ささやかな交流

 体育祭が終わり、10月が近づいてきた。

 10月と言えば、沢田君とリボーンの誕生日がある。先にリボーン、翌日が沢田君という順番だったはず。
 贈り物とか用意した方が……いや、ただのクラスメイトが何言っているんだか。
 友達になりたいのはやまやまだけど、巻き込まれて家族が危ない目に遭うのは嫌だ。

「天音ちゃん、今日は何を読んでいるの?」

 ……ヒロインと関わっている時点で無理かなぁ。

「ギャグコメディの学園もの。最近流行りの旅物語のスピンオフだよ」
「へえ。天音ってそういうものも読むんだ」
「面白ければ何でも読むよ。恋愛ものもダークファンタジーも、内容によって好きだし」
「むしろそっちの方がしっくりくる」

 京子に続いて花も会話に加わる。
 意外そうな花に言葉を返すと、彼女は興味津々で小説を覗き込む。

「あ、ちょうど挿絵が……え、銃? 学園ものだよね?」
「うん。学園に現れる魔物を倒すガンファイターな女子学生の物語だよ」
「……学園ものだよね?」
「作者が銃オタクだから」

 そう言って小説の登場人物を軽く紹介する。
 そして返ってきた反応は……。

「なにそれ、大丈夫なの?」
「カオスだよねー」

 唖然とする花にクスクスと笑いながら言えば、京子が目を輝かせた。

「おもしろそー!」
「え。あー……まずは旅物語から読むといいよ。本来の登場人物が学園ものでどれだけはっちゃけているのかわかるから。よければ今度持ってくるけど」
「じゃあお願い!」

 京子には早いと思って、まずは旅物語から勧める。
 これで時間を稼げたらいいんだけど……。

「面白そうな話だなー」

 その時、意外な人物が会話に加わった。
 沢田君の友達の一人であるイレギュラー、小津尋だ。

「三人とも、読書家?」
「私はそうでもないけど。天音の読む本はどれも面白そうだから、興味が湧くんだよね」

 花の評価に、なんだか嬉しくなって頬が緩む。
 読書仲間とまではいかなくても、共通の話題ができると嬉しいから。

「へえ! 読書の秋っていうし、オレも何か読もうかな。時和ちゃん、だっけ? なんかお勧めの本はない?」
「え。……んー。小津君はどういう本が好み?」
「少年漫画とか青年漫画だな。ギャグやコメディ系もいいけど、バトル系やシリアス系も好みだ。そういった小説も読むけど、漫画がほとんどだ」

 ギャグやコメディもありつつシリアスな漫画……といったら、あれかな。

 鞄に入れているメモ帳を取り出して、タイトルを書く。
 どれも人気作品でかさばるものだけど、かさばらない漫画も数点選ぶ。

「――これくらいかな? 特にこれはシリアスだけど、番外短編集の小説があって、ちょっとしたワンクッションが面白いの。こっちはバトルとシリアスが多分にあるけどコメディもある。楽曲から小説になった物語も、ぶっ飛んでいるものもあるし」
「へえ! 時和ちゃんってそっちの楽曲も聴くんだ! つーか小説とか出てたんだ」
「今年の6月から始まったばかりだけどね」
「マジか。帰りに本屋に行ってみるよ」

 いくつか紹介してあげれば、小津君はメモ用紙を受け取って、沢田君のところへ戻っていく。
 急に声をかけられてびっくりしたけれど、何とかやり過ごせてほっとした。
 その直後にチャイムが鳴り、ホームルームが始まったのだった。



◇  ◆  ◇  ◆



 あっという間に放課後になり、日直を終わらせて帰宅しようとしたところで担任教師から手伝いを任された。まぁ、仕方ない。日直だし。
 日直の男子は部活動があるから手伝わなかったけれど、まぁ、何とかなるでしょう。

「あ、あれ? 時和さん?」

 不意に、沢田君が声をかけた。顔を向ければ、沢田君以外に獄寺君、山本君、小津君までいた。

「何してるんだ?」
「プリントを綴じているの。日直だから先生に頼まれて」
「へえ……ん? もう一人の日直は?」
「部活があるらしいから、いないよ」

 答えると、質問してきた山本君が黒板を見る。明日の日直の名前に書き換えられているけれど、分かったようだ。

「……あいつ、部活に入ってなかったと思うぞ」
「えっ! てことは……」
「逃げたんスかね」

 沢田君が驚きの声を上げて、獄寺君が淡白に相槌を打つ。
 まぁ、そんな予感もしていたけど。知ったらなんだか腹が立ってきた。
 でも、いちいち腹を立てるのも疲れるから、深く息を吐く。

「まぁ、別にいいけど」
「いいのかよ」
「真面目にしない子なら余計に遅くなるだけじゃない。それに、ギスギスした空気は私も嫌だから」

 獄寺君に答えながらホッチキスでプリントを綴じる。
 そういえば、もう放課後なのにどうしているんだろう? ……あ。今日って体育があったっけ。

「あなた達は体育の後片付け?」
「おう」

 山本君が応えて、私は渋面を作る。

「押し付けられるなんて災難だね。お疲れ様」

 苦笑気味に顔を向けて言えば、沢田君は目を泳がせた。
 そして――

「あの……時和さん。手伝ってもいい?」
「え?」

 急な申し出に目を丸くする。

 ありがたいけど、いいのかな?

「疲れてない?」
「だ、大丈夫。それに、この前のお礼がまだだし!」

 慌てた様子で理由を言った沢田君に、首を傾げてしまう。
 すると、沢田君が付け足す。

「体育祭のときの……」
「……ああ。別にいいのに。でも……うーん…………じゃあ、プリントを束ねるの、お願いしてもいいかな?」
「う、うん。任せて」

 不器用な沢田君なら間違ったところへ留めそうだから、プリントを束ねる作業を頼む。
 あからさまにほっとした様子で隣の席の椅子を持ってきて、プリントを重ね始めた。

「じゅ、10代目。オレも手伝います!」
「んじゃ、オレはホッチキスで留める役で」
「だったらオレはプリントを束ねる役」

 獄寺君、山本君、小津君が行動に移し出した。

 え、何でお騒がせトリオ……じゃなくて、三人まで?
 沢田君を手伝うためだと思うけど……。

「ありがとう」

 でも、早く終わるのなら大歓迎だし、手伝ってくれるのは嬉しい。
 自然と笑顔が浮かんでお礼を言うと、沢田君は一瞬固まり、他の三人は目を丸くして私を凝視した。

「……? 私、変な顔してた?」
「やっ、そんなことない!」
「時和が笑うとこ初めて見たから……なんつーか……」

 沢田君が強く否定し、山本君が頬を引っ掻く。

 これでも笑っている方だけど……まぁ、作り笑顔は苦手だから、たぶんそれが原因かなぁ?

「あー……それより、さっさと終わらせよ」
「あ、うん」

 小津君に促され、沢田君が重ねてくれたプリントを綴じた。

「そういえば、獄寺君と小津君って一人暮らしなんだっけ」
「え。言ったっけ?」
「帰国子女でも、二人ってコンビニ弁当とかが多いでしょう?」

 なんとなく気になっていることを口にするけれど、手元はしっかり動かしている。
 作業をしながら会話するのは滅多にしないから苦手だけれど、ギスギスした空気がなくなるのならやってみる価値がある。
「よく見てるなぁ」と小津君が反応して、質問を続ける。

「自炊は?」
「夕飯ならするけど、朝は夕飯の残り物で片付けてる」
「それでも自炊できているんだ。偉いね」
「お……おう。まあ……」

 笑みを浮かべて褒めれば、小津君は動揺しながら呟く。

「獄寺君は? たまにコンビニで見かけるけど」
「んなっ!? て、てめえ……!」
「私だってコンビニでお菓子を買うこともあるからね。アイスもおいしいし。おすすめのアイスは何かな?」
「あ? あー……ハーゲン……って、いつ来たんだよ!」

 ハーゲンダッツかぁ。私も好きだなぁ。なんて思っていると、獄寺君は動揺から叫ぶ。

「休日。月に二回で、時間はまばらだから、気付かなくて仕方ないかも」

 小津君のプリントを綴じつつ答えれば、獄寺君は百面相になる。
 生活費のためにコンビニでアルバイトしているの、知識にもあるんだよね。

「沢田君と山本君は?」
「うちは母さんが作ってる」
「オレんちは親父が」

 沢田君の家は普通だけど、山本君の家にお母さんはいない。寿司屋だから、お父さんが作っているのは想像できる。

「確かお寿司屋さんだっけ。剛さんで合ってる?」
「おう。知ってるのか?」
「おじいちゃんと行くことがあって。純和風って感じで、頑固そうだけど気前がいいんだよね」
「おう! よくお裾分けとかしてるぜ」

「へえ、いいなぁ」と相槌を打ちながら作業を進めると、あっという間に終わりが近づいてきた。

 あと少し、と気合を入れて沢田君からプリントを受け取る。

「そ……そういうお前はどうなんだよ」

 すると、獄寺君が質問した。
 沢田君関連以外は踏み込まないのに、意外だ。

「私の家は、私が作ってるよ。両親は海外で働いているから」
「えっ、海外?」

「うん。いろいろ飛び回っているみたい。だから家にいるのは私と妹とおじいちゃんで、炊事洗濯のほとんどが私の仕事。たまに兄が帰ってくるけど、基本的に三人暮らし」

 沢田君が驚き声をあげたところで、最後の一束が終わった。

「――終わったぁ……。本当にありがとう」
「どういたしまして」

 気の抜けた顔ではにかめば、沢田君が言葉を返す。
 さて、あとは運ぶだけだ。

「っと……そうだ。お礼は何がいい?」

 何かお礼をした方がいいかな、なんて思って尋ねる。
 けれど、小津君が手をパタパタと横に振った。

「いや、別にいいよ。オレらはツナの手伝いだから」
「……そっか。お菓子ぐらい作るつもりだったけど……」
「やっぱお願いしやっす」

 思わず「ぷふっ」と笑ってしまう。
 変わり身が早すぎて面白かった。

「ふっ、ふふっ。うん、何がいい? クッキーとか、カップケーキとか」
「えーっと……んじゃ、ガトーショコラ」
「いいよ。沢田君達もそれでいい?」
「え! ……じゃ、いいかな?」

 沢田君が迷いながらおずおずと聞く。
 私は「うん」と頷いてプリントを持ち上げて、最後に教室に鍵をかける。

「今日はありがとう。じゃあ、また明日」
「うん。また明日」

 沢田君と挨拶を交わし、急いで職員室へ向かった。
 さて、夕飯とお礼のお菓子を作らなくちゃ。


 ――そして翌日。ガトーショコラのカップケーキを渡すと喜ばれた。
 もちろん、京子と花にもお裾分けするのだった。


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