翌日の昼間まで、俺は昨日の鉱山のことで村長から謝り倒された。
内容は、主にシーナのこと。
親がいないから礼儀知らずで、強欲で、
なるべく聞き流そうとしたが、村長だけではなく村人まで彼女を
黒持ち。怖い。不気味。気色悪い。魔女。
吐き気がする言葉に、俺は途中で仕事を放り投げてしまった。
彼女の何が解る。あんなにも繊細で、苦しみを抱えているというのに。
シーナの家は、村の外れの森の中にある。柔らかな日差しが心地よい空間だが、魔物が出てもおかしくない場所だ。
心配で向かったが、子供の笑い声が聞こえた。
広々とした空間に出ると、シーナが三人の子供達と遊んでいた。
見たことがない珍しい遊びだが、子供達と一緒に笑い合っている姿に心が揺さぶられた。
村人達に酷い扱いを受けているというのに、子供への優しさを忘れない。
強いと、心から尊敬できた。
子供達に林檎を渡して帰し、家の中に案内される。
林檎は
席に座ったシーナが単刀直入で訊ねる。それに対して俺も単刀直入に宮廷魔導師にならないかと勧誘した。
シーナならすぐに受け入れてくれると思ったが、どこか
難しく考えていたが、小さな声で「行きたい」と言ってくれた。
持って行きたい大切な持ち物を
それは、古代魔法書。
最初の人類が作り出した魔法を記したもの。大層な呪文は載っていないが、古代語による呪文の組み合わせ方が詳しく載っていた。いわば辞書だ。
宮廷魔導師でも解読できない文字だが、シーナは普通に読めるようだ。やはり辺境で燻らせるのは勿体無い。
俺は国宝級の古代魔法書を国に
「お金とか褒美なんて、私の思い出に比べると価値がない。ほんの少しだったけど、私の幸せが詰まった宝物だから」
強い眼差しではっきり断ったシーナの発言はとても強くて、格好よかった。
思わず息を詰めてしまう俺に、シーナは少し考えて百歩
何がそんなに嬉しかったのか知らないが、俺は信用してくれていることが嬉しかった。
村で花嫁候補を送り出す
仲間の使者より早く馬の準備をしていたときに、シーナを
昨夜の宴でシーナのことを話すと、かなり泣かれてしまった。
それでも三人は……。
「魔女さまを、おねがいします!」
シーナが村でつらい思いをするより、シーナの幸せを願ってくれた。
あそこまで慕っている子がいたからこそ、シーナは頑張ってこられたのだろう。
それを思い出しながらシーナの家の方へ行くと、旋律が聞こえた。
美しい音程で、
この声の主はシーナだ。
不思議な音色に聞き惚れつつ、シーナと合流して村から出た。
馬の揺れに慣れた頃、シーナに花嫁候補の存在を教えた。そして、政府の
すると、彼女は理不尽だと自分のことのように怒った。
「恋とか愛は、本人がその人に出会って、その人の心に触れないと芽生えないものだよ」
まだ十五歳だというのに大人な考え方をする。彼女は子供ではなく、立派な女性なのだと認識させられた。
そして、同情ではない言葉が次々と出てきた。怒りも、竜帝を思ってのこと。
一般の人間は、誰もが花嫁候補を選ぶことに違和感を持たずにいるのに……。
「――ありがとう……」
嬉しかった。ここまで親身になって怒ってくれる者はいなかったから。
自然と感謝の気持ちがこぼれてしまったが、シーナの耳に届かなかったようでほっとした。
初めて見る町に目を輝かせて辺りを見渡すシーナ。
無邪気な様子は可愛らしくて癒される。途中で何か思いつめたような顔をしたが、深く追求せず床屋に預けた。
本当はもっと頼って欲しいのだが……まだ出会って三日目だ。
宿に馬を預けて床屋へ戻ると、シーナはとても美しい少女に変わっていた。
毛先を綺麗に揃えた黒髪は明かりで光沢感を帯びるほど美しく、前髪を断髪したおかげで顔がはっきり見える。
さっきまでとは別人かと思うほどの様変わりに驚いてしまったが、シーナは自分の容姿に自覚がないのか
彼女も花嫁候補に選ばれても不思議ではないが、自由を願うシーナは望まないだろう。
その後はシーナの服と靴を買い揃える。途中で別れてコートをプレゼントすると
楽しそうなシーナの笑顔に感化され、俺も楽しくなったのは秘密だ。