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幼い未来の最強

 転生した過去の偉人・ジョットが、ホームステイで我が家に訪れた。
 まさか現代に転生したなんて、何かの陰謀いんぼうを感じてしまう。
 とはいえ一緒に生活する以上、余計な詮索せんさくはできない。というよりしたくない。

 今は邪念を払って、日本での勉強を教えてあげた。ついでにイタリアの学校の授業内容も教えてもらった。

「国によって授業内容も違うんだな」
「所変われば品変わるって言うからね」
「それは日本のことわざか?」
「うん。土地によって風俗習慣が違うって意味」

 ジョットは興味深そうに相槌あいづちを打ち、一、二年生の教科書と夏休みの課題を見る。

「夏休みの宿題、まだ残っているのか」
「美術と読書感想文を先にやったら、そうなっちゃって」
「美術と読書感想文? 見せてくれないか?」

 興味津々で頼んでくるジョットに、うっ、と言葉が詰まる。

「それはちょっと……」
「……ダメか?」

 ジョットに見せるには気恥ずかしいから拒否しようとした。
 けど、小動物のように眉を下げるジョットを見て、折れた。

 渋々しぶしぶ美術のポスターと読書感想文を見せると、彼は目をみはった。

「上手いな。これは……福祉か?」
「交通安全だよ。車椅子の横断者に気を付けてって」

 イラストはそれほど得意じゃないけど、写真を見ながらなんとか描けた。
 照れくさくなって熱くなったほおを引っ掻いた。

「祈里、そろそろ時間よ」
「あ、はーい」

 お母さんの声に返事して、出かける準備をする。

「どこかに行くのか?」
「うん、道場に。ほら、私のお父さんとお母さんって、一部の間では有名でしょう? だから護身術は身につけないといけなくて」

 ジョットは驚きから目を見開く。
 八歳児が護身術って相当なものだと自覚しているから苦笑してしまう。

「見に行ってもいいか?」
「え? いいけど、ひまにならないかなぁ……あ、お祖母ちゃんに体験を頼んでみる? 私のお祖母ちゃん、道場の師範代だから」

 目を丸くするジョット。
 老年の女性が師範代だなんて思わなかったのだろう。



 そんなこんなで道場に行くと、お祖母ちゃんから許可を貰えた。
 道着姿のジョットもカッコイイなんて驚いたけど。

「祈里。この子の相手をしてくれないか? うちの道場は初めてだけど、時々この子の家で稽古けいこをつけてあげていたから、実力はお墨付きだよ」

 お祖母ちゃんに頼まれた相手は、黒髪に黒い道着を着た男の子。
 身長は今の私と同じぐらいだけど、不機嫌そうな表情で幼く見える。

「えっと……神永祈里です。よろしくお願いします」
「……雲雀恭弥」

 ぽつりと名乗り返した男の子に、笑顔が固まる。

 どうして主要人物である雲雀恭弥が!? ていうかお祖母ちゃんが直々に稽古!?
 ……それなら手加減はいらないかな。相手は戦闘狂だし。

「まずは合気道から。始め!」

 お祖母ちゃんの合図で向かってきた雲雀恭弥。
 基本的に受け身な私にはありがたいことで、さっそく四方投げを決めた。

 ぽかん、とする雲雀恭弥の顔が見る見るうちに屈辱に染まり、次の試合でも攻撃を仕掛ける。
 冷静さはある。けど、少し力に頼りすぎている。

「今度は祈里から行きなさい。次は柔道だ」
「はい」

 お祖母ちゃんの指示で、今度は私から仕掛ける。
 床に倒れ伏したのは、雲雀恭弥。
 勝ち続けちゃっているけど、このままじゃあ敵視されるよね……?

「うーん……雲雀君、柔軟って得意?」
「……なにそれ」
「立ったまま床に手を付けるとか。こんな感じ」

 試しに床に手のひらを付けると、雲雀恭弥は目を丸くした。

「こういうのができたら、もっといい動きができると思うよ。私もお祖母ちゃんから武器の使い方を教えてもらうとき、柔軟もあった方がいいって言われたし」
「……ふぅん。君、トンファー使える?」
「ちょっとだけ」
「じゃあ、やろうよ」

 ……しまった。そういえばこの子はトンファーを得物にしているんだった。
 お祖母ちゃんにヘルプの視線を向けるが……。

「面白そうだね。やってみなさい」

 やりたくないよ!! ゴーサイン出さないで!!

 結局やることになって、トンファーでは互角に渡り合うことになった。

「祈里、大丈夫か?」

 休憩を挟んでいると、ジョットが心配そうに声をかけてきた。

「あはは……なんとか」
「それにしても強いな。あの投げ技は特に綺麗だった」
「あぁ、天地投げ? あれ、すごく難しいんだけど、うまくいってよかった」

 はにかんで言えば、ジョットは一瞬固まって、私の頭を撫でた。
 ジョットの優しい手つきに、体が弛緩しかんするほど心が癒された。

 少しの時間だけれど、やっぱりジョットの隣は落ち着く。
 そんな心地で、私は口元を緩めて笑った。



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