少女の秘密、人外の正体
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式神。それは、平安時代で活躍した陰陽師・
超然とした力を持つ陰陽師は神霊を使役することができるが、力が
他にも
陰陽師は時代とともに廃止されたため、現代では
しかし、二百年以上の歴史を持つ修祓師は、この式神を使役する技術を持っている。
ただし、並の修祓師では使役できない。
善良なる妖怪――狐妖怪で例えるなら
気に入られる、という
力尽くの方法で
詩那は生まれながら妖怪などの化け物に狙われやすい。その中には好意的に近づく妖怪もいる。彼等から親しくされることもあれば、
だが、詩那は
何故なら相手を拘束して自由を
自由を奪うことで不幸にしたくない。自分の秘密を知られたくない。相手が思っていた通りの主人ではないことで、勝手に失望されたくない。
相手を思い遣る心と、信用できない
この二つに苛まれてしまい、心を病みそうになる。
詩那は、それが何よりも恐ろしかった。
最大の秘密――
詩那の前世は、本人が最も嫌悪する過去だ。幼い頃から孤立して利用され、裏切られ、
やがて心を病んでしまい、最も望んでいた幸福――「普通」を壊してしまった。
それでも「普通」を目指して
しかし、親の問題による環境の変化で体を壊し、親の都合で「普通」を壊された。
誰もが共通・共有する、
全てが壊されて
再び立ち上がろうとすることで、再び味わうだろう
いくら努力しても、
とうとう生きる意味を見出せなくなって、何度も「死にたい」という
死は逃げだと解っていても、死という解放を望んでしまう。
けれど、どういう訳か死んでしまった。
死因は記憶に残っていない。突然死か、事故死か、病死か、はたまた自殺による死か。
今となってはどうでもいいことなので深く考えなくなったが、生き地獄のような人生の記憶が深く刻まれている
だからこそ詩那は式神を得ようとしなかった。
それが、望まずして得てしまうなんて……。
「か、解消ってできない……?」
「断る」
徐々に強張っていく表情と体。己の手を握り締める力が強くなる。
白魚のような色白の手の指先が更に白くなっていく様を見ても、彪人は無情に切り捨てた。
くしゃりと傷ついた面持ちになってしまう。そんな詩那に、彼は冷徹な眼で見据える。
「何度も言うが、仮契約だ。正式な契約ではないから、俺の自由は奪われない」
「……今更だけど、仮契約なんて聞いたことがない」
「それはそうだ。我々のような
ここで、詩那は引っかかる。
「我々……? 一族か何かなの?」
「一族と言うより種族。
霊なる人と書いて、霊人。
聞いたことのない存在に眉を寄せて小首を傾げる。
「霊界の存在はあまり知られていない。そこで暮らしている我々の存在も」
彪人はそれを
「霊人は人ならざるもの。人間と同じ姿形をしているが、何らかの特殊な力を持つ。人間のように階級社会で成り立っているため、優劣の差別もある。
詩那は、聞いている内に強張っていた体の力が抜けて、規模の大きさに
「霊界は現世と同じく都市も町もあるが……それはいずれ話そう」
一通りの説明が終わった彪人は冷めてしまったコーヒーを飲み干して、ソーサーに置いた。
「質問はあるか?」
「……。その……霊人って人間のように真名があるんだよね? それを仮の名前で契約するから仮契約?」
「理解が早いな。そうだ。霊人は気に入った者でも、信頼できると判断しなければ真名は明かさない。霊人にとって真名は命であり、階位を持つ者にとって真名は
まるで貴族のようだと感じた詩那は、興味を持って訊ねる。
「階位を持たない霊人は?」
「真名の重要性を理解しない
詩那は脳内で、上から霊神、皇族、華族、士族、庶族という階級を思い浮かべた。
霊人も人間のように多種多様なのだと知り、ますます興味が深まった。
「じゃあ、彪人は華族?」
「……理由は」
「所作が綺麗だし、振る舞いも高貴な人みたいだから」
尊大だが気品があり、滲み出る高貴な雰囲気も
「あ、でも華族って政務もありそうだし……。そういう人って現世に来ないよね?」
「あながち外れていないが……二百年以上も前にできた組織に所属する霊人は現世を行ったり来たりしているぞ」
「……組織?」
霊人にも組織があることに驚き、首を傾げて復唱する。
不思議そうな詩那の表情と仕草に、彪人は表情を緩めた。
「死神治安協会。実戦向きの霊人が入る職だ」
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