魔王






 僕は魔王。強大な力を持ち、人間から恐怖の対象とされている。
 けど、僕は争いごととか、あまり好きじゃない。そもそも喧嘩けんかが苦手だ。

 どうしてそんな僕が恐れられているのか。それは、生まれながらの破壊的な能力と、凶悪な顔が原因だった。
 ただそこにいるだけで威圧を与えるほど、巌のような人相にんそう
 滲み出る能力の影響も、迫力のある顔もあって、勘違いされることが多い。
 実際、四天王と豪語する四人の魔族も、僕が世界を掌握しょうあくしようとしていると思って勝手に行動している。不必要に国を落とすのはやめてほしいのだけれど。

 なかなか止められないでいるうちに、神様が人間に味方して、勇者という僕を倒す立役者を用意した。
 勇者が現れたと聞いたときはおびえて、手に持っていたコップを握り潰してしまった。

 それがいけなかったのか、四天王の一人が独断で勇者を潰そうといどんだ。

 結果……。


『ゆ、ゆるひへ、ガフ! いひゃい、ブヘッ! こ、こーさんしまっ、ゲホッ!』


 勇者の仲間と思わしき少女が、腕力で物を言わせる『地のフムス』を倒していた。

 ……素手で。

 まさか女の子が、自分より一回りも大きな男を鉄拳制裁するなんて思うわけがない。
 しかも、フムスは無傷だ。なのに顔を殴られるたびに泣きべそをかいて降参している。

 だが、少女はこぶしを引かない。むしろ喜々と笑っている。


『この程度で弱音を吐くなんて。それでも男かしら? 根性を叩き直してあげましょう』


 ものすごく怖い。うふふふ、と笑いながら殴り続ける少女が怖い。
 恐ろしくて体が震えてしまう。

「魔王様! 怒りをお静めください! 次はわたくしどもがフムスのかたきを……!」

 え、いや、僕は怒ってないよ? 怖いだけだから。
 そう言う前に、四天王の二人が部屋から出た。

「ご安心ください、魔王様。あの二人なら、必ずや成しげてくれるでしょう」

 いや、そういうのはいらないから!


 ……と、言えない僕はダメなヤツだ。



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