王都クウァエダム
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ユリアは普段着ではない真新しい服を出して、自室にある大きな鏡の前に立つ。
白い
これでカエレスティス王国最大の学園の女子制服が完成した。
鏡の前で
初めは似合わないほど華麗な制服だと思っていたが、とても良く似合っていた。
万人が似合うように作られていると聞かされていたが、実は半信半疑だったのだ。
「ユリア、着替えた?」
「あ、うん」
女性の声が聞こえて返事をすれば部屋の扉が開いて、金髪に赤い瞳の美女――ユリアの母マヤが入ってきた。
マヤはきっちり着こなしたユリアの姿を見て、頬を淡く染めて目を輝かせる。
「……可愛い……綺麗……! とても似合ってるわね!」
「あ……あはは。ありがとう。お母さんもいつも以上に綺麗だよ」
普段は赤い模様が入った黒いワンピースを着ているマヤだが、今日は赤い薔薇と緑色の葉の
この世界での女性服は、
ただし、それは
ティエール家はそれらより裕福なのだが、ユリアのトラウマや容姿もあるため街に行けず、旧型の服が多かった。
とはいえマヤは上衣と下衣が分かれている服より一つに繋がっているワンピースが好みだった。
母親としては娘を着飾って楽しみたかったが、ユリアのためにその気持ちを封印していた。
けれど、これからは一緒に街に出ていろんな服を着せ替えることができる。そう思うと笑顔が溢れた。
「……お母さん。何か企んでる?」
「そんなことないわよ? ただ……これからどんどん服を買ってあげられると思うと嬉しくて」
綺麗な服は欲しいと思う。けれど、ありすぎると着る機会がなくなって勿体無いことになりそうだとユリアは
「買い過ぎは駄目だよ」
「十着までだから大丈夫!」
「全然大丈夫じゃなーい!!」
思わずツッコミを入れてしまったユリア。
本来の明るいユリアを見て、マヤは嬉しそうに、そして楽しそうに笑った。
「さあ、そろそろ行きましょう。荷物は昨日のうちに送ったからいいとして……ミアは時間が来るまでお留守番」
「きゅうぅ……」
ベッドの上でしょぼくれているミアに、ユリアは苦笑する。
「タイミングはお母さんが教えてくれるから、安心して」
「……きゅい」
ユリアの言葉に、ミアは渋々頷いた。
ミアの胸には、これまで身につけていなかった小さな赤い首飾りがついている。今から二週間前に完成させた転移魔道具だ。ユリアは、それと同じ赤い宝石をつけたイヤーカフを、通信魔道具の代わりとして右耳に付けている。
ちなみにユリアの通信魔道具のイヤーカフは金製だが、転移魔道具は銀製。
学園では装飾型の通信魔道具は使用できないため、転移魔道具をこっそり持つことにした。
「じゃあ、行ってきます」
「きゅい!」
後で会えるのだから我慢しよう。
ミアは寂しさを押し殺して、前足を大きく振って見送った。
カエレスティス王国――王都クウァエダム。
中心にある広大な王宮を囲むように貴族が住む屋敷が所々に建っている貴族街、その外周に名のある商人や錬金術師や医者などが商いを営む商業街、東側と西側の両脇に平民街がある。
他にもこぢんまりとした
マヤに連れられてやってきたユリアは、まだ行列ができていない門に向かい、王都の入口を警備している門番に近づく。
「お
「マヤ殿! 珍しいですね、こんな朝早くに……と、そちらは……?」
門番がユリアの存在に気付き、目を見張る。その反応に不安感を持ったユリアは後ろ足を引き、マヤの後ろに少しだけ隠れた。
「娘のユリア。今日から学園に編入することになったのよ。……と、ユリア。ご挨拶」
隠れそうになっているユリアに気付いたマヤが手を引っ張って強引に前へ押し出す。
つんのめりかけたが、ユリアは何とか踏ん張って姿勢を正し、ぎこちなく
「えっと……ユリア・ティエール、です」
約一ヶ月前に出会ったクリスとは違う一般の人間に緊張してしまう。
恐る恐る頭を上げれば、門番は固まってしまっていた。
やはり『黒持ち』の上に『災禍の瞳』を持つ禍人だから受け入れられないのだろうか。
そんな不安を抱えてマヤを見れば、彼女はユリアの頭を撫でて門番にカードを見せる。
「はい、私とユリアの身分証」
「……あっ、はい! ええと……確認
「ありがとう」
カードを返却され、マヤは微笑んでユリアの手を引いて歩き出す。
ユリアは戸惑いながらも門番に軽く会釈して、マヤに引っ張られながら門を潜った。
「……本当、だったのか」
癖のない長い髪を揺らしながら街へ入っていく二人を見送った門番は、湿っぽく呟いた。
少し離れた所にいる男も同じく驚いていたが、同僚の呟きに意地悪く笑う。
「お前、マヤ殿を慕ってたもんな。残念だったな」
「うるせえっ!」
冷やかす同僚に門番は
そんな遣り取りを知らないユリアは、後ろから聞こえた叫びに肩を震わせた。
「な、何……?」
「うふふっ、気にしないの。どうせ私のことだと思うから」
「お母さんのこと?」
予想ができなくて首を傾げるユリア。不思議そうな彼女の仕草に、マヤは
「私ね、モテモテなの。よく道すがら告白されるわ」
「えっ、そんなに? お父さん、
「妬いてるわよー。目撃したら毎度不機嫌になっちゃって。そこが可愛いのよね」
夫を可愛いと言うマヤを初めて見たユリアは驚いた。
いつも見ている父親は礼儀正しく悠然として、柔らかな物腰をした紳士的な人だ。
余裕な姿ばかりを見てきたユリアには想像できないことで、密かに気になった。
「ね? 禍人の私に
「あ……」
ここで、マヤの言葉で気付いた。
マヤはユリアと同じ綺麗な赤い瞳をしている。赤い瞳は『災禍の瞳』と呼ばれ、禍人として迫害の対象になってしまう。
しかし、都会では少ないようで、禍人のマヤに告白する勇気のある人もいるようだ。
マヤが受け入れられているのだ。ユリアが受け入れられないわけがない。
大丈夫、と言ったマヤの言葉が温かく感じて、ユリアは嬉しくなって破顔した。
「ありがとう、お母さん」
「どういたしまして」
満面の笑顔で礼を言う愛娘。不安そうな表情が薄れたことに安堵して、マヤはにこりと笑った。
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