謎と密やかな暗躍

 原作開始から一週間後の月曜日。
 今日は爆弾少年であり忠犬君こと獄寺隼人が転入してくる日だ。

 私はああいううるさい子は苦手を通り越して嫌いだ。落ち着きがない分、どう対処したらいいか解らないから。

「イタリアに留学していた転入生の獄寺隼人君だ」

 真ん中分けの銀髪は男にしてはやや長め。エメラルドグリーンの瞳は綺麗で、鋭い目付きによく似合う。ただし眉間にシワを作り険しい表情をしているせいで、少し怖い印象を与える。
 更に制服を着崩し、ネックレスや指輪といったシルバーのアクセサリーをジャラジャラ付けている。

 パッと見ただけで不良と認識される出で立ちだ。きっと上級生の不良から目を付けられるだろうなぁ。

「ちょ…かっこよくない〜?」
「帰国子女よ!」

 女子生徒の囁き声を聞いて、ちょっと引く。確かにイタリア人と日本人の血もあって美形の部類に入るけどさぁ。


 ――ガッ


「でっ!」

 思考の海から現実に戻したのは、獄寺隼人が沢田綱吉の机を蹴った後だった。

 これから彼等は相対あいたいする。そして、獄寺隼人は沢田綱吉を認めて部下にくだる。
 大変になるだろうなぁ……なんて呑気なことを思っていると、教師がぼやく。

「あともう一人転入生がいるんだが……遅いな」

 ……はい? え、他にもいるの? 原作通りじゃないって、まさか……。


「おっくれましたぁー」


 嫌な予感が過ったとき、間延びした声と共に少年が教室に入ってきた。

 青と銀のメッシュが右側にひと房ずつ入ったショートカットの黒髪。
 少しツリ目な大きな瞳は、夏空や湖水のような濃い青――紺碧こんぺき
 顔立ちは中性的な童顔でかわいらしくて、唇は桜色。
 身長は男にしては小柄な部類に入るだろうけど、沢田綱吉と同じくらい。
 男から見れば女、女から見れば男、という印象を持ちやすい美形だ。

 彼は……原作の登場人物にいない。
 きっと私と同じイレギュラーだと思っていると、美少年は自己紹介した。

「どちらかといえば都会寄りの地区から家の都合で引っ越してきた小津おずひろしだ。野郎はノーサンキュー、かといってうるさくてウザイ奴は地に沈めたくなるくらい嫌いだから。タイプはぶっちゃけカワイくて楽しい子? 楽しかったら何でも来いなオレは一匹狼を決め込みたいと思います。馴れ合いしたらぶっ殺す以上」

 ブッ飛んだ自己紹介に、一同唖然あぜん
 ていうか、すごい。ほぼノンブレスで一気に言い切ったよ。

 ぽかんとする私達を見て、小津尋は――

「ちなみに全部冗談だ」

 ニカッと笑って言い切った。
 この一言で生徒達は大爆笑。人気を集めるのが上手いようだ。
 小津尋の席は綱吉の右隣。偶然とは思えない現状に頭痛を覚える。

「よろしくな! えーと?」
「沢田綱吉だよ。みんなからツナって呼ばれてるけど……」
「んじゃ、ツナって呼ぶ。オレのことは尋でいいからな」

 ……あぁ、嫌な予感が……。



 この後、授業中だというのに爆発音が微かに聞こえた。
 沢田綱吉と獄寺隼人がいなかったから、きっと一方的な戦いになっているだろう。

 ……小津尋も教室にいなかったのは、一応記述きじゅつに残しておく。



◇  ◆  ◇  ◆



 翌日、先週に行ったテストが返ってきた。
 私のテストは数学と英語は満点だった。できれば国語も満点であって欲しかったな。
 続いて理科のテストが返ってくるのだが……。

「あくまで仮定の話だが……クラスで唯一20点台をとって平均点をいちじるしく下げた生徒がいるとしよう」

 学歴詐称野郎こと根津銅八郎のせいで気分はダダ下がりだ。

 根津は東大卒と豪語しているのに、実際は並盛中学校出身で、四流高校と五流大学の卒業生。しかも五流大学は8年もかけて卒業したらしい。
 自分も劣等生だったというのに劣等生をいびる。そんな陰険でいやしい奴だ。

「エリートコースを歩んできた私が推測するに、そういう奴は学歴社会において足をひっぱるお荷物にしかならない。そんなクズに生きている意味あるのかねぇ?」
「うわーーーっ」

 標的になっている沢田綱吉のテストの点数をわざと見せびらかした。

「見えた!」
「わ、26点!」
「やっぱダメツナか…」

 クラスメイトは口々に沢田綱吉を罵る。しかも、どっと遠慮なく笑っている。

 あぁ、もう……胸糞悪い。これを録音している私も最低だけど。


 ――ガラッ


 その時、教室の後ろの引き戸が開いた。
 入ってきたのは、転入生の獄寺隼人と小津尋。
 獄寺隼人はともかく、小津尋は時差ボケで遅刻したのかな?

「コラ! 遅刻だぞ!! 今ごろ登校してくるとはどういうつもりだ!!」
「ああ!?」

 獄寺隼人がギラッと鋭い視線でガンを飛ばすと、根津は青ざめて言葉を詰まらせる。
 対する小津尋は……。

「すんませーん。時差ボケで寝坊しましたー。ほら、オレと隼人、地域は違うけどイタリアに留学してたし」

 冷静にもっともな言い訳をした。態度はともかく、これは仕方のないことだからとがめられるいわれはないはず。

「おはよーーございます10代目!!」

 沢田綱吉に近づいた獄寺隼人が、直角90度の姿勢で挨拶した。心なしか瞳が輝いている。

「はよ、ツナ。顔色悪いけど、大丈夫か?」
「い、いや、その……」

 小津尋の心配に言葉を詰まらせる沢田綱吉。
 おそらく獄寺隼人と仲がいいということに抵抗感があって、周囲の声を否定したいのだろう。

「あくまで仮定の話だが、平気で遅刻してくる生徒がいるとしよう。そいつはまちがいなく落ちこぼれのクズとつるんでいる。なぜなら類は友を呼ぶからな」

 ……こいつ、一度地獄を見てもらいたい。
 一応準備はしてきたから、後で実行に移そう。

「おっさん、よく覚えとけ。10代目沢田さんへの侮辱ぶじょくはゆるさねえ!!!」

 そんな計画をしていると、獄寺隼人が根津の胸倉を掴み上げていた。

「あくまで仮定の話だと言ったはず…だ………っ、ガハァ」
「10代目、落とします? こいつ」
「おー、やってやれ。生徒をいじめる先生なんて、この学校にはいらねーし」

 声は明るくニコニコと笑っているけど、目は笑っていない小津尋。
 かなり怒っているな、これ。それに獄寺隼人も、本当に落とせばいいのに。



 ――放課後。
 教室で録音したボイスレコーダーと、お母さんから習った技術を用いて収集した根津の情報を「匿名の誰かから」という設定で持っていく。

「とはいえ……どう渡そうかなぁ」
「君、そんなところで何やってるの」

 校長室の前で考え込んでいると、抑揚よくようの欠ける平淡な声が聞こえた。
 顔を向ければ、げっ、と顔を歪めたくなるような人物がいた。


 形の良い黒髪に鋭いツリ目。端整な顔立ちとスリムな体型は、上流階級の人間を超越した美を持つ。
 そんな彼が羽織っている漆黒の学ランの左袖には、赤い布に金糸で『風紀』と刺繍された腕章が。

 風紀委員は旧制服の学ランを着て、髪型をリーゼントにセットした人が多い。
 けど、強面で屈強な風紀委員と違い、美少年は……彼らの頂点に立つ風紀委員長。


 雲雀恭弥。この世界の登場人物の一人。
 いずれボンゴレファミリーの雲の守護者となる、主役の中の一人。


 マジか。こんな時に遭遇するなんて……。
 でも、表面上では無表情を取り繕い、透明のファイルに入れている書類を見せた。

「クラスメイトが退学の危機なので、ついでに手助けしようかと」
「ついで?」
「はい。理科の教師が学歴詐称して生徒をはずかしめているので、刑務所送りにするためにこれを出そうと思って」

 そう言うと、雲雀恭弥はファイルを受け取って中身を取り出す。
 すると、みるみるうちに柳眉りゅうびを寄せ、眉間のしわが険しくなっていく。

「……これ、本当?」
「間違いないかと。学校の評判を落としている奴だから、この学校には必要ないので校長に出してきます」

 返してもらおうと手を出す。けど、雲雀恭弥はなかなか返してくれない。

「これは僕が預かる。証拠、揃えてくれてありがと」
「え? あ……はい」

 まさかお礼を言われるとは思わなかった。
 一瞬虚を突かれたけど、なんとか頷き返す。

「あ。あと、ボイスレコーダーもどうぞ」

 忘れかけていたボイスレコーダーを渡し、受け取って立ち去る雲雀恭弥を見送る。
 持ち物違反になってもおかしくないのに見逃してくれて、ほっと安心したのだった。



 後日、詐称野郎が全治半年の怪我を負い、刑務所送りになったと人伝ひとづてで聞いた。


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