08-02




 宮殿に入って、向かった先は朝廷ちょうていの区域。
 見回りの衛兵がヴィンス様といる私に疑問を持っていたけど、廊下のすみに寄って通してくれた。
 宮殿に入ったのはこれで二度目だけど、前回と違う雰囲気がある。それはおそらく昼間だからというだけではないだろう。

「シーナさんは、確かデオマイ村出身でしたね」
「あ、はい」
「どんな村でしたか?」

 突然、ヴィンスさんに話を振られた。
 視察の報告より、住んでいた人の視点からの感想も聞きたいのだろうか。

「……さびれた村です。土地がせているせいで作物も満足に育ちませんし、鉱山も採掘できる物もほとんどありませんから。それに……鉱山のふもとには、よく魔物が出ていました。村の人が対処できないものは私が倒していましたが……」

 ここで、あることに気付く。
 あの村は魔法使いだった祖母と母が護っていた。何かがあれば、村人達は頼ってきた。
 二人がいなくなってからは、ほとんど私が密かに倒していた。
 村人達の前で活動すれば厄介者を見る眼を向けてくるし、活動しないままで誰かが死んだら私が責められていた。

 あの村は私達という『護り』を失っている。
 それはつまり――。

「どうしましたか?」

 急に黙り込んで立ち止まった私に、ヴィンス様が心配そうに声をかけてくれた。
 我に返った私は、深呼吸してヴィンス様に言う。

「ヴィンス様。陛下に頼み事ってできますか?」
「頼み事……ですか? いったいどのような?」
「デオマイ村の人達を助けたいんです」

 もう私にはできないこと。そもそも無理があったのだ。
 本来なら地元の権力者に頼るしかないけど、私は平民だから面会することもできない。行動に移したくても、私にはその権利がなかった。
 できることなら竜帝陛下の手をわずらわせたくなかった。けれど、これしか方法がない。

 真っ直ぐな視線をヴィンス様に向けると、彼は目をみはった。

「シーナさん……貴女は迫害はくがいされていたと聞きましたが……」
「確かにそうですが、私の心を支えてくれた子供達もいるんです」

 一番はあの子達を助けたい。でも、あの子達だけだと、きっと悲しむ。ちゃんと村人全員を助けないと意味がない。

「私では発言権がありません。ですから……」
「シーナさん」

 ヴィンス様は私の名を呼んで言葉を遮った。
 駄目なのだろうか。そんな不安が押し寄せていると、ヴィンス様はまなじりを下げた。

「大丈夫です。私の権限で、陛下への進言しんげんを許しましょう」
「……!」

 希望を込めてすがるように見つめると、ヴィンス様は苦笑気味に頷いてくれた。

 よかった……。もう遅いかもしれないけど、あの子達を助けられる。
 肩の力を抜いた私に、ヴィンス様は少し呆れたような表情で笑った。

「では、行きますよ」
「はい!」

 強く頷いて、私はヴィンス様の後を追った。





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Aletheia