09-06


 唖然あぜんとした冒険者達は、再び剣を振るうシーナの姿で我に返って、リザードマンと交戦する。しかし、舞踏のように次々と敵を倒すシーナの姿が目に焼きついて、つい目で追ってしまう。

 彼等はシーナを良く知らない。ギルドの会議室で彼女のうわさを耳にしたが、本当かどうか疑った。
 それはそうだ。ギルドマスター直々に階級を飛ばされ、Aランク冒険者のキンバリーと一騎打ちで倒しただなんて、たちの悪い冗談だと思うのが普通だ。

 しかし、拠点へ向かう道中で襲いかかる魔物を遠距離から倒し、一日目の夜にBランク冒険者のクラウドを体術のみの模擬戦で簡単にあしらい、作戦会議でリーダーの素質を見せた。

 認めざるを得なかったが、心のどこかでしこりのような不満が残っていた。
 だが、彼女が戦う姿を見て、それも綺麗さっぱり消えた。

 大魔術でリザードマンの群れを一気に減らし、踊るような華麗な動きで剣を操り、強力な魔術でディノゾールの子供を一撃で倒した。

 戦術のセンスがある上に、この戦闘能力。加えて不利な状況に駆けつけてくれる度量の広さ。
 ギルドの会議室で聞いた噂も本当なのだと信じることができた。

「ぐわっ!」

 負けていられないと意気込んでいると、リザードマンジェネラルの鋭い攻撃で剣が折れる。
 無防備になった男に容赦なく剣が振り下ろされた。


(やられる――!)


『〈結界〉!』

 凛とした声が聞こえたと思えば、見えない何かによって弾かれる。
 あと数センチで斬られそうになった男は冷水を浴びたような感覚に陥ったが、すぐさま現れた白と黒の背中で硬直状態から抜け出す。

「シーナ!」

 まさか駆けつけてくれるとは思わなかった。
 驚きから声を上げた男に、リザードマンジェネラルを一撃で斬り捨てたシーナは男に振り向く。

 凛然とした、戦士の顔。

 元から魂が抜けるほど超越した美貌だが、超然としたたたずまいに鳥肌が立つほど見入ってしまう。

「大丈夫?」
「……ぁっ、あぁ……」

 掠れた声でぎこちなく頷くが、シーナは僅かに眉をひそめる。
 男が持っている折れた剣に気付いたようだ。

 このままでは戦えないと、男は諦めかけていた。けれど、シーナはアイテムボックスから男の剣より上等な剣を出した。結界を解除したシーナは男に近づき、目の前の地面に剣を突き刺す。

「後で売ってあげるから。いらなかったら返していい」
「えっ! いいのか!?」
「元からこの状況のために買ったんだから。ほら、続けるよ」

 戸惑う男に促したシーナは純白のローブを翻して走り出す。
 その後ろ姿に、男は頼もしさから笑みを浮かべて剣を引き抜き、リザードマンを駆逐くちくしていく。

 直後、ディノゾールが炎の刃によって悲痛な鳴き声を上げる。
 地響きを立てて倒れ、絶命したディノゾールを見た雑兵達は、勝ち目がないと悟って逃げ出す。
 しかし、それを見逃すほど冒険者は甘くない。

 シーナは広範囲に魔力障壁を出現させて平原へ逃がさないよう阻む。
 逃げ道はない。ならば立ち向かうしかない。
 自暴自棄になったリザードマンを次々と倒していく内に、Aランクパーティー『氷冷の鉄槌』とCランクパーティー『悠遠の旅人』が到着する。

「うわっ、流石エドモンさん。ディノゾールを二匹も……」

 戦くリョーマの言葉に、キンバリーはひと目で否定する。

「いや……小さい方はシーナだな」
「……ええっ!? ど、どうしてそう思うんですか?」

 アスカが驚きの声を上げて訊ねると、ジェニファーが説明する。

「ディノゾールの子の傷を見れば判る。あんなえぐれた傷は魔術しかない。エドモンの得物は剣。魔術で倒すにも、援護もない状態で詠唱なんて無理があるんだ」

 実際のエドモンは、激しく動きながらの呪文詠唱は難なく熟せるのだが、常識を考えて一部の実力を隠しているため知られていない。
 それでも一般的な常識をもとに導き出された、キンバリーとジェニファーの観察眼はAランク冒険者と名乗るに相応しい。

 理由を聞いたリョーマとアスカは、シーナの強さに改めて戦慄した。

「それよりアスカ。サポートを頼む」
「あっ、はい! リョーマとマードックとキンバリーさんに……〈攻撃力強化パワーアップ〉と〈速力強化スピードアップ〉を付与エンチャント! ジェニファーさんに〈魔術強化〉を付与! 全員に〈防御装甲プロテクター〉を付与!」

 ユニークスキル《付与術師エンチャンター》を駆使して全員に強化を施すアスカ。彼女の支援のおかげもあり、森側のリザードマンは全滅した。
 続いて平原側のリザードマンを倒すために向かう。

 だが――


『〈影の槍シャドーランス〉』

『〈大地の槍アースランス〉』


 シーナはリザードマンの影を用いて、エドモンは大地を用いて、凶悪な槍を地面から突き出して一帯にいるリザードマンを串刺しにした。

 異様で凄絶せいぜつな光景に絶句するキンバリー達。
 影の槍が消えた途端に、突き刺さったリザードマンの群れは血潮ちしおを流しながら倒れ伏す。
 残るはCランクパーティーの周囲にいるリザードマンのみ。それも彼等の奮戦によって一気に片付く。
 肩を上下に息をするほど疲労感を見せる冒険者達。対するシーナとエドモンは悠然とした姿勢で立っている。とはいえ今回の仕事は疲れたのか、湿しめっぽい吐息を漏らした。

「ふぅ……。やっと終わったぁー」
「流石のお前も疲れたか」
「そりゃあね。ここまで戦ったのは初めてだから」

 僅かに眉を寄せて笑みを浮かべるシーナだが、目に見えて疲れている感じがしない。
 エドモンは小さな笑みを口元に浮かべ、神剣アクティナを鞘に納めると《宝物庫》に入れた。

 シーナも【両儀の剣】を消して、ぐるりと辺りを見渡す。

「……これ、全部剥ぎ取るんだよね」
「当然だ。自分で倒したものは自分のものになる」

 エドモンが教えると、シーナは顔をしかめた。

「うえぇ……全部はいらないし。ディノゾールも二匹いるし……」
「そういえば南に逃げた奴を倒したと言ったな」

 思い出したエドモンの言葉に、シーナは渋面のまま頷く。

「ディノゾールの解体なんて初めてなのに……」

 深淵の森でディノゾールと対峙したことがあるが、あの時は二十匹以上のリザードマンも引き連れていた。ディノゾールとリザードマンの肉はたいして美味しいと思わないことから、あの時は殲滅魔術で一気に焼き殺してしまった。そのためディノゾールを解体したことがないのだ。

 解体の仕方は解体書を読んでいるため知っているが、どこから先に剥げばいいのか忘れてしまった。
 しかも、ディノゾールは全長八メートル前後もある。そんな巨体を一人でさばくのは無理がある。

 げんなりと肩を落とすシーナ。不意に、ここでキンバリー達の存在に気付く。

「あ、そうだ。キンバリー。ディノゾールの子供をあげるから、ディノゾールの解体の仕方を教えてくれない?」

 美味しい話を持ち出して頼めば、キンバリーは目を丸くする。

「ま……待て。シーナ、お前はそれでいいのか?」
「うん。流石に二匹は面倒だから」
「収入が減るぞ」
「いいよ。お金に困ってないし」

 キンバリーは知らないが、シーナは魔女だ。
 ムネーメー鉱石の本来の効果を世に知らしめた功績。ムネーメー鉱石を使用した携帯通信魔道具と鍵。新薬である幸運薬で得られる月収。Sランクモンスターのアシエリオンの剥製の売却。
 異世界エルピスカイノスに転生した初日に、古代族の神殿で王金貨十枚分以上の財宝を得たが、それを上回る財産が法界魔術協会の金融機関にたんまりとある。

 一生遊んで暮らせる額だが、シーナは必要な時以外に使うつもりはないため、消費する機会が少ない。そういったこともあり、シーナの財産は増える一方だ。
 シーナの懐事情を知っている者にとって苦笑いものだが、知らない者にはこの発言は羨ましいものだった。

「……わかった。けど、シーナが倒したんだ。討伐証明部位の牙はいらん」
「ありがとう」

 良識のあるキンバリーの譲歩じょうほで、交渉は成立した。
 ほっとしたシーナは肩の力を抜いて、今後の予定を訊ねる。

「で、これからどうすればいいの?」
「苦戦している所がないか見回って、殲滅が完了したことを確認してから拠点に戻ることになる」

 ジェニファーが教えると、シーナはスキル《地図》とスキル《索敵サーチ》で全体を見て、赤い点――敵マークがないことを確認する。

「……ん、完了しているね。残党もいないようだし」
「シーナの《気配感知》と《魔力感知》の範囲は?」
「大体……半径二キロ以上。《索敵》の場合はそれの倍以上だけど」

 軽く目を伏せて呟くシーナ。彼女のスキルが気になったジェニファーが訊ねると、自分の感覚を確かめながら答えた。

 スキル《索敵》を単体で使えば、脳裏にレーダーのような映像が浮かんで僅かな動きも判る。しかしスキル《地図》を同時に使えば、脳裏に浮かぶ地図に詳細が浮かび上がる。地形まではっきりしている上にズームアウトすれば、更に範囲が広がるのだ。

 つくづく便利なスキルだと胸中で呟き、地図に映る青い点――味方マークがこちらに近づいていることに気付く。

「どうやら皆、こっちに来ているようだよ」

 味方マークが来る方へ顔を向ければ、クラウドやネイディーン、『蒼炎の刃』などのパーティーが走ってくる。
 怪我人も多少いるようだが、全員が生きていることを確認したシーナは肩の力を抜く。


(後で『あの子達』にお礼を言わないとなぁ)


 この場にいない身内の活躍を知るシーナは、胸中で呟いた。



◇  ◆  ◇  ◆



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