最強は聖女






「……はっ?」

 渾身こんしんの一撃だったのだろう。実際、拳に破壊力のある炎を込めていたのだから。
 だが、その炎を纏った正拳突きを、イヴは左手だけで受け止めた。
 火の四天王・イグニスは呆然とイヴを凝視するが、我に返った途端に突き出した拳を引こうとする。

 しかし、拳はイヴに掴まれたままだ。

 イヴの基本的な身体能力は、普通の女の子と同じ。そこに魔力を込めると、魔力の質と量によって身体能力が向上する。
 これまでイヴが目にも止まらぬ速さで地の四天王・フムスや魔獣を殴り飛ばしていた。それらを加味すると、魔力は四天王と同等。そこに精密な操作能力が加われば、力任せな魔族と雲泥うんでいの差が生じる。

 それを思い出した俺は、焦っていた自分が馬鹿らしく思えてきた。

「なっ!? き、貴様っ、その手を離せ!」
「嫌です」

 笑顔でバッサリ拒否したイヴは、少し落胆の色を表情に浮かべていた。

「最強の四天王と聞いて愉しみにしていましたのに……仕方ありません」
「何だと……がはっ」

 空いている右手でイグニスの鳩尾を殴る。
 岩をも砕くイヴの拳に、呆気なく膝をつく。

「少し小突いただけですのに、この体たらくとは。まあ、いいでしょう」

 そっとイグニスの肩に手を乗せて、にこりと笑う。

「その分、みっちり、遊んでさしあげましょう」

 ズルズルとイグニスを引き摺って森の方へ消えていくイヴ。
 直後、イグニスの悲痛な悲鳴が上がった。

「……最強は、イヴでいいんじゃないか?」

 最強の魔族ですら敵わない相手。それは勇者ではなく、聖女。

「俺の出番、結局無いのかな」

 あはは、と空笑いを漏らし、最後には盛大な溜息を吐いた。



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