09-05


 ディノゾールを一匹取り逃がしてしまった。
 リザードマンをほふりながらディノゾールの猛威を受け流しているエドモンは舌打ちする。

 今回の作戦は見事に、筋書き通りに事が運んでいる。
 ただし筋書き通り過ぎて、その対処に頭をなやませてしまう。

 一番重要な位置ポジションを任されたのはいいが、正直に言って外野――Dランクパーティーの冒険者達――は必要なかった。
 むしろ、持ち得る力を思う存分発揮はっきできないことが、エドモンのストレスとなっていた。

 エドモンは異名となっている【白銀の剣帝】という称号の通り、他者の追随ついずいを許さないほど剣技に優れている。同時に、魔術に必要な魔力属性も全て持っている。
 得意としている魔術の属性は火。その他を挙げるとするなら、混沌の精霊が司る複合属性の一部である氷と雷。
 ただし、これらはあつかいが難しい。この討伐依頼で資金を稼ぎたい者もいるため、炎で燃やすことも、氷で凍らせて砕くことも、雷で焼き焦がすこともできない。

 古代族であるため、潜在魔力も通常よりはるかに高く、威力も強い。
 普段は難易度の高い依頼でランクの高い魔物を相手にしているため、そんなに手加減はいらなかった。
 だが、今回の討伐対象は、エドモンにとって羽虫同然の雑魚ざこ。しかし、それらは大物の魔物が率いているため統率力も高く、人間同様の知能に優れている。数も数であるため、殲滅で取りこぼしがあってはならない。

 ある程度の増員は必要不可欠。それは解っているが……。

「……やり難い」

 神剣アクティナに氷を纏わせてリザードマンを斬り捨てる。
 斬った部分は凍り付き、瞬時に壊死えししてしまう。たとえ掠ったとしても、その部分が機能を失ってしまうため、氷属性は何かと勝手が良い。
 ただ、チマチマした攻撃は性に合わない。

 雑兵ぞうひょうのリザードマンを相手にしながら、的確にエドモンを狙ってくるディノゾールの親子の攻撃を回避する。
 普通の人間なら、恐怖から戦意を喪失してしまっているだろう状況。だが、エドモンは華麗な動きで剣を振るい、ディノゾールの攻撃を利用してリザードマンに当てて自滅するよう誘導ゆうどうする。
 並大抵ではあり得ない荒技だが、エドモンには呼吸に等しい神技だ。

 チラッと共闘している二組のCランクパーティーを見る。
 一組は三人、もう一組は四人の計七人で、平原へ逃げようとするリザードマンを倒している。
 自分達の力量は充分理解しているベテランであるため、エドモンの邪魔をしないようにリザードマンに集中している。

 ありがたいことだが、やはり一人で討伐したかったという本音に行きつく。

「切りがないな」

 シーナの大魔術で三分の一まで減ったとはいえ、こちらに集中されては困る。
 こうなれば本気で魔術を使ってしまおう。そう思った直後、希少種のリザードマンがほかのリザードマンより素早く接近してくる。

 対応が遅れそうだと他人事のように思いながら、太古の竜エンシェントドラゴンの革で作られたマントでふせごうとした。


 ――その直前。


『神明裁判!』


 エドモンの周囲にいるリザードマンが、地面から出現した剣戟に串刺しになった。
 剣戟の長さは一八五センチのエドモンの身長を超える。恐らく二メートルはあるだろう。
 見たことがない魔術に一瞬反応が遅れたが、剣戟から魔力だけではなく神力が宿っていることに気付く。

「魔法……か?」

 神力が宿る魔術は存在する。しかし、これは通常ではあり得ない超常的な現象だ。
 だが、神聖魔法、古代魔法とは異なる術。
 しかも、今の声は――

「お待たせ」

 剣戟が粒子のように淡く消えたと思えば、リザードマンが倒れた場所に女の声が聞こえた。
 そこにいたのは、瑠璃と紫の異色の双眸そうぼうが美しい、漆黒の長髪の女。

 シーナ・レアード。入会と同時に、ギルドマスター直々にCランク冒険者に昇格された冒険者。
 その正体は、近年で話題になっている偉大なる【黎明の魔女】。

 そして、エドモンと同じ古代族。

 彼女が持っている武器は、初対面のときにも見せてくれた宝具【両儀の剣】。
 あらゆるものを両断する刃と不滅の刀身を持つと言っていたが、特殊な魔法も使えるのだろう。

 いつもの明るく穏やかな表情ではなく、戦士としての凛々しい顔で、襲いかかるリザードマンを武器ごと斬り捨てた

「南はどうした」
「ディノゾールと大体を殲滅した。彼等の収入を減らす訳にもいかないし」

 淡々と答えたシーナは、エドモンが持つ神剣アクティナを見る。

「見ていたけど、ちゃんと扱えてないようだね」
「……何?」

 神剣を使いこなせていないと言った。
 そんなはずはない。製造者である古代族・ネヘミヤから使い方を教わってすぐ順応した。
 だが、シーナには充分に力を発揮していないように見えている。
 それもそのはず。神剣の制作に、シーナも関わっているのだから。

「もう一振りあるでしょう? ちょっと貸して」
「……あれは闇属性が無ければ扱えんぞ。お前に闇属性があると言うなら別だが」
「ある」

 淡々と返したシーナに偽りはなさそうだ。

 エドモンは軽く舌打ちしてギフト《宝物庫》から神剣アクティナと同じ形状の剣を出す。
 投げ渡せば、シーナは片手で受け止めて【両儀の剣】を地面に突き刺す。
 手ぶらになった右手で柄を握り、静かな音を立てて鞘から抜けば、剣の美しさがあらわになる。

 青い柄に白銀の刀身が美しい神剣アクティナと違い、赤い柄に濃厚な紫色に色付いている刀身が目立つ。

 神剣スコタディ。神剣アクティナと違い、闇属性が無ければ扱えない神器。

 古代族ネヘミヤが作った、神剣アクティナと同等の最高傑作。

 シーナは、作り立ての神剣スコタディに触れたことがある。何故ならこの剣に闇属性の魔力を込めたのはシーナであり、闇属性が込められるか検証したのも彼女だ。
 それ故に扱い方を知悉ちしつしているシーナは、一呼吸で神剣スコタディの刀身に氷を纏わせる。

 氷は通常の透き通るような色ではなく、黒。けれど氷なので透明感はある。
 本当に闇属性を有しているようで、エドモンは意外そうに目をみはる。
 けれど、その直後に行ったシーナの攻撃に驚愕することになる。

「はあっ!」

 気合と共に横へ一線を描くよう振るえば、刀身からいくつもの氷の槍が放たれる。
 大小様々な氷の槍は、両端が尖っている針とも表現できる結晶。だが、放った氷の槍は鋭く、貫通性が高い。その証拠に多くのリザードマンは貫かれ、貫かれた部分が凍り付いて機能を失った。

 続いて黒い水を刀身に纏わせて振るえば、水の刃が弧を描いて飛び、リザードマンを斬り裂く。

 魔術による斬撃を飛ばす。その発想がなかったエドモンは衝撃を受けてシーナを凝視する。
 シーナは神剣スコタディを黒い鞘に納めると、エドモンに投げ渡した。

「せっかくの神剣なんだから、もっと有効に使わなくちゃ」

 にこり、戦場に似合わない笑顔を見せた。

「!」

 不意に笑みを消したシーナ。落ち着いた様子で前へ出ながら【両儀の剣】を地面から引き抜き、エドモンへ向かう。

「避けて!」

 シーナの声で我に返ったエドモンは、背後に迫るディノゾールの尻尾を回避すべく飛び退く。


『破斬!』


 掛け声と共にモノトーンの剣を振るえば、リザードマンの太い尻尾を三節に斬り落とす。
 成体よりやや小さなディノゾールが悲鳴を上げる。

 ディノゾールの子供に向き直ったシーナは、左手にもう一つの宝具を出現させる。
 純白の十字架が埋め込まれた漆黒の銃身が美しい宝具【天譴てんけんの銃】。
 瞬時に照準を合わせたシーナは――


雷帝爆珠らいていばくしゅ


 引き金を引いた。

 ズガァンッ、銃声と共に放たれた魔弾が、ディノゾールの胸部に命中する。
 直後、電撃を伴う爆発が起きた。

「ギャオオオォォォ……!」

 バチバチと紫電が迸り、ディノゾールの体が大きく抉れる。
 悲痛な断末魔を上げたディノゾールの子供は地響きを立てて倒れる。

 見届けたシーナは【天譴の銃】を消し、固まっているエドモンを見遣る。

「もう一匹は任せた」

 再び戦士の顔付きに戻ったシーナは【両儀の剣】を駆使してリザードマンを倒していく。
 その背中を見送ったエドモンは、力無く苦笑した。

「全く……規格外な奴だ」

 だが、負けていられない。

 エドモンは秀麗な美貌を精悍な面持ちに変え、最後のディノゾールへ立ち向かった。
 神剣アクティナの刀身の氷を解除すると、火属性の魔力を混ぜた神力を込めて烈火を纏う。

 そして、ディノゾールに向けて炎の斬撃を飛ばした。


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