シーナが先程いた場所に、ディノゾールが噛みついてきたのだ。

 逃(のが)れられなかった数匹のリザードマンは悲鳴を上げる間もなく息絶え、ディノゾールの餌食(えじき)になった。ディノゾールは、獲物の感触が人間ではないことに気付いて唸(うな)り、高らかに吼(ほ)えた。
 鼓膜(こまく)が破れそうな大音量だが、シーナは無詠唱で〈防音結界〉を張って凌(しの)ぐ。

「あっぶな……」

 ヒヤリとしたが、それも一瞬のこと。
 振り回される長い尻尾。回避するために飛行術で飛び上がったシーナは、ホーヴヴァルプニルの靴で空中を蹴った。

 鉤爪(かぎつめ)を振るうディノゾール。その一撃は、人間の体に風穴を開ける威力がある。
 だが、シーナは巧みな飛行術で躱(かわ)して一気に接近すると――


『罪斬(ざいざん)――!』


【両儀の剣】の特殊魔法で、大樹の幹のようなディノゾールの首を――切断した。

 頭が胴体から切り離され、ディノゾールの首から血が噴き出る。ぐらりと傾(かたむ)き、地響きを立てて地面に倒れる巨体。
 見届けたシーナは、他にディノゾールが逃げていないのかを確認する。
 平原がある北西側を見渡せば、二匹のディノゾールと戦う人影を見つけた。

 Aランク冒険者・エドモン。シーナと同じ古代族の男だ。
 彼が愛用している武器は、神剣アクティナ。ブロードソードくらいの長さの剣は、通常属性と光属性を同時に纏えるように作られている。

 二匹のディノゾールと大勢のリザードマンと戦っているエドモンは、濃緑色のマントを翻(ひるがえ)して、光属性を含む氷を纏う神剣アクティナを巧(たく)みに操っている。

 エドモン以外にもCランクパーティーの冒険者が二組もいる。だが、彼等はディノゾールに近づけず、周囲にいるリザードマンを倒すことで精一杯のようだ。

「加勢、した方がいいよね……?」

 シーナは遊撃の立場にあるため自由に行動できる。しかし、キャンディス達のことも気になる。
 しかし、それは杞憂に終わりそうだ。眼下を見れば、キャンディス達の周囲にいる敵は少ない。これ以上介入して彼女等の収入が減ってはいけないだろう。

「……よし、行くか」

 様々なことを視野に入れて判断を下して、【両儀の剣】を消して北西へ飛んだ。


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