専売特許
[ bookmark ]
「では、メリッサ。後はよろしくお願いします。ティエールさんも、頑張ってくださいね」
「はい。ありがとうございました」
少し緊張が
小さく笑ったイリーナは彼女の頭を軽く
「では、ユリアさんは……左側の下から三段目の席が空いているので、そこに座ってください」
「はい」
メリッサに片手で示されて、ユリアは三段目の席に向かう。
と、ここでユリアは若干遠い目になった。
(……マジか)
空いている席とは、エドモンの右隣だった。
はっきり言って、エドモンは眉目秀麗という言葉では収まりきれない美貌の持ち主だ。そんな彼の隣に座ると女子生徒に警戒され
しかも、エドモンの左隣には彼に
(……うん、死んだかも)
不吉なことを胸中で漏らしながら平静を貫き通したユリアは右端の席に座った。
「それでは、この三日間で行う予定の説明をします。まず――」
ユリアが席に着くと、メリッサは本日中に行う学力考査と学生証の更新の流れを説明し、後日に健康診断と身体測定、委員会や係員を決める
総合学科には、国語学、数学、社会学、歴史学など以外に、カエレスティス王国と貿易を交わしている『大和国』という島国の言語・
大和語に至っては、ユリアの前世に馴染みがある言語に近いため、海外の言葉の中では得意中の得意分野だ。苦手な言語は、西の国が交流を深めている島国『
ユリア達が使っている言語は大陸語と呼ばれ、地域によって多少の訛があるも、それほど大差がないため万国共通語とされている。そのため、大陸語は一般的に国語として
総合学科の教科書を取った後、選択学科の教科書を取りに行く。
ここで、周囲の生徒がギョッと目を見張った。
戦術学の教科書を、ユリアが取ったからだ。
戦術学を習う女子生徒は少ない。その少数は女騎士を目指す者から冒険者などを目指す者に分かれている。
誰もがユリアは戦士に向いていないと思った。商業学や料理学を取った方が自然だとも思う。
だが、ユリアは戦術学の他に魔法学と錬金学の教科書を貰っていた。
これには流石のマリリンも
「……ね、ねえ、ユリア」
「ん? 何?」
魔法学と商業学と政治学の教科書を取って戻ってきたマリリンは、ユリアの真後ろの席に教科書を置くと話しかける。
「本当に戦術学を受けるの……?」
「うん」
あっさり
「……どうして?」
「専売特許の一つだから」
これには絶句するしかない。
「ユリア、君……将来何の職に就きたいんだい?」
流石に疑問に思ったノエが恐る恐る訊ねる。
聞きたいような、聞いたらいけないような、そんな
そんな彼の心境に気付かないユリアは、あることに気付く。
「……考えたことないかも」
将来の夢。それは自作の魔道具を売ることで、父親によって
「戦術はお父さんから護身だからって、武器全般の扱い方を叩き込まれたし。魔法はお母さんから習ったけど、後は趣味で作る程度だし……あれ? 適性する職が……判らない?」
ぶつぶつ独り言のように呟いて考え込むユリア。
そんな彼女の発言に軽く引き
「な、なあ……魔法って趣味で作れるものだったか……?」
「……こいつなら、ありえなくないだろうな。実際、今朝の訓練に使った魔法がそれだった」
「地魔法で浮くなんて発想、普通なら無理だよねぇ……」
ノエが遠い目で
「地魔法で浮けるのかっ?」
「ユリア曰く、『重力』を操っているんですって」
「……重力って何だ?」
一番想像しにくい疑問を的確に口にするが、マリリン達は説明に困る。
我に返ってその様子に気付いたユリアは、何気なく教える。
「……え? あぁ……星が私達を地面に引っ張る力だよ。万有引力とも言うんだけど……。えっと……林檎が木から、物が下に向かって落ちるでしょう? その『落ちる』という原因が、大地が万物を引っ張る力……引力ってこと。この引力が無くなったら、私達は地面に足をつけることすらできずに浮いてしまうの。ちなみに宇宙は無重力空間になっているから、隕石も
前世の知識を引用しつつ、自分が話しやすいように噛み砕いて説明するが、聴き入っている周囲は目を点にするばかり。
何となく理解できたエドモンは、深い
「お前はどこで、そんな知識を得てくるんだ」
「……秘密ー」
内心でドキリとしたが、ユリアは明るい笑顔で隠した。
prev / next
[ 3|71 ]